バスタブに温泉の素を注ぐとイケメン男子が、
さながらランプの精の如くボボンと現れてコミュニケーションが出来るという企画は
今から3年くらい前、朝風呂に入っているときに「ふと」思いついた。
内容も今の完成形と殆ど変わらないものだ。

しかし、この企画は僕の中だけでひねもす妄想しているだけで具体化しなかった。

昨年から今年にかけシンガーとギタリストは卒業すると決まり、
これでEM2も名存実亡になるのかと途方に暮れたある日、トホホな僕は神保町の
ひなびた飲食店で小説「恋するエクソシスト」の編集担当者としこたま飲んでいた。
何もリリースする物が無いレコードレーベルなんて色々な意味で
「もう終わったかな」と考えると普段なら旨い酒を煽っても、ちっとも味がしなかった。

気が付けば時間も過ぎ、店を去る時間になったくらいの時
「こんな企画ってどうか？」と、ふと温泉話を打ち明けてみた。
当時いろいろあって僕は僕自身の全てを失いかけていたので、
「まぁ、どうせダメだろう」くらいの気持ちで軽く企画を打ち明けた。

すると「そこまで完成している企画を何故やらないのか？」と編集者は言った。
それが後に「温泉擬人化」と名付けるものを動かす事になった本当の瞬間だ。

当初のアイディアはラスト、温泉息子たちと別れる際に聴き手が
バスタブの栓をスポンと抜いて葬らないといけないという、
今や20年以上も昔の名作ＳＦ映画「ターミネーター2」のラスト、溶鉱炉シーンばりのものだった。
今を思うとその残酷でおかしなバッド・エンディングにしなくて良かったが。
ともかく毎日気が付けば頭を垂れ地面ばかり見てトボトボ歩くようなテンションの僕は、
編集者の好感触に後押しされるように、その日は少しだけ前を見て帰った。



明けて翌日。ラストチャンスと考えEM2は僕1人で運営しているので
これ以上誰にも迷惑かからないだろう、と腹をくくってからは全てが早かった。

シナリオ制作は6～7年の付き合いがある会社とライターさん。
企画を理解してもらうのにそれほど時間を要さなかった。その次は制作会社探し。
ここも長い期間ドラマCD制作でお付き合いさせて頂いた制作会社。
過去に作って頂いたCD作品においてその高いクオリティと優れたディレクションには
目を見張るものがあった。これまた企画を理解してもらうのにそれほど時間を要さなかった。

さあ、最後はイラストレーターだ。

以前から「STORM LOVER」が大好きだった僕は、
その関連するCDでもお世話になっていたディースリー・パブリッシャーの担当者に
新規のオリジナルCDのイラストを氏にお願いする旨を道義的に一言伝え、
メールによる思いのたけを綴った企画に耳を傾けてくれた
お風呂ライフ好きの川人氏と直接会ったのはそれから、ほどなくの事。
東京は新宿の椿屋珈琲店でメンズ2人が女性向けCDの企画を
身振り手振りで熱く語り合うのは少々（かなり）滑稽だが、
この日全てバラバラだったパーツが揃った。

あれから月日は過ぎ、皆さんが今日現在までにお楽しみ頂いているものがその結晶です。

来年も、きっと再来年も、「あなたがお風呂で のぼせるCD」シリーズは
しつこく日本全国を紹介してまわります。
そして捜査室、エクソシスト、取調室など、とかく節操がないかもしれないけど、
僕の突飛な閃きや思いつきに付き合ってくれる制作陣や
あれほど迷惑かけながらも離れず今もなお身近に居てくれる関係者や
ご協力頂いているショップさんの義理人情と懐の広さに支えられ、
振り返るのもワリと好きだけど先を見つめる事を決めた新しいEM2 Recordは
これからも様々なものに挑戦していこうと思います。

皆様にも直接お会いして深く感謝を申し上げたいのですが、それはなかなか難しい。
しかし身の丈にあう「今のEM2らしい形で」可能な限り実現できる場を近々。


今年1年、誠に有難うございました。そして良いお年をお迎え下さい。

2012年12月31日
EM2 Record 代表 えむぞう

[8回]