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政策研究

参院選調査報告Vol.04 首相・内閣の評価の分析

更新日:07/07/23

東京財団客員研究員 菅原琢

 東京財団の「政治決定プロセス、ガバナンスシステムに関する包括的な検証プログラム」(御厨 貴 主任研究員)の「世論と政党政治研究」では、来る7月29日投票の参議院議員選挙に向け、連続3回の有権者政治意識調査を行っている。今回は、第1回の調査から、小泉、安倍両首相、内閣に対する有権者の評価を中心に分析を行う。
 以下、今回の分析の要点を先にまとめておくと、次のようになる。

  • 安倍内閣の支持率は若年層ほど低い。
  • 小泉前首相は若年層ほど人気が高い。一方、安倍首相は60歳以上の高齢者層の人気が一番高い。
  • 安倍首相と比較し、小泉前首相は都市部で人気が高い。
  • 以上より、小泉政権時代に獲得した若年層、都市部の有権者が、安倍内閣から離反していると判断できる。
  • 安倍首相、内閣の個別の施策や行動、言動は、基本的にほとんど評価されていない。特に、郵政造反組の復党が最も評価されていない。
  • 小泉前首相、内閣については、評価される項目、評価されない項目ともにあるが、業績全般に関しては非常に評価されている。
  • 小泉前首相、内閣の個別の項目に関しては、改革に関する発言や行動、施策は評価され、イデオロギー的なことがらについては評価されない傾向にある。
  • 以上より、小泉政権と安倍政権の評価の違いを構成するのは、改革に対する姿勢の違いと判断できる。安倍政権が浮上するためには、「望まれる」改革に取り組むことが必要である。

1.はじめに

 あの2005年の小泉自民党の圧勝劇から今回の参議院選挙に至る過程には、現代日本の有権者の特徴が非常によく表れている。郵政選挙では自民党への支持があれほど集まり、初期の安倍内閣も異例とも言える支持と期待を集めた。それがいまや、蒸発してしまったという表現が適切なくらい、支持も期待も自民党には向いていない。この1年弱の間の大きな変化にはどのような背景があるのか、有権者は何を望み、何に失望したのか、おそらく最も大きなヒントを与えるのが、今回の分析のテーマである首相と内閣の評価である。

 小泉首相の人気は、内閣発足当初は物凄く、その後、田中外相更迭を境に低下するものの、支持の底は非常に固く、北朝鮮訪問・拉致被害者の救出、郵政解散・総選挙などの出来事もあって、終盤までその人気は衰えることがなかった。この小泉時代と、選挙を前にして敗走が始まっているかのような現在の状況との最も大きな違いは、首相が小泉か安倍かである。有権者は小泉の何を好み、安倍の何を嫌っているのか。ここに、現代の有権者の政党、政治家に対する期待、要求があるのは間違いない。


2.安倍自民党から離反する若年層、都市部有権者

 図1は、今回のネット調査における安倍内閣支持率を、年齢層別に示したグラフである。ここから明らかなように、安倍内閣は若年層に比べて高齢者層で支持率が高いという傾向が見られる。新聞社等の世論調査結果でも同様の傾向が出ている。

 それでは、この傾向は小泉内閣とはどのように異なるのか。小泉内閣への支持は質問していないので、ここでは感情温度を用いて確認する。感情温度に関しては、参院選調査報告Vol.3の2.(3)を参照されたい。


図1  図2

 図2は、回答者の年齢層別に、前現両首相の感情温度の平均を折れ線グラフで示したものである。ここから明らかなように、小泉前首相若年層に人気で、高齢者層にはさほど人気がない一方、安倍現首相は60歳以上の高齢者にもっとも好感を持たれており、50歳以下では満遍なく人気がない。つまり、現在の安倍政権の苦境は、若年層が離反したことによるものだと、この図からは判断できる。

 図3は、参議院の都道府県選挙区の定数別に、同様に両首相の感情温度の平均を確認したものである。小泉前首相は5人区、つまり東京都で最も人気があり、2人区で最も人気がない。これに対して安倍首相は、やはり2人区で最も人気がないが、最も人気があるのは1人区となっている。つまり、小泉前首相は都市部での人気が高い傾向にあり、安倍首相は都市部と農村部との間で人気に差がない、もしくは農村部で若干人気が高い傾向にあるということになる。当然、これは図2で確認した年齢層別の人気傾向とも関連している。



図3

 ここで注意する必要があるのは、若年層、都市部においてより人気があるという小泉前首相の感情温度の傾向は、自民党の歴史に照らしてかなり特異であるということである。自民党の支持率、得票率などは、高齢者層、農村部ほど高くなるという傾向は、長い間、半ば常識であった。これを覆したのが前首相である。安倍首相になって、これが通常に戻りつつある、という見方が出来るだろう。

 ここで重要な論点として、年齢層別の人口分布、および参議院選挙区の定数不均衡について指摘しておきたい。現代の日本においては、60代以上の人口は有権者全体の3分の1を占め、20%弱の50代と合わせると、50歳以上の人口は有権者の過半数を占める。つまり選挙のことを考えた場合、支持の重心を高齢者に置くか、若年層に置くかでは、前者のほうが有利なのである。

 また、参議院の都道府県選挙区の定数は、5倍近い一票の格差が生じている。人口に比べて多くの議員を抱えているのは、農村部の1人区の県である。つまり農村部に支持の重心を置いた方が得である。これらの県では高齢者割合も非常に高い。また、近年は1人区での勝利が全体の選挙結果を左右する傾向にある。したがって、政権側が若年層ではなく高齢者層を、都市部ではなく農村部をターゲットとして政権運営や選挙運動を行うことは、理に適っているとも言える。

