それまでは業務用機器だった電卓を、1人1台のパーソナル機器として一般家庭のなかへ急速に浸透させたカシオミニ。それは「電卓革命」をもたらした画期的な製品だった。
サイズは、その頃主流であった電卓の4分の1以下。さらに価格は3分の1程度の1万2800円まで下げ、人々にとってセンセーショナルなニュースとなった。横長に走る数字のディスプレイ、そして丸型の数字ボタンが並ぶテンキー部分。計算機械というより、身近な道具というような愛着のわくデザインが特徴的である。
設計・仕様・材料においては、すべて根本から見直し、多くの部品に新技術が盛り込まれ、部品点数も極限まで絞り込んだ。演算素子(加算・減算などを行う回路)には、集積度の高いLSIを採用。蛍光表示管のディスプレイは6桁で、表示を切り替えることによって、12桁までの計算と小数点以下6桁の表示を可能にした。キースイッチには、現代の電卓のスタンダードでもあるパネルスイッチをさきがけて開発。手のひらサイズと低価格を実現したことで、カシオミニは爆発的にヒットし、発売後10ヶ月で 100万台、シリーズ累計で1000万台を売り上げ、マーケットに一大旋風を巻き起こす。世の中の誰もが、電卓で手軽に計算できるという文化を創造したといっても過言ではないだろう。
カシオミニとは、既成概念にとらわれないカシオの独創的なものづくり精神と、それを具現化し全く新しい製品を生み出す高度な技術力が結実した証なのである。
国立科学博物館には、科学技術の発達史上重要な成果を示し、次世代に継承するべき重要な意義を持ち、国民生活、経済、社会、文化の在り方に顕著な影響を与えた科学技術史資料を「重要科学技術資料(愛称:未来技術遺産)」として登録する制度があります。その栄えある第1回(2008年10月10日実施・23点選定)にカシオミニが登録されました。科学史においてもカシオミニは記念碑的製品なのです。