カシオミニは家庭や個人を対象に開発した、手のひらサイズの画期的な電卓です。それまでの電卓の4分の1以下のサイズと、1万2800円という3分の1以下の価格を実現し、大ヒット商品となりました。誰もが口ずさんだ「答一発、カシオミニ」というCMも人気の追い風となり、当初月産10万台だった生産計画が、予想を上回る大量注文を受けて20万台になったことを覚えています。カシオミニシリーズは累計1000万台以上を売り上げました。爆発的なヒットの要因は、カシオの独創的な開発思想とそれを実現した高度な技術力です。くわえて、全国3万もの文具店における販売ルートを構築したことにあります。業務用ではなく、個人用として身近な町の文具店で大量に売れたカシオミニは、BtoBからBtoCへと、電卓の流通に変革をもたらした商品でもあるわけです。
カシオミニが生まれたきっかけは、いたってシンプル。1970年代はボウリングが大流行しており、わたしたちも熱中したものです。しかし、いざスコア計算となるとこれが面倒。「4桁でいいからポケットに入って、気軽にボウリング場に持っていける電卓があると便利だ」という思いがきっかけでした。そこから、開発担当者はこう発想したのです。当時主流だった8桁の電卓には、4個のLSIが使われている。それを4桁にすればLSIを1個にでき、ポケットサイズに近い、安価な電卓を作ることができるのではと。しかし、当時の市場環境から、個人用としては99万円まで計算できることが望ましいという判断のもと、技術的な試行錯誤を重ねました。その結果、1個のLSIで6桁の計算を実現。くわえて、小数点以下の入力は個人の金額計算には必要ないだろうと考え、機能を省くなどの決断も下しました。さらにキーボードには、一つひとつのボタンが独立していた従来の磁石式のリードスイッチではなく、1枚板のパネルスイッチを採用することで、スイッチ部分のコストも従来の20分の1まで抑えました。このように新しい試みに果敢に挑戦し続けた努力の結晶が、カシオミニです。
開発にあたっては、『8桁の電卓が主流の時代に6桁の電卓なんて売れるわけがない』といった意見が出ることも想定していました。そのため、極秘プロジェクトとして進めていたのです。ようやく試作品が完成し、開発の後押しをした当時の営業責任者、樫尾和雄(現・代表取締役社長)に見せたところ、「これはいけるぞ、俺はこれが欲しかったんだ。よくやってくれた」と大変喜び、営業部門も本腰を入れて販売する体制を固めました。満を持して迎えた製品発表日には、カシオミニの斬新な発想、卓越した技術力、常識破りの価格に、多くの報道関係者から驚きと称賛の声をいただきました。
カシオでは、常識にとらわれない独創的な発想を、先進の技術で実現させる、0から1を創造するものづくりの思想を掲げており、これはカシオミニをはじめ、すべての製品に一貫しています。
カシオミニは、電卓は業務用で使うものという当時の概念を大きく変え、誰もが手軽に計算できるという文化を創造しました。
いわば電卓の歴史を変えたパイオニアなのです。