被災者目線で町民つなぐ 女性1人で全工程の岩手「大槌新聞」
産経新聞 12月31日(月)7時55分配信
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大槌新聞「新年号」を掲げる高田由貴子さん。「再スタートに本当に必要な情報を選んで伝えたい」と思いを込める=岩手県大槌町(写真:産経新聞) |
■発刊半年 「不安取り除く薬に」
東日本大震災の被災地で必要とされる情報を住民目線で伝えようと、岩手県大槌(おおつち)町で6月に立ち上がった「大槌新聞」が発刊から半年を迎えた。「町民をつなげる新聞に成長させたい」。たった1人で取材から配布までの全工程を担う高田由貴子さん(38)は、思いを新たにする。(渡辺陽子)
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報道に興味はなかった高田さんが新聞づくりを始めた原点は、大津波襲来直後の情報不足だった。
内陸部の自宅や親類は無事だったが、電気などのライフラインは復旧せず、地元が今どうなっているのかすら、まったく分からない状況。不安ばかりが募る中で、いち早く復旧した情報源が新聞だった。
高田さんは、自転車で避難所を回り、避難者らが読み終わった新聞の束をリュックサックに詰めて自宅に持ち帰り、「むさぼるように読んだ」という。
当初は、紙面に町の情報が載ることがうれしかったが、地元紙は被災。被災者ではない記者の目を通しての情報に、次第に悔しさがこみ上げるようになった。
紙面を開くと、個人のインタビューやイベントの告知などが並び、復興計画やまちづくりの状況といった住民が切実に知りたい情報はなかなか掲載されない。
高田さんは「被災の現状を明るく取り繕うような記事がほとんどで、町民は流言で混乱し、復興の機運が盛り上がるはずもない。町民目線の媒体がほしい」と危機感を募らせ、大槌新聞をつくり始めた。
新聞は、A3判両面刷り2ページ。企業などの広告が収入源で、町民は無料のフリーペーパー(町民以外は100円)。毎週月曜に3千部を発行し、町内の全ての仮設住宅に行き渡るように自らが配布する。
高齢者にも読みやすいように大きめの文字で写真も増やし、親しみがわくようにと「ですます調」でつづる。また、表現や制度の仕組みが難解な復興計画やまちづくりの現状を地域別に区切るなどし、分かりやすく解説。住民に正確な町の現状を知ってもらうことを目標にしている。
“新年号”は1月7日に発行する予定だという。初日の出や初売りで紙面を彩ることもできたが、結局、町内に建設される復興公営住宅の間取りを知らせる通常の紙面に落ち着かせた。
被災者が普通の正月が過ごせるまでには、まだまだ時間がかかると実感。「表面的なお祭り騒ぎはもうたくさん」という声が聞こえてきそうだったからだという。高田さんは「正確な情報こそが不安を取り除く薬でもある」と言い切る。
住民協力が不可欠のまちづくり。被災者が必要な情報を得られる“内向け報道”の充実は、復興の足がかりになる。
今後は地域紙として根付かせるため、災害FMなどとの連携を模索。「大丈夫、私たちが守る。きっとなんとかしてあげる」。高田さんは紙面を通じ、傷ついた故郷に呼びかけ続けている。
最終更新:12月31日(月)9時4分