【旅論】マルセイユで強盗にやられた…フランス/モナコ

  • 2012/12/22(土)

 パリで最初に泊まったホテルではエレベーターが定員1名だった。

 実は先日、浜崎あゆみがパリに行くのを先にキャッチして現地に入っていたのだが、たくさんの国々を巡っていると、刺激を受ける場所も変わってくる。正直、大都市はどこを歩いても似たようなものに思え、強い異文化を求める僕にとってはパリも退屈な部類。物価が高いのも面白くない。比較的、観光客が巡らないような有色人種の多い地区で面白いものを見つけようと動いたが、明らかに治安の悪い場所も少なくなく落ち着かなくなってきたので、南の古都を通過してモナコまでドライブすることにした。

 海外で頻繁にレンタカーを借りていると勝手に車種がグレードアップしたりする。コンパクトサイズでいいのにシボレー・キャプティバになってしまい操作に戸惑いながらの運転だった。不運は続き古都アビニョンあたりから、とてつもない強風に見舞われた。サロン・ド・プロヴァンスにあるノストラダムスの家に着く頃には日中でも人がまったく外を歩いていないレベルだった。

 アルルの円形闘技場なんて世界遺産なのに僕しか客がいなかった!

 それでも、さすがはフランス。洒落たセンスの品々は見ているだけでも楽しく、食事の質も良い。

 ワインやチーズを楽しみながら南下していった。市場では日本では希少なチーズが2〜300円ぐらいでゴロゴロと積んであるので迷わずホテルへ持ち帰る。

 寒い季節で野良猫はあまり見かけなかったが、車の下に影が見えたことも。

 僕は自分で特技だと思っているのだけれど、地図を見て楽しめそうな街をだいたい見つけられる。歴史や人種、交通などを含めた街の構造なども見て勘が働く。
 南フランスには第2の都市マルセイユがあるが、ドイツ軍に占領された大戦後に商業都市となった背景と、北アフリカからの移民を多数受け入れたことによる治安の悪化、郊外のない街の形、そして周辺に点在する古都やビーチを見ると、ここに寄る必然性は全くないと思った。行くなら海岸沿いの小さな町の方がいい。南アに行ったときもケープタウンより先のハマナスに入って優雅な滞在ができた。

 しかし、この日は同行者がいて「どうしてもマルセイユに寄ってみたい」と強く言うので、仕方なく1〜2時間ばかり立ち寄るしかないか、と指示どおりに街に入ったが、すぐに感じた。この町の中心部は治安が悪い、と。屋根や壁の剥がれ落ちた汚い建物が多く、店舗の鉄格子も増えた。「ここは避けた方がいいよ」と僕は何度も言いながら運転を続けると、同時に横並びのバイクにまたがった黒人2人組と2度も目が合った。「あ〜やばい、追われてる。たぶん高級車に見えるこの車のせいだ」と話したが、同行者は「そんな大げさな」と呑気なまま。ちょうど駅前に出たとき目の前に見えたホテルがこれまたセキュリティの悪そうな外観で「見てよ、このホテル。こういうのは危ないよ」と治安の悪さを示す説明をし始めたところだった。

 ガチャ!

 信号待ちで停止した途端、いきなりドアが開いた。銃口が僕の目の前にあり、その先にさきほど目が合った黒人がいた。彼らはそのままリアシートにあったバッグを持ち出し、一瞬のうちに去っていった。やばい、パスポートもそのバッグの中だ。シートベルトを外して車を降りて飛び出たが、白いバイクは街角の奥へ…視界から消えて行くのが分かった。通常、運転中はドアロックが自動でかかるものだが、なぜかロックはかかっていなかった。これは周囲に車も人もたくさんいた中での出来事。すぐに通行人が数名、駆け寄ってきて、若い黒人女性が警察に電話をかけた状態の携帯電話を手渡してくれた。残念ながら、応対した警官は英語が通じず、代わりに女性が警官を呼んでくれた。
(※同日に銃撃を受けた宝石店もあった)
 車を止めたまま領事館に電話。
「いまどこにいますか?」
「駅前です」
「そこはやばいので、まずはすぐに場所移動して下さい。警官を待つのも危ないので」
 そんな会話をしていると、ドン!と鈍い音と衝撃。古い車が軽くぶつかってきたのだ。乗っていた男が「おまえのせいで事故になった。金を払え」と言いがかり。なんて街なんだ…僕は女性たちにお礼を言いながら男に中指を立て、そのまま車を出した。パスポート再発行に必要な警察での被害届は運良くスムーズに運んだ。領事によると通常は5時間待たされたり、翌日以降に持ち越したりすることがあるという。その日は仕方なく治安の良い住宅街のホテルをとった。

