J−SPORTSの解説、明治OBの砂村光信さんがハーフタイムのあいだ、学生時代の思い出を語っていた。早稲田に負けた翌日、学校へ行くと、同級生にボロクソに言われた、と。もともと両校の学生たちが熱心に応援した、対抗戦。野球の早慶戦は戦前、観客が熱狂しすぎるので中止になった時期さえあった。人が集まるイベントは、何かおもしろいことがあるんだろうなあ、と部外者の関心を惹く。これがスポーツだと、盛り上がりに誘引されて足を運んだ観客の中に、どちらかのチームを贔屓にする者が現われる。青春の思い出に浸るために、卒業後も対抗戦のスタンドに足を運ぶ元学生だっているだろう。こんなふうにして形成されたファン集団が家庭を持つと、今度は子供を連れて観に来る。すると、子供もファンになる。そのあいだにも、大学には毎年、新しい学生が入学してくる。観客数の変化を見ると先細り傾向を感じるとはいえ、好ましいサイクルができあがっているのはたしかだ。ファンが代を重ねる以上、伝統の1戦という表現に間違いはない。 早慶明の1戦が多数の観客を集める一方、TLの試合の観客数は芳しくない。奇妙といえば奇妙な現象で、この点を取り上げること自体は目のつけどころとして悪くはないが、批判するだけでは画竜点睛を欠く。批判する側の論理――20代前半の選手の成長を妨げているのは大学ラグビーの構造に原因があり、人気があるから強固な構造ができあがる、だから人気を批判する――というのは一応筋が通っているものの、あまり建設的ではない。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ それよりも、ラグビーに首都圏で2、3万人の観客を集める力があることに希望を持ったうえで、早慶明のカードに観客が集まる理由を考察するほうがいい。先に記したように、ファンが生み出されるサイクルができあがっている。TLも、このサイクルを作ればよいのだ。 他スポーツを見渡すと、ファンを生み出すために新規参入者が採る方法は、JリーグやBjリーグに見られるような地域密着である。経営的に苦しいチームもあるものの、地元のチームを応援しようという理由があって、やがてそこからファンが代を重ねる伝統が生まれる。プロ野球でも、王、長嶋というスター誕生と、全国を統括するメディアの力によって磐石となった巨人を中心とするセリーグの人気にパリーグが対抗、スタジアムが活気づくには、老舗球団が身売りした先の新オーナーが本拠地をセリーグ空白の地へ移して地域密着を図るまで、待たなければならなかった。 総合的に考えると、TLが観客動員に苦しむのも必然的に思えてくる。ただでさえ試合数が少ないのに、ホームの試合が地元と遠く離れた土地でおこなわれていることも珍しくなく、チーム名も企業名だ。ヤマハやトヨタ、近鉄、神戸製鋼のように地元に馴染み深い企業名もあるけれど、TLのファン獲得戦略はかなり弱い、といわざるをえない。早慶明と同様の、帰属者(TLの場合は会社の人)の熱心な応援が一般の人々を引き連れてくるというパターンは、もし成立するのならとっくの昔にできあがっていて、TLのいくつかのカードは、伝統の1戦としてもっと注目されているだろう。また、サッカーの女子日本代表がW杯で優勝して一躍シンデレラ、なでしこリーグのスタジアムが大賑わいになったような効果を期待するには、ラグビー日本代表にとって、世界の壁が厚い。当座の目標であるW杯ベスト8進出が起爆剤となるかどうかはいささか疑問で、瞬間沸騰的な人気を呼ぶには、決勝トーナメントでどんな内容を示すか、による。私見だが、かつてラグビーにブームと呼ばれた時代があった分、TLを創設するにあたって、協会側に新規参入という意識はなかったと思う。社会人リーグを統合すれば人気が出るのではないか、と鷹揚に構えていた可能性が大だ。余談になるけれども、ここで、ブームとはファンが代を重ねない人気のことである、ということができよう。 「ラグビーの逆襲」(言視舎刊)で、著者の木部克彦さんが書いていた。広い意味でのラグビー人口を拡大するには「見る専門」のファンを増やさなくてはならない、と。他のメジャースポーツに目を向ければ当然のことで、その足がかりとなるのはTLの地域密着だと思う。ホームの試合は必ず地元でおこなうこと。こう書くと、TLの試合を直に観られない地方が不公平だという意見が出るだろうけど、それは人気が沸騰してから検討すべき話だし、個人的な感想を述べさせてもらえば、安っぽい平等主義だと思う。本当の平等主義者なら、関東に偏っているホームを地方に分散するほうへ議論を進めていくはず。しかし、そこが企業スポーツの難しいところ。社員選手の勤務地等の関係で、ホームを地方へかんたんには移せない現状がある。