これまでを振り返って

崇徳上皇の最期の日の収録は、衣装、表情もめまぐるしく変わる大変な作業でしたね。

壮絶な一日でした。こんなことはそうそうないです。今までの中で一番と言っていい位、魂を使い充実した一日でした。収録は、ほんとに朝から(翌日の)朝までになりましたね…。僕自身の思いですが、振り返ると「大河史上初、あそこまでの表現をやってしまった」回だったな…というか。大河史の中に違った歴史を刻んだな…みたいな(笑)

多分視聴者の方は変身ぶりにびっくりしていると思います。

いや、一番自分がびっくりしています。いつもですと本番前に何度かここにきて…まずは打合せ、次は実際に扮装して見て、三度目はその扮装をより詰めて、というような時間をかけさせてもらったのですけど。

最後の回は、リハーサルをしませんでした。その分扮装に時間をかけて、ずっと頭でイメージしてきたものをとにかく現場で一気に出す、というライブ方式でした。何をやる、っていうのは正直全然決めていない中で、木丸殿やそこにあるもの、空間を見てからやっていくことを決めたんです。気持ちのままに演じさせて頂きました。

いつもと違う方法で、緊張しませんでしたか?

逆ですね。今までやってきた撮影の中で一番変な緊張がなく、ワクワク感で一杯でした。今日はほぼひとり芝居みたいな状況だったので、やりたい放題やらせて頂きました。中島(由貴)監督は女性ならではのまなざしで、心の芝居をとても大切に演出してくれます。今日のように扮装がプラスされていく時は気分も乗ってしまい、表現が派手になってしまうんですが、それをやってしまうと芝居が(駄目になる)というところを冷静に見て下さるんですよ。

白峯御陵をお参りされた際に、崇徳上皇とお話しをされたとおっしゃっていましたが、その内容を教えて下さい。

今日(自分が思っている演技が)できなかったら言えないな…と思っていたんですが、現場の空気感と演じきった高揚感や達成感があるので言ってもいいかな…。

「恐れ多いことですが僕が生まれた理由は、数百年の時を越えて、あなた(崇徳院)を安らかな眠りに、極楽浄土へ導くためだと思います。このドラマで崇徳院を演じるのも凄い縁で、前からあなたの存在を知っていました。必ずドラマの世界の中で当時あなたが出来なかったことを…もしかしたらあなたが求めていた『死に様』というものを自分が代わりにやります。それまで見守っていて下さい。撮影が終わってたくさんの方が見て下さった時、崇徳院というあなたの存在が、たくさんの人の思いを受けて、絶対に安らぎの世界へ行けるはずですから。僕がそのきっかけをつくりますから見守っていて下さい。」というお話をしたんです。

これまで歴史上、みんな崇徳院の御霊を自分の勝手な都合で引きずり出して、利用してきたと思います。安らかに眠る事も出来ず、死んでもなお働かされてきたと思うんです。僕はそれが正直悲しくて。憤死だろうが柳田での暗殺だろうが、どちらにしても無念の亡くなり方をされているのは間違いありません。その上死んでもまだ引っ張り出されて怨霊とされたり、御霊を移動させられたりして。いつまでたってもそういう扱い方をされて。

崇徳院の最期を演じるために、今までのシーンがあったんです。ここに向かってきていたので。ただ単に悲しいだけの男にしたくなかったし、やってきたことが結実されるためにずっとあったことなんです。本当にそれくらいの思いをもって演じられる役柄っていうのはそうそうないです、普通以上の想いと力で向き合っていました。

一人の役をこんなに長く(およそ9カ月に渡り)関わることもないですよね?

確かに。でも、もっと長い時間清盛を演じている松山ケンイチ君はきっと物凄い経験でしょう、羨ましいです。1年かけてひとりを生きる、諸先輩方が多い現場で座長としていることは大変ですよ。そう考えると僕の崇徳院はまだまだでしょうが、日数では測れないまた違う自分なりの背負い方…しましたけどね…(笑)。

井浦新さんに「崇徳上皇ゆかりの地・香川県でサイトを立ち上げるので協力して下さい」という無謀なお願いをして早9ヶ月が過ぎました。オファーした時からとても協力的で、役に対する真摯な姿勢そして歴史・美術を愛する情熱が感じられる方だと思いました。一話一話、どんな細かいことを伺っても嫌な顔もせず丁寧に解説して下さるんです。「高松局がそこまで頑張るなら、負けられない!と途中から思い始めた…」と笑いを交えお話して下さったのが印象的でした。中途半端なことはしない、真正面から向かい合う相手と全力で仕事をする方なのでしょう。それは趣味にも言えて、少年のように全力で遊ぶ計画もされるようで。一緒にいてとてもすがすがしい、この人のように生きられたらと思わせる方だと感じました。 長いようで短かった9カ月、本当にお世話になりました。今後の御活躍が本当に楽しみです。

ページトップへ