 悔しいのは不運な可能性を予知していたことだ。過去のいろいろな経験から、どんな場所を歩いても頭に注意信号が浮かんで臨戦態勢みたいな状態になる。暗い夜道で周囲を警戒して最小限の行動に抑えるような、そんな感覚。マルセイユではそのアラートが鳴っていたのに、同行者を説得しきれなかった。一人旅ならこんなルートはまず通らなかった。前回、銃を突きつけられたのは中米ベリーズ、国境で軍人たちにワイロ要求する不当な軟禁で、これは想定しにくい事態だったから「仕方ない」と思えたが、今回は違う。リスクある自由旅行の中でも、確実に避けられた事態だった。

 貴重品や荷物をすべて置いて事件のあった場所へひとりで戻ろうかとも思った。あの若い黒人の顔は忘れない。また同じ犯行を周辺で行なうだろうから、今度は忍び寄って捕まえて仕返ししてやろうかと考えた。ただ、そんな悔しさをもち続けるよりも、この瞬間から旅をまた楽しむべきだと思い直した。自分が幸せになれば他人を恨む気持ちは消える。彼らは僕よりも不幸な人間のはずだ。


 今度はガイドブック抜きの僕の勘で「このあたりの町がいいんじゃないか」と、その先の2つの小さな町に入ったが、案の定、当たりだった。ヨットの泊まった海沿いでパエリヤを焼きチーズをカットする素敵な遊歩道があったり、観光客がテラスでお茶をしている横で画家たちが絵を描く穏やかな街角があった。そこでやっと同行者が僕の再三、言っていたことを理解してくれ、その後はカンヌ、ニースを通ってモナコに入った。

 モナコは夜に着いたが、すぐに治安が良いと感じた。地図も持ってなかったが、前日に予約したホテルは外観の写真と道の名前だけでたどり着いてしまい、さすが小さな都市国家だと思った。


 ただ、丘に面してマンションが密集しているので、距離は近くても移動は大変。坂道とエレベーター、エスカレーターを使ってロールプレイングゲームの迷宮のように動かないといけない。
 (イカ墨のリゾットにはタコが大量に)
 街の中心部にある遊園地は夜の11時ごろまでやっていて多くの若者で賑わっており治安の良さを物語る。景品がやたら豪華なのも金持ちモナコ的。

 よく中国のニセキャラクターでドラえもんとかミッキーマウスが日本の情報番組で報道されているが、同じようなものは世界各国にあって、モナコの遊園地でも不自然なキャラクターがたくさん。フランスでも同じものは多数見かけた。これは中国だけが異常なわけではない。個人的にはこのニセキャラは好き。

 フランスは日本食が大人気で、寿司屋とラーメン屋はたくさん見つかる。中華料理店も寿司屋に転身していたりするが、当然ながら日本語は理解していない様子で提灯が「たこ焼き」になっていて、しかも逆さま。

 劇場近くにはオペララーメンという名前の店もあるが、日本人客の話だと味はお勧めできないとか。

 帰国してクレジットカードに付帯した海外旅行保険を適用させた。パスポート再発行の費用や余計なホテル代、そのほか失ったものの代金などが戻ってきた。長年、集めているパスポートのスタンプを失ったのが残念。せっかくザンビアの国境に行ったのに。でも、その程度で済んだことは運が良かったといえる。領事館によればマルセイユでは毎日のように駆け込んでくる被害者がいて、病院行きの日本人も少なくないという。親身になって対応してくれた領事館の山田氏には深く感謝したい。日本国に自分が守られていることを感じた。(片岡亮)

コメント一覧 (※コメントが反映されない場合こちらをクリックして下さい)

フランスの治安どんどん悪化していますね。先日も韓国人観光客が強盗団に殺されたそうです。
投稿者: 匿名 2012/12/22[編集]

    外務省より

    ・地下鉄に乗車した際,数人の若い女性に取り囲まれ,身動きを取れない状況にされた上,ハンドバッグの中から貴重品を盗み取られ,犯人は犯行完了後,次の停車駅で電車の扉が閉じる直前に降車し逃げる,

    ・特に移民が集中するマルセイユは失業・貧困層も多く,かねてから治安に問題がありましたが,昨今の金融危機による不況の影響もあり,犯罪件数が増加傾向にあるとともに,犯罪者の若年化と過激化が進み一層悪化しています。犯行には多くの場合銃が使用されており,その数も年々増加傾向にあります。
    投稿者: 匿名 2012/12/22[編集]

    でも無事で良かった
    投稿者: 匿名 2012/12/22[編集]

