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政策研究

政党と政党リーダーの評価vol.01

更新日:07/11/21

 この東京財団ウェブサイトで筆者は、7月から8月にかけて参院選調査報告と題し計8回の報告を行ってきた。今回の報告より、これを「データで見る日本の政党政治の現在」と改題し、東京財団政治意識調査を含む各種データを用いた現代日本政治分析を展開する場としたい。今後、月2回程度のペースで報告を重ねていく予定である。
 今回は、政党と政党のリーダーに対する有権者の評価を題材とする。参院選後のここ数ヶ月の間、われわれは政党のリーダーについていろいろと考えさせられる出来事が頻発した。今回の分析で見るのはそれよりも前、今年5月末時点のデータであるが、昨今の政局も念頭に、分析を進める。
 今回の報告の要点をまとめると、次のようになる。
・小泉純一郎の評価は高く、安倍、小沢など他の政治家は似たり寄ったりの評価である。
・小泉純一郎に対する好き嫌いは他の政治家に比較してはっきりしている。一方、民主党に対する好き嫌いは明確ではない。
・小沢一郎は与党支持者からの評価は低く、小沢が旧来の自民党支持層に食い込んだ、というような言説は適切ではない。
・小泉は若年層での人気が高く、民主党は高齢層で評価が高い。
・小泉は公共事業に反対の有権者からも好かれており、自民党、安倍、麻生とは傾向が異なる。
・自民党と自民党の政治家は、リベラルな傾向の新聞を購読しているほど評価が低い傾向にあるが、民主党と民主党の政治家については購読新聞にほぼ関係なく同じような評価となっている。

 なお、今回の報告で用いるネット調査の概要等に関しては、参院選調査報告Vol.1を参照されたい。

1.基礎データ

東京財団政治意識調査では、有権者の政党や政党リーダーに対する評価を「感情温度」によって測っている。ここでこのデータについて改めて説明しておく。
感情温度は、以下のような質問により、0から100の数値で回答を得ている。


次の政党や政治家に対し、好意的な気持ちを持っていますか。それとも反感を持っていますか。(半角数字)好意も反感も持たないときは50度、好意的な気持ちがあれば、その強さに応じて51度から100度、また、反感を感じていれば、49度から0度のどこかの数字で答えてください。

 東京財団調査の計3回の調査では、第1回と第3回にこの質問を入れている。第1回では、自民党、民主党、公明党、共産党、社民党、安倍晋三、麻生太郎、小泉純一郎、小沢一郎、菅直人という5つの政党、5人の政治家について感情温度を測っている。第3回では、質問数の制限のため麻生と菅を除き、5つの政党、3人の政治家について聞いている。今回の報告では、主に選挙運動が本格化する前の第1回調査結果を用い、自民党、民主党と、両党の政治家5人の感情温度について分析していく。


 表1は、2党5人の感情温度の基礎データをまとめたものである。図1はこのうち感情温度の分布について折れ線グラフで示したものである。
 表1の感情温度の平均を見ると、民主党が最も高く、小沢一郎が最も低いという結果となっている。この中で2番目に平均が高い小泉については、平均が高いだけでなく、標準偏差も大きいという特徴が見られる。好きでも嫌いでもないという50度の割合が15%と最も低く、0度から24度、76度から100度という両端の割合が高い。これらのことから、小泉純一郎は、好き嫌いが分かれる政治家であることがわかる。小泉以上に平均の高い民主党が、逆に標準偏差が小さく、50度近辺に固まっているのとは大きな違いである。民主党のこの「どちらとも言えない」評価は、嫌われていないという点からは強みだが、強固な支持層を持たず、ちょっとした「風」で支持や得票が上下するという同党の脆弱な立場を示すものでもある。また、政党リーダーに比較して政党の評価が先行しているのも民主党の特徴である。
 小泉以外の4人の政治家の平均、標準偏差、分布において、大きな違いが見られない。ただしこれは全体的に見てであり、回答者の属性や政治意識によって異なる様相を見せる。






2.支持政党別感情温度


 図2は、支持政党別に2党5政治家の感情温度平均を示したグラフである。ここから特徴的な点を指摘していく。
 まず自民党と自民党政治家3人について見ると、小泉が自民党、公明党両党支持者で同じくらいに好かれているのに対して、自民党、安倍、麻生は自民党支持者ほどに公明党支持者から好かれてはいない。これは、小泉が公明党支持者からも好かれているとも、自民党支持者からはそれほど好かれていないとも言える。安倍と比較すると、小泉が最も差をつけているのは公明党であり、次が無党派層である。一方、野党支持層からは、自民党の政治家は同程度の感情温度である。




