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2012年12月31日(月)付

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年金の周知度―利点を知らせる工夫を

障害年金をご存じだろうか。重い障害を負った場合、月約6万5千〜8万2千円が一生受け取れる制度だ。若者でも実感できる国民年金加入の大きなメリットである。[記事全文]

農業政策―もうバラマキはやめよ

限られた予算を有効に使い、経営規模を大きくし、競争力を高めていく――。日本の農業の課題ははっきりしている。焦点は、民主党政権が導入した戸別所得補償の見直しだ。[記事全文]

年金の周知度―利点を知らせる工夫を

 障害年金をご存じだろうか。

 重い障害を負った場合、月約6万5千〜8万2千円が一生受け取れる制度だ。若者でも実感できる国民年金加入の大きなメリットである。

 ところが、厚生労働省の最新の実態調査によると、「知っている」のは54.1%で、6年前より5ポイントほど減った。

 そもそも国民年金の半分は税でまかなわれる。民間保険ではありえない「お得な制度」だが、こちらは33.4%しか知らず、6年前から7ポイント低下した。

 再来年からの消費増税のうち約1%分は年金に投じられる。もし、無年金になれば、税の払い損になってしまう。

 一方、国民年金の未納者(保険料を2年間、全く納めていない人)のうち、民間の個人年金に入っている人が8.6%もいて、月平均で1万4千円の保険料を払っている。国民年金の1万5千円と、ほぼ同じだ。

 こうした不合理な行動が起きるのは、制度を周知させる努力が足りなかったからだ。

 国民年金の被保険者のうち、未納者(455万人)の割合が過去最高の26.2%に達した背景にも、年金への認識不足があろう。仕組みについて、広報や教育など地道な仕事を軽視してきたツケである。

 民主党政権は、事業仕分けで年金の広報・教育の予算(09年度で約3億4千万円)を廃止した。削りっぱなしではなく、内容の改善を促すべきだった。

 二つのルートで取り組みを強化してはどうか。

 まずは、市町村との連携強化である。年金事務所よりも住民にとって身近であり、所得情報を活用して所得の低い人には保険料の免除を勧めるなど、効果的な対策がとれる。むろん、個人情報の保護には細心の注意が必要だ。

 市町村にとってもプラス効果がある。無年金や低年金の住民が減れば、生活保護の財政負担も減るからだ。

 3年後には、年金受給に必要な加入期間が25年から10年に短縮される。この周知や相談態勢の整備にも、市町村の力を借りる必要があろう。

 もう一つのルートは、学校教育だ。若者の間では非正規雇用が増えている。企業が様々な社会保障の手続きをしてくれる正社員よりも、自分の身を守る意識と知識が必要になる。

 学校現場は忙しいが、教え子を無防備のまま社会に送り出すことは避けたいはずだ。

 年金制度を維持していくために、政府全体で取り組むべき課題である。

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農業政策―もうバラマキはやめよ

 限られた予算を有効に使い、経営規模を大きくし、競争力を高めていく――。日本の農業の課題ははっきりしている。

 焦点は、民主党政権が導入した戸別所得補償の見直しだ。

 とくに、米作について一定の条件を満たせば、零細・兼業を含むすべての農家を支払い対象とする仕組みである。田を貸したり譲ったりする動きにブレーキをかけ、規模拡大への妨げになっている。

 自民党は「バラマキだ」と厳しく批判してきたが、どうも雲行きが怪しい。

 総選挙での公約と政策集には次のような文言が並ぶ。

 政権交代後、大幅に削減された予算を復活させる▼農地を農地として維持することに対価を支払う日本型直接支払いの仕組みを法制化する▼コメに加えて麦、大豆、畜産、野菜、果樹など、多様な担い手の経営全体を支える……

 民主党政権が切り込んだ農業関係の公共事業費を元に戻し、農家への支払いはさらに手厚くする、ということか。

 自公政権は07年、すべての農家へ品目別に支払ってきた補助金を改め、1戸あたり4ヘクタール以上(北海道は10ヘクタール以上)の農家に絞って所得補償する制度を導入した。農業の大規模化をめざし、「戦後農政の大転換」と言われた改革だ。

 しかし、農業関係者の反発にあい、同年の参院選で敗北する一因となった。その後、制度は骨抜きになっていく。

 09年には当時の石破農水相が生産調整(減反)の義務づけをゆるめる「減反選択制」に意欲を見せたが、党内や農協の反対で断念した。この年の総選挙で惨敗し、政権を明け渡した。

 今回の公約は、農業票を強く意識した結果だろう。しかし、わが国の財政に大盤振る舞いする余裕はない。バラマキが農業の体質を一層弱めかねない危うさは、自民党が最もよくわかっているはずだ。

 民主党政権は、コメ農家などの経営規模を20〜30ヘクタールと現状の10倍程度に広げる目標を打ち出した。農林漁業に加工と販売を組み合わせる「6次産業化」推進のためのファンドや、新規就農者に年150万円を出す給付金制度も立ち上げた。

 大規模化への障害は何か。ファンドや給付金は一時的なバラマキに終わらないか。これらの点検も必要だ。

 選挙のたびのバラマキ合戦に終止符を打ち、農業の再生に必要な政策を練り直す。「責任政党」を自覚するなら、まっとうな姿勢を見せてほしい。

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