いじめ対策基本法:被害者家族ら、公約実現に期待
毎日新聞 2012年12月19日 13時13分
衆院選で大勝した自民党は公約に「いじめ防止対策基本法」の制定を掲げていた。被害者の家族や現場の教師からは「法律でいじめは許されないと明記されれば、現場の問題意識はもっと高まる」といった声も上がっており、早くも公約実現への期待が高まっている。【水戸健一】
09年4月。横浜市の40代女性は、当時小学4年だった三男の異変に気づいた。放課後、自宅を訪ねて来た「友達」に仮病を使って会おうとせず、階段にうずくまっていた。「学校で何かあったの」。尋ねても黙ったまま。夜になって、やっと口を開いた。
「コンパスの針で腕を刺された」
「自転車のタイヤの空気を抜かれた」
女性は驚いて担任教師に相談した。しかし「いじめがあると判断できない」と対応してもらえなかった。校長に学級懇談会の開催を求めたが実現せず、不満をぶつけたスクールカウンセラーの言葉に失望した。「我慢するしかありませんね」
<死ね>。そう書かれた紙が自宅に届くようになり、三男は同年6月から不登校になった。10年4月のクラス替えで「友達」と別のクラスになり復学したが、中学1年になった今も時々学校を休む。不登校で勉強が遅れて学力に自信が持てなくなったためだ。女性は言う。
「なぜ、いじめの被害者が居場所をなくして、加害者は学校に通い続けるのでしょうか」
11月の衆議院解散直後に公表された文部科学省の統計によると、今年4〜9月に全国の小中高校などが把握したいじめの件数は約14万4000件。昨年度1年間の2倍となった。深刻化する事態に、自民党がいじめ防止対策基本法成立を公約に掲げたほか、民主党も法制化の方向性を示し、みんなの党は教職員の研修や保護者の講習を実施すると打ち出した。
三男がいじめを受けた女性は、各政党がいじめに関する公約を掲げた点を評価するが、一部に物足りなさも感じた。カウンセラーの増員や「心の教育」といった内容では、従来と変わらないからだ。「学校はあてになりません。政治がいじめの基準をつくり、出席停止のように加害者に厳しく対応しなければ、いじめは減りません」
自民党はいじめ防止対策基本法の中で「いじめは絶対に許されず、撲滅すべきだ」とうたうとともに▽「指導可能ないじめ」と「犯罪」との線引き▽被害者やその家族への情報開示−−などを検討するとしている。