イマジン:第1部 はたらく/2 限界見えた男社会(その1)
毎日新聞 2012年12月31日 東京朝刊
◇女性が日本を救う
学歴、社歴、年功序列、終身雇用……。戦後、日本の男たちが連綿と築き上げてきた「常識」に背を向け、日本を離れる若者たちがいる一方、常識にあらがい苦しんでいるグループがいる。女性たちだ。
日本には「おきて」があった。高校や短大を出て職場で過ごした女性は結婚とともに、皆に祝福され退職する。労働契約書に一言も書かれていないのに、多くの女性が何一つ文句を言わず、おきてに従った。
東京の美容師、紀伊絵梨さん(28)は長男(2)を出産するまで、大きな美容室に勤務、毎晩、終電まで働いていた。1年後、常勤での復帰を目指したが、それはかなわず、今は週3日働く。「子供がいると働き方の選択肢は少なく、起業するしかない」と思い始めている。 夫と専業主婦の家庭は1980年に1114万世帯で、共働き家庭の倍近くを占めた。これが97年に逆転し、2010年には共働きが1012万世帯と、専業主婦家庭の797万世帯を大きく上回っている。
「いわゆる日本方式。税制から手当まですべて専業主婦を抱える男性正社員をモデルにしている。また再就職する女性は生活が支えられているのが前提で、夫を補助する程度の収入しか得られないようになっている」と欧州連合の労働法が専門の濱口桂一郎さんは言う。
経済の長期低迷とともに「女性活用」という言葉をよく耳にするようになった。生産年齢人口(15〜64歳)が減り続ける中、どうすれば今の経済規模を維持できるのか。そんな難問に国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が10月の来日時、こう応じた。「より多くの女性が働けば、日本の経済成長に大きな影響を与えるだろう」。つまり、女性が日本を救うということだ。
IMFのリポートは、女性の就業率を現在の6割から先進7カ国(G7)並みの7割に引き上げれば、1人当たりの国内総生産(GDP)が4〜5%伸びるとうたっている。