ハーバード大学 イチロー・カワチ教授の調査結果を特別公開 日本人はなぜ長生きなのか---3万人の調査でわかったこと

2012年09月13日(木) 週刊現代

週刊現代賢者の知恵

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他人を信用してますか?

 例えば、愛知県では'03年に65歳以上の男性6953人、女性7636人に質問調査を行いました。そしてその4年後に彼らの健康状態を調べたところ、男性759人、女性1146人が、要介護状態になっていた。地域別に発症者の分布を割り出した結果、不信度が高い地域に住む人の方が1・68倍も高く機能障害を起こしているということがわかったのです。

 同様に、日本全国206の地域で1157人を対象に調査を行った結果でも、高いソーシャル・キャピタルと良い健康状態には統計学的に強い関係があることが認められました。つまり、ソーシャル・キャピタルが高いほど、健康であることが証明されたのです。

 ソーシャル・キャピタルが高いと長生きできる理由は、2つあります。一つは、他人同士の密なネットワークにより、健康によい情報やサービスが提供されること。もう一つが、周囲との人間関係が円満になり、ストレスが少なく治安のいい環境が作り出せるからです。

 日本で暮らしている方々は気付きにくいと思いますが、長くアメリカでの生活を送っている私から見ると、日本は、世界でも例を見ないほどの高いソーシャル・キャピタルを持っています。日米間を行き来していると、その差を如実に肌で感じることができます。

 例えば、先日日本に行った時、レストランへ向かうタクシーの中に携帯電話を置き忘れてしまったんです。同じことがアメリカで起きた場合、携帯が手元に戻ってくる確率はゼロです。大抵のアメリカ人は、すぐに携帯を解約し、誰かに使われないようにするだけです。ところが、私はそのタクシーが黒だったことしか覚えていなかったのに、レストランの店員さんが一生懸命電話をかけ、たった20分でその車を見つけ出し、携帯を確保してくれたのです。

 日本社会では、他人を助けること、他人の親切を信頼することが当たり前なのでしょうが、アメリカではその感覚自体がありません。他の国でも、恐らくありえない。日本人は、困っていたらお互い助け合うことが美徳として沁みついている、ずば抜けて連帯感の強い国民なのです。

 ソーシャル・キャピタルと寿命の関係を如実にあらわしているのが、左のグラフだ。これは、カワチ教授ら研究グループがOECD(経済協力開発機構)諸国で行った調査結果を元に作られている。これをみると、ソーシャル・キャピタルが高い国ほど長寿なのが一目瞭然だ。平均寿命が82歳と最も高い日本は、ソーシャル・キャピタルも非常に高い。しかし、ここで注目してもらいたいのがアメリカだ。平均寿命が77・8歳と低いが、ソーシャル・キャピタルは全体的に見るとそれほど低くはない。なぜ、このようなことが起こっているのか。

 実は、寿命を左右する要因には、「経済格差」も大きく関係しています。東京大学で行われた収入の不平等と健康に関する研究で、所得格差を表すジニ係数が0・05増加するごとに、その地域における死亡率は8%ずつ増加するということが明らかになりました。ジニ係数は格差が大きいほど数値も高くなります。

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