社説:山中氏ノーベル賞 日本の宝物を磨こう

毎日新聞 2012年10月09日 02時33分

 山中伸弥・京大教授のノーベル医学生理学賞の受賞が決まった。いつかは必ずと思われてきたとはいえ、「日本発」のブレークスルーに揺るぎない評価が与えられた意義は大きい。特に山中さんの成果は現在進行形のホットな分野である。日本の現在のバイオ力を世界に示すものとして喜びを分かち合いたい。

 私たちの体はどんな細胞にもなれる「万能性」をそなえた1個の受精卵から出発する。いったん神経や筋肉、骨など役割を持つ体細胞になると元には戻れない。それが生物のことわりだと考えられてきた。

 この常識をカエルの核移植による「細胞初期化」で覆したのが共同受賞者のガードン博士だ。この技術はクローン動物の作出にもつながった。ただし、核移植には卵子が欠かせない。別の万能細胞として注目されてきた胚性幹細胞も受精卵を壊して作るという倫理問題をはらむ。

 山中さんはこれらのハードルを「遺伝子導入」で乗り越え、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作り出した。コロンブスの卵のようなアイデアで生物学の常識を塗り替え、倫理問題までクリアした業績は、社会的意義も大きい。

 今でこそ、世界の有名人となった山中さんだが、行き詰まり、研究をやめようと思ったこともあるという。それを救ったのは無名の山中さんを採用した大学や、研究費だ。研究者の潜在力を見抜いて投資する「目利き」の重要性を感じる。

 山中さんが成果を語る時、多くの研究者の協力で実現したことを強調する。誠実さを感じると同時に、研究の裾野の広がりの重要性に改めて気づく。優れた成果を増やすには少数のエリートを育てるだけでは事足りない。研究の層の厚さが必要だ。

 iPS細胞は、日本発の成果をどう育てるかという難問も突きつけた。特許戦略は重要課題だが、昨年、欧米で京大の基本特許が成立した。国として知財戦略に力を入れたことが功を奏したとみていいだろう。

 初期化機構の謎解きも今後の課題だ。医療の現場へ応用するにはがん化リスクの抑制が欠かせない。改良が進んできたが、完全とはいえない。ただ、臨床研究が射程に入ってきた分野もある。より早い応用が期待されるのは病気のモデル化や創薬の分野だ。患者の細胞からiPS細胞を作り、病気の進行を再現したり、薬の効き方を調べることに期待がかかる。

 山中さんの成果の背景には、受精卵を使わずに万能細胞を作る、という明確なビジョンがあった。そこから生まれたiPS細胞は宝石の原石のようなものであり、世界が磨きをかけようとしのぎを削っている。日本も全力で取り組みたい。

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