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ スタジアムで場内アナウンスを担当する女の子はどんなお顔をしているのか、気にかけた経験のある人もいると思う。僕が今、いちばん興味津々なのはプロ野球、千葉ロッテマリーンズの本拠地、QVCマリンスタジアムの場内アナウンスのお姉さん。 「バッターは、今江〜〜↑」 文字と記号ではうまくニュアンスが伝わらないかもしれないが、語尾を上げ、乗り込んだ列車からどこかへ行ってしまうような感じで、選手の名前を読み上げる。独特の調子が、いい感じだ。このアクセントを考えついた人は偉い。ただし、ビジターチームの選手の名前を紹介するときは、他球場のアナウンスと同じく、これといった特徴のない、ふつうの発声になる。 先日、関西の大学の試合を観に行ったとき、場内アナウンスを担当する女の子たちのお顔を拝見する機会があった。彼女たちはどんな女の子なのだろう、と気になっている人がいるかもしれない。美人さん揃いですよ、と報告しておく。お世辞抜きで。 ところが僕はそのとき、とんでもない選手のことを思い出してしまった。8月、ジャパンとのテストマッチで先発したイタリアのSO、リカルド・ボッキーノ選手。 彼がTLに入ったら、この子たちもボッキーノって言わされちゃうのか。 正直な話、こういうのは発想した瞬間、自己嫌悪に陥る。プレーヤーの中にも、試合中はイマイチなのに、こっち方面のリアクションスピードとひらめきなら代表クラス、と自負する人がいることだろう。 ボッキーノ選手はW杯にも出場した。アイルランド戦の後半に登場、SEXTON(ジョナサン・セクストン)選手とのマッチアップが「ラグビーコーチ修行中」の『前半開始10分のウォーターブレイク(5)』でも話題になっていた(と、他人を仲間に引きずり込んでみる)。立ってプレーする意識が高い、とか、元気一杯のボッキーノ、などという実況が入らないかなあ、と思いながら観ていた。サントリーのトゥシ・ピシ選手みたいにランプレーで鮮やかに裏へ抜けた日には、障子を突き破るようなアタック、で決まりだ。ボッキーノ選手が来日すると、ファンは当然、漢字を当てたプラカードを掲げて応援する。勃起威能、あるいは勃起偉能。これが勃起萎能だったら、たくましいのか頼りないのか、わからない、というネタは過去にも書いた。何かの記念で花束を贈呈するときは、青汁の原料にも使用されるセリ科シシウド属の薬草、アシタバをぜひ添えたい。アシタバは、チンタチソウという別名を持つ。ボッキーノ選手にぴったりではないか。 あっ、そういえば、関西でおこなわれるTLの場内アナウンスは、DJ風の男性の声だったっけ。……そこで僕は、目が覚めた。 ただ、もしボッキーノ選手がTLへ入った場合、登録名を変更させられる可能性がある。スペルのBocchinoをローマ字読みした「ボッチーノ」あたりが最有力。このような例はスポーツ界に多々あり、1962年、大毎オリオンズ(現在の千葉ロッテマリーンズ)に入団したマンコビッチ選手の登録名がマニーになったのが、代表的だ。ちなみに、日本へ来ると笑われてしまいそうな名前にまつわる話は、奥田英朗さんのスポーツエッセイ集「延長戦に入りました」(幻冬舎文庫)の『スポーツの国際化と名前の困惑』に詳しい。 にほんブログ村 |
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おはようございます〜。 |
クラッシックラガー 2011/12/17 07:30 |
大学選手権が明日から始まります。なぎさ亭さんのMLを楽しみに致しております。 的確で力強いコメントと文章力は藤島大さんクラスです。 |
ひょうたんやま 2011/12/17 12:33 |
クラシックラガーさん、コメントありがとうございます。 |
なぎさ 2011/12/18 17:22 |
ひょうたんやまさん、コメントありがとうございます。 |
なぎさ 2011/12/18 17:37 |
おはようございます。 私の予想は間違ってました。 慶応を流通経済に勝ちましたので、天理の次戦は慶応です。 関西の5校は来年全て1回戦勝ちでお願いします。 今回は外国人留学生の多いチーム負けました。 ラクビーはパワーだけではありません。 チームワークですね。 |
ひょうたんやま 2011/12/19 07:26 |
ひょうたんやまさん、コメントありがとうございます。 |
なぎさ 2011/12/19 23:49 |
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