    強盗のあんちゃんたちは素早く作業を行ったようで、かなり手慣れた人たちだったんでしょうね。相手は銃を持っていたんで、抵抗したり追いかけたりするのは御法度ですね。それで殺される被害者の話はよく聞きます。命の方が貴重品よりずっと大事ですからね。世の中変な人に出会うのは困ったもんですが、たまたま通りがかった女性が警察に電話してくれるなんて、やさしい人もいますしね。人間いろいろやね。
    投稿者: カリメロ 2012/12/23[編集]

    フランス人は比較的、親切でした。
    バイクのナンバーをメモったので届出はしましたが、ほとんど捕まることはないとか。
    土産に買ったワイシャツとか名物の菓子、予備のコンタクトレンズなど、いろいろ盗まれちゃいました。知人が手製してくれたお守りが入っていたんですが、ある意味、身代わりだったのかな。
    こういうときのためのダミーの財布入りで、現金入ってないので「ざまあみろ」ですが(笑)

    ちなみに同行者は携帯電話を奪われました。何に使うんだか…。
    投稿者: ★片岡亮(拳論) 2012/12/23[編集]

    >こういうときのためのダミーの財布入りで、現金入ってない

    100%の確率で賊は逆ギレしてますね。
    投稿者: 地味−レノンJr 2012/12/23[編集]

    昔行ったのに

    今はそんなに治安悪いんですね、当時(フランスWカップの98年頃)も「港町で治安が悪い」と言われていて駅周辺はなんとなく…と感じました。

    このパエリアの写真みたいな場所(アラブ人街?)でピザが美味かったですね、その後ナポリに行ったら桁違いに美味かったけど(笑)

    ブイヤベースは観光地化して高いのにイマイチだとかインフォメーションセンターの方に言われたので食べなかったです。

    モナコもF1コース歩いたら感動しました。

    銃が使用されるとか…無事で何よりです。
    投稿者: 白ひげ危機脱出 2012/12/23[編集]

    マルセイユの治安は移民が多いので悪いです。
    投稿者: 匿名 2012/12/23[編集]

    ↑移民者が多いと悪いという訳ではないと思うけど。

    強盗が盗んだ携帯はチップをとりかえたら、使える(売れる)んじゃないですか?だから盗ったんだと思う。

    今回災難にあわれた場所は嫌な思い出でしょうが、普通港町って聞くと哀愁ただよう感じでノスタルジーを感じさせますね。


    投稿者: カリメロ 2012/12/23[編集]

    >移民者が多いと悪いという訳ではないと思うけど。

    統計的にも移民が多い所は治安が悪化してるようですが・・・

    例えば、スウェーデンやベルギー、オランダもかなりイスラム系の移民が増えて事件事故が多発してる。
    さらに言えばドイツ、スペイン、イングランドまで。

    移民する事が「悪い」のではなく移民した人間たちが、移民先のルールを守らない場合が多いのです。

    「郷にいらずんば郷に従え」と言う思考が薄い。

    ドイツなどはある地方都市で小中学校の生徒の数がドイツ人より多くなって逆転して移民の子供が少数派のドイツ人の子供に恐喝、暴行事件が多くなってる。

    イングランドでは移民政策は失敗だったと正式に政府が表明してる。

    異文化交流やグローバリゼーションの共有など耳障りの良い言葉の裏には厳しい現実があるんですよね。

    数年前に衛星放送で見たがアメリカのアリゾナでは不法移民はもちろん、アメリカ国籍、市民権を持たない人たちに仕事を与えない。などの政策を州政府で行った。
    やはりかなり反発があり、「差別」だ!と叫ぶ団体、集団がいたが、それは正しい事だと感じた。

    日本にも世界一共生できない民族が多く入ってるじゃないですか?
    投稿者: 利岡 2012/12/23[編集]

    >日本国に自分が守られていることを感じた。

    海外に行くとよく分かりますよね。

    トラブルは無いに越した事はないけど、いざトラブルに巻き込まれた時に頼りになるのは自国の公務員ですよ。


    投稿者: 匿名 2012/12/23[編集]

    利岡さん、
    僕の上の匿名さんの書かれた文から、移民者を見て一目で悪いというレッテルをはる傾向があるのでそれには気をつけた方がいいですね、という意味で書きました。このテーマの記事にも出てるように、後ろからぶつけてきていいがかりをつけるというおやじ、面識もないのにその場で携帯で警察に電話して連絡をとりあってくれた女性、とフランス人でもいろいろんな人がいる。移民者だからどうこう、この国籍、人種だからどうこうと決めつけずに、できるだけ個人個人で相手と接して行けたらいいのではと思います。

