橋本維新のスローガンは「グレートリセット」である。維新八策の冒頭にはこう書かれている。
日本再生のためのグレートリセット
これまでの社会システムをリセット、そして再構築
かつて彼の大阪都構想のタウンミーティングに行った事があるが、そのとき彼は概略次のようなことを語った。
テレビのコメンテーターというのは本当にいい加減なものだ。自分もやったからよく判る(笑)
「(大阪都構想に対し)中身が見えない、具体像を示せ、内容がない」というが、私は「大阪市役所をつぶす」と言っている。大阪府庁もつぶす。つぶすと言っているのです。修理はもういい、つぶす!これ以上はっきりした主張はない。いままでそんなことを言った人がいないので、メディアがついてこれていない。反対するのは簡単だ。
また、彼はこのとき「古いコンピュータに新しいソフトを入れてもダメで、コンピュータを変えるしかない」とも語ったが、要は、なにかよく分からないが「古いものはダメなのでとにかくつぶすのだ」といっているだけで、維新八策はそれをそのまま国政に持ち込んできただけに見える。
製造業で言うと、工場が古く生産性が悪いのでこれを潰して新しく立て直すような話だが、私の勤めた会社でこんなことがあった。バブルよりまだ前のことだ。
会議で、トップから「現場がきたない」と指摘された製造部長が、「なにしろ建物が古いですから」と言い訳をした。するとそのトップは「法隆寺は古いけどきれいやで。何とかしてや」と言い、出席メンバーからは笑いが起きた。きたなく見えるのは整理整頓が出来ていないからなのだ。
このトップは余計なことはしゃべらず、しかも大事なことでも一度しか言わない。だからこちらも真剣に聞く。製造部の課長の中にもそれを真剣に聞いていた奴がいて、すぐに自分の職場で整理整頓を熱心にやり始めた。
通路や部品置き場を白線で仕切り、工具やジグの置き場所を明示した。また、コンベアなどの設備を磨き上げ、必要なところにはペンキを塗ったりした。きちんとした手法を導入したわけでもなく、誰でもできる整理整頓レベルの活動だが、それでも以前とは見違えるようになったのである。
結局、次の異動でその課長は部長に昇進し、言い訳した部長は建物の新しい遠くの事業所に転勤していった。例のトップが自分の言ったことをちゃんと覚えていて、結果を人事に反映したのである。このように、この人の仕事のやりかたは、ちょっと織田信長を思わせるものだった。
「古い=悪」という感覚は、高度経済成長のころまでが特に顕著だったように思う。
建物でも、戦前からある建物を潰して現代風のものに立て替えたり新築したりすることが当たり前だった。そして、その時代の方が、いまよりかえって街はきたなかった気がする。
ところが、バブルがはじけてからは、リフォームということが盛んに言われだした。そして、その後、古いものを見直す風潮が高まってきたように思う。とはいえ、まだまだ「古い=悪」は生きていて、とにかくリセットすればよくなるような、いい加減な言説に利用される。
そういう連中のやり玉に上がるのが、例えば次のような言葉である。他にもたくさんあるだろう。
派閥や談合は昔とずいぶん中身が変わってきているし、もともと古くからの日本人の経験と知恵から生まれたものだ。自民党だって公募制度で選ばれた候補者が次の選挙では大勢出るなど、変わってきている。また、公共事業やケインズ主義は、デフレのいまこそ出番である。
そもそも古いのがダメならば、2600年以上も続く日本という国もダメということになってしまう。そういう連中に限って、中国の方が歴史があるとなどと言い出すのである。あの国はスクラップアンドビルドを繰り返した土地に、ついこの間、毛沢東たちが建てた巨大なバラックではないか。
スカイツリーはすばらしいが、だから法隆寺がダメということではない様に、古くても新しくてもいいものはいい。いくら新しくても、出来の悪いものはやはりダメなのである。
さて、橋下市長の大阪府知事時代の失政の一つが咲州庁舎の問題である。大阪市の大きな負担になっていたWTCビル(現在一部が大阪府の咲州庁舎)を大阪府庁として活用するアイディア自体はよかったのだが、現在の府庁が古かったことが彼の判断を狂わせたのではないか。
彼は、古い庁舎を壊し新しい庁舎に移ることを、大阪のグレートリセットの象徴にしたかったのではないか。だから、強引にことを進めすぎた。WTCは東日本大震災の震度3の弱い揺れでも大きな被害を出し、耐震対策に巨額の補強費や維持費が必要なことが判って、全面移転は断念した。
結局、現在大阪府は現庁舎とWTCビルの両方の耐震補強と活用方法を検討中で、最終的にどうするのかはいまだに結論は出ていない。そして、彼は大阪市長に転出してしまった。
これが、大阪のグレートリセットの結果の一つである。
「古いからダメ」と言った時点で、人は思考停止になる。
何がダメで、何がいいのかをきちんと見極め、ダメなところを直すなり入れ替えればいいし、場合によっては一から作り変えてもいい。理由がはっきりしていればそれもいいだろう。
しかし、大阪府の庁舎のような、事前調査がいい加減で先の構想もあいまいな「グレートリセット」を国政でやられたら大変なことになる。
「維新八策」に0点をつけた京大の藤井先生は、八策を一つずつ検討しながらバツを付けていったが、私に言わせれば冒頭の「グレートリセット」のところで即落第だ。
それとも、維新八策とは、震度3で大被害が起きるような「列島脆弱化」を目指しているのだろうか。
(以上)
by akira
またまた安倍総理のびっくり人…