 そして特に若年層は、投票棄権率が高く、あてにはできない。現政権が実際にそのように判断して政権運営、選挙運動を行っていたかどうかは定かではないが、ともかく、今回の参議院選挙も前回の衆議院選挙に引き続き、20歳代、30歳代のような都市部の若年層が鍵を握っていると言えるだろう。彼らが選挙への高い関心を維持し、今回も高い投票率となれば、安倍政権の高齢者、農村部よりの人気傾向は裏目に出ることになるだろう。


3.小泉と安倍、有権者の評価の違い

 次に、小泉前首相、小泉内閣と、安倍首相、内閣の評価の違いを、それぞれの政策、言動等の評価の相違から確認する。第1回の調査では、小泉、安倍両首相、内閣の政策や言動等について評価するかしないかを質問している。全30問に渡るので、それぞれの回答の分布は、参院選調査報告Vol.2の問10、問11を参照されたい。

 ここでは、次のような方法で各項目の評価点を計算し、簡単に評価の違いを示す。まず、問10、問11の「評価する」と「どちらかと言えば評価する」の回答割合を足す(この値をAとする)。次に「評価しない」と「どちらかと言えば評価しない」の回答割合を足す(Bとする)。次に、AからBを引き、100倍した値を評価点とする。
 この評価点は、その項目について評価している人が、評価していない人に比べてどれくらい多くいるか、ということを示し、マイナスであれば評価していない人が多いということになる。


表1

 表1は、計30項目について評価点を計算し、高い順に並べたものである。太線から上が評価されている項目、下が評価されていない項目である。安倍首相、内閣に関するものは背景を黄色にしている。両内閣の業績全般に関しては文字を赤くしている。

 この表1からわかることは、安倍首相、内閣に関して、その政策や言動等の多くが評価されておらず、評価されていたとしても評価点は小さな値だということである。今回の調査で取り上げなかった項目に、もっと評価されている項目がある可能性もあるが、安倍内閣の業績全般についてかなり低い評価点となっていることから、その他の項目もそれほど評価されていないと考えるのが妥当だろう。

 項目別に見ると、やはり内閣支持率が下落する最も大きなポイントとなった、郵政造反組の復党問題が一番評価されていない。アメリカの議会で批判された歴史認識についても同様である。そして、安倍内閣の特色でもあったはずの、教育問題、そして「美しい国、日本。」というスローガンについても、今回の調査の回答者にとって、評価に値するものではなかったようだ。一方で、憲法の国民投票法の成立や、北朝鮮問題に関しては、若干評価している人のほうが多い。10項目の中で最大の評価点が与えられているのは、麻生外相の起用だが、これは麻生氏本人を評価したものとも言え、安倍首相に対する評価として解釈するのは難しいだろう。

 小泉前首相、内閣に関しては、評価されている項目も、評価されている項目もある。ただし、内閣の業績全般に関してはかなり評価されている。項目別に見ると、最も評価の高いハンセン病患者との和解についで、改革への姿勢を示す「自民党をぶっ壊す」、「構造改革無くして成長なし」という言葉が並び、郵政民営化や竹中平蔵氏の起用など、改革に関連する項目が上位に並ぶ。その他では、北朝鮮問題への取り組みが安倍内閣よりも評価され、一方で対東アジア外交は安倍内閣よりも評価されていない。最も評価されていないのは年金制度改革についてである。

 この両者を比較すれば一目瞭然だが、「改革」に対する姿勢により、政権の評価が決まっていると言える。郵政造反組を復党させるというのは、改革にある種逆行した行動だと捉えられ、評価されていないと考えられる。小泉前首相、内閣に関しては、改革以外の事柄、イラク自衛隊派遣や靖国問題など、イデオロギー的色彩の強い項目に関して評価が低いものとなっている。時期が早かったため、今回の調査では安倍内閣に関して聞いていないが、年金問題に関してはやはり評価されていない。しかしそれでも、小泉前首相、内閣は業績全般について評価されている。その要因は改革に対する姿勢にあると言える。

 安倍政権も改革を標榜し、いくつかの改革を実行している。しかし、教育問題への取り組みは評価されず、「美しい国」作りという政権の方向性は全く評価されていない。これは、その改革が望まれているか、いないかの違いであろう。

 安倍内閣は、小泉時代の構造改革路線を引き継ぎつつ、小泉時代に悪化した対東アジア外交の修復を図るという点で、当初は歓迎された。しかし時間を経るにつれ、その改革への姿勢が疑われ、一部ではイデオロギー的な傾向も嫌われ、評判を落としたものと思われる。小泉前首相、内閣は、やはりイデオロギー的な側面では評価されず、年金制度改革に関しては厳しい審判も受けたが、改革に対する姿勢において評価されることで、内閣支持率を高いまま維持することに成功し、長期政権となった。安倍内閣が浮上するためには、小泉長期政権の姿勢を継続し、実際に「望まれる」改革を実行に移していくことしか道はないだろう。しかし現状では、そのチャンスを与えたくないと多くの有権者が考えているため、このような安倍政権に厳しい参院選となっているのかもしれないが。

 では有権者は何を望んでいるのか? 第2回の意識調査の結果を待って分析を行う予定である。次回Vol.5では、その第2回調査について簡単な報告を行う。
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