    それとアリゾナ州の政策の話は知りませんでした。外部の人間だからといって仕事を取り上げても、ケアをせずにそのままほっておいたら、犯罪に走る人が増える結果につながると思います。
    投稿者: カリメロ 2012/12/23[編集]

    >移民者が多いと悪いという訳ではないと思うけど。

    「移民」ですから小さい頃は別(基本貧しい国?)の教育を受けているんですよね、それすら戦争等で受けられていなかったり

    移民が悪いというより、文化が違う人種が居れば常識が非常識になってしまうんですよね、利岡さんが書かれていますが日本人は海外への旅行や留学(←一部例外アリ)で働くのはいけないんだと思いますが中国人は「中国人が居る所は中国」と考えるようです。彼らに「不法就労」なんて言葉はあるのかなぁ(笑)

    アリゾナ州の話=これも「来るのが悪い」「仕事が無いのが悪い」となりますよね
    投稿者: 白ひげ危機脱出 2012/12/23[編集]

     マルセイユでは不法滞在がかなり多いとのことでしたよ。白ひげさんおっしゃるように「文化が違う」ことは社会統合の難しさにつながりますよね。もちろん一概には言えないのは当然ですが、アメリカを放浪していた90年代、平均的な町と、メキシコとの国境とか中華街とか、また黒人ばかり密集する場所では明らかに空気が違っていました。例えばですが、あれだけ著作権にうるさいアメリカでも、チャイナタウンでは平然とコピーCDが売られてました。これなどはまさに「文化が違う」ことによる治安悪化ですね。

     フランスは3度目ですが、パリでもアラブ系の人が多い地区のカフェに出入りしてみると、そこは一般的にイメージされるフランスではない空気が漂っていて、メニューすら変わりますね。そこは治安は少し落ちる程度でしたが、少し移動してみると今度は黒人だらけになってアダルトビデオや風俗系の看板もあちこちに見える「18禁」な場所があり、そこは治安が悪い感じでした。ジロジロこっちを見る視線が増えるので緊張が走りますね。

     同じ黒人街でも、あのケープタウンですら昼間なら普通に歩けましたし、スーパーやレストランをまわって買い物もしてきました。現地に引っ越してきたウクライナ人の知人女性に聞いても「昼間なら大丈夫よ」と言われました。やはり住民と移民では差がありますね。

     それにしても車のドアを開けて銃を突きつけるなんて可能性は、そこそこの治安があればかなり低いはずだと思います。僕が事件にあった場所からすぐ近くで警察が大勢で検問をやっていて、通りがかって報告をしましたが、ほかにもっと大きな事件があったとのことで相手してもらえませんでした。
    投稿者: ★片岡亮(拳論) 2012/12/23[編集]

    大陸の人々と違って島国の我々は、例えば同じアジア人の中でもかなり「浮いて」見えることをよく自覚して、それなりの備えをして海外渡航するべきと私は常々思っています。
    ともかく御無事でなにより。



    投稿者: 匿名 2012/12/23[編集]

    >移民者が多いと悪いという訳ではないと思うけど。

    言葉が足らなかったので誤解を招きましたが、マルセイユは北アフリカ系のアラブ人移民が多く、その失業率はフランス人の3倍以上になると言われてます。その為貧困に喘ぐ移民2世や3世世代の若年層の犯罪が多くなっているのは事実です。
    投稿者: 匿名 2012/12/24[編集]

    マルセイユのような港町、ことにヨーロッパで南に面した港町は。アフリカから有象無象が入ってい来るので、伝統的に? 治安はよくないです。スペインの場合は、アフリカから流入した不逞の輩は、アンダルシアは素通りしてマドリッドまで行ってしまうことが多いですがね。

    ですから南部での安宿は避けたほうが賢明です。しかし、抵抗しなかったのはよかったですね。銃器でなくとも、刃物でも抵抗したら間違いなくやられます。

    日本大使館は、最悪の応対のケースもありますので、必ずしもいつも役に立つとは限りません。外務省は役に立つようで、人によってはかなり応対のヒドイ場合もあります。また、地元警察も同様です。先進国だと、南米やアジアの途上国よりはマシですが。ですからアタマから信頼できるものとは思わないほうがよいです。

    海外旅行では、万が一のパスポート盗難のため、パスポート写真の予備を持っておくと、再発行がスムーズです。

    とにかく無事で何よりでした。
    投稿者: 山野自然薯 2012/12/24[編集]

    その予備の写真を盗まれてしまい、スーパーマーケットに撮影に行きました。

    フランス語は文法上の例外がいろいろあって難しいですね。それを言ったら他もそうかもしれませんが。南仏だとスペイン語が通じるところも結構ありました。
    投稿者: ★片岡亮(拳論) 2012/12/24[編集]

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