 民主党に目を向けると、小沢と菅の支持政党別好感度が自民党支持者、公明党支持者、無党派層、民主党支持者では同程度であり、社民党支持者、共産党支持者では菅が好かれているという点が面白い。自民党出身の小沢は保守層からより好かれていると考えられがちであり、実際、今回の参院選の民主党の勝因として保守層での小沢人気も一部で指摘された。しかし今回のネット調査のデータでは、与党支持層は小沢をそれほど好いておらず、保守層の小沢人気のような言説は先入観による印象論である可能性が高い。一方で菅は、民主党よりも左側の層で受けがよい。選挙協力を考えた場合、小沢よりも菅のほうが社民党支持者を動員しやすいかもしれない。もっとも、共産党、社民党の支持層は合わせても1割にも満たないことから、戦略的には無党派層に食い込むことを重視したほうがよいだろう。

3.年代別感情温度


 図3は、年代別に感情温度を見たものである。まず特徴的なのが、小泉の若年層での好感度の高さである。一方、民主党は高齢者層のほうがより好感度が高い。参院選調査報告Vol.4で論じたように、5月末時点での安倍内閣、自民党の支持率の下落は、若年層の離反によるものだと考えられる。安倍政権は、小泉時代に獲得した若者の支持を失い、高齢者層でも民主党に押されていたのである。
 他には、麻生が20代で安倍よりも好かれているということがわかる。しかし、「若者に人気」と報道等で頻繁に言われている印象とは異なり、他の政治家に大きな差をつけているわけではなく、小泉とは明らかな開きがある。そもそも麻生の「人気」に関しては、報道等の印象と実際のデータとの間に大きな乖離が見られる。この「麻生人気」の謎に関しては、稿を改めて論じてみたい。




4.公共事業への賛否別感情温度


 図4は、「地方の雇用維持のために、公共事業を行うこと」に対する回答者の賛否別に、感情温度を見たものである。民主党に関しては、公共事業に反対する回答者ほど好感度が高い。しかし小沢、菅両者に関してはそのような傾向は明確ではない。
 自民党に関しては、「どちらかと言えば賛成」の有権者をピークとし、「反対」の有権者の感情温度が最も低い。公共事業に批判的な有権者は、自民党よりも民主党を好むということを示している。そしてここでも最も特徴的なのは小泉で、公共事業に「反対」の有権者からも一定程度好まれており、自民党との格差が生じているのである。小泉は、こういった小さな政府志向、あるいは旧来の自民党政治を嫌う改革志向の人々からも支持を得ていたということを示している。安倍、麻生という自民党リーダーに関しては、このような傾向は見られない。改革志向の有権者にとって、安倍、麻生は「小泉的」な政治家とは映っていなかったのである。




5.購読新聞別感情温度


 図5は、購読している新聞別に感情温度を確認したグラフである。自民党の感情温度平均の高い順に右から配置している。したがって、最も左側に配置している朝日新聞から順に、リベラルな読者層を有しているということになる。このため自民党と自民党政治家の感情温度は右上がり傾向の折れ線となっている。
 民主党、民主党リーダーについて見ると、産経新聞を除き購読新聞に関係なくフラットな感情温度の傾向が見て取れる。朝日新聞購読者も日経新聞購読者も、民主党に対して同程度の感情温度を示しているのである。ただし、菅直人の感情温度に関しては、他紙購読者に比べて朝日新聞購読者のほうがより高い。
 なお、産経新聞購読者に関しては、民主党、民主党政治家の感情温度が他紙に比べて低いというだけでなく、安倍や麻生の感情温度が他紙に比べてかなり高く、特異な傾向を示している。これは毎日新聞の半数近い65人という該当者数(購読者数)の少なさのため極端な数値が出やすいためとも考えられるが、産経新聞はこういった「右寄り」の人々を対象とした新聞であると考えれば、当然の結果と言えるだろう。




 以上、有権者の政党と政党リーダーに対する評価を眺めてきたが、やはり小泉純一郎に対する有権者の評価は特異な傾向を示していた。一方、安倍晋三や麻生太郎は、小泉に比べれば平均的な自民党政治家の評価傾向である。民主党に関しては、政党そのものの評価が先行し、政党リーダーの評価はまだまだである。小沢は意外に保守層に好かれておらず、参院選での民主党の勝利を、小沢が旧来の自民党支持票を奪ったためと考えるのは適切ではないだろう。

■菅原 琢(すがわら たく)
東京大学卒。東京大学修士課程、博士課程を修了後、東京大学特任研究員を経て、現在、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。研究業績等は菅原研究室を参照。

■東京財団「政治決定プロセス、ガバナンスシステムに関する包括的な検証プログラム」
戦後政治を特徴付ける「あいまいな政治」の淵源を探り、官邸主導の政権運営や「改革派首長」たちの政治の分析などにより、戦後政治の転換に向けた政治決定プロセス、ガバナンスシステムのあり方に関する研究を行う。現在、世論と政党政治研究、地方自治体のガバナンス研究、官邸機能研究、安全・安心と科学技術研究、戦後政治史研究の5つのプロジェクトが進行している。担当は御厨貴主任研究員(東京大学先端科学技術研究センター教授)。
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