カノン外伝
「良かったような、つまらないような、よね……」
「何わけのわかんないこと言っているのよ。あかね!ま、我が部のエースとしては、物足りないんでしょうけど、たまには、堂々とサボれるのもいいってことにしようよ」
バスケットシューズの入ったバッグを肩に掛けながら、あかねを突っつく春菜の表情は明るい。
そう、あかねは、2年生唯一のレギュラーと言うだけではなく、もはや、エースだった。
勉強をさせれば学年一の秀才で、誰にでも優しい、穏和な女の子。涼しげな目をした、子猫のような無邪気な笑顔を見せるているクセに、コートに立つと、まったく違うあかねになる。
パッチリとした瞳に光が宿り、きりりと引き結んだ、小さな唇をキュッと噛みしめた表情は、獲物を狙うメス猫のようだと先生に言われる。一度、コートに立つと、敏捷な、獲物を狙う動物に変身するってことだ。
キュキュキュッと床を鳴らしてステップすれば、あっという間に、ディフェンスを抜き去ってしまう。背はそれほど高くないが、運動神経抜群のあかねが、スラリとした手足を駆使して打つシュートは、気持ちが良いほど良く決まった。試合の時には縛る長い黒髪も、練習の時は、その度に、ふわりとなびき、見ている者は、誰しもが、あかねに夢中になってしまうのだ。
今日は、顧問の先生が急な出張で部活ができなくなってしまった。しごきで有名なバスケ部としては、久々の休みとなったのだ。
3年生が抜けないと、レギュラーになれない春菜からすれば、練習が珍しく休みになるなら、こんなラッキーなことはないのだろう。
あかねは、無邪気にはしゃぐ春菜に、そうね、とにっこりと笑い返すが、誰にも分からないほど幽かな影を持っていた。
春菜のように、単純に喜べなかったのだ。
しかし、あかねは、すぐに、頭を切り換えた。物事を良い方に考えられるのも、持って生まれた、あかねの良いところだろう。
『たまには、早く帰って上げるのも良いか』
部活などというものもないあかねの弟は、いつも一人で姉の帰りをポツンと待っているはずだ。
どのみち、もうすぐ、部活なんてしている余裕はなくなるのだ。
弟が不憫だと思っても、チームメイト達との練習は最後まで出たいというのは、あかねのせめてもの願いだったのだ。弟も、それを知っているから、文句一つ言わない。
「お母さんの手伝い、たいへんなんでしょ?やっぱり、あかねは、帰ったら手伝わなきゃなの?」
「ううん、そうでもないの、小さい頃からだから慣れちゃった。じゃ、バイバイ〜」
友達が気を遣ってくれる母と弟の三人暮らし。
いや、それは既に過去形だ。それでも、あかねは、誰にも相談できなかった。
アパートの階段をゆっくりと、静かに登る。電気はとっくに止められていたから、夏の長い陽だけが、頼りだ。今日は、部活もせずに帰っているから、久しぶりに明るい我が家が見られる。
『こんな時間に帰るなんて、思ってないだろうナ』
今の絶望的な状況を忘れて、笑う余裕だけは残しておきたかった。
『ビックリするぞ、きっと』
イタズラ好きのあかねは、弟を驚かせてやろうと、音をさせないように静かに鍵を開けた。鞄の中には、給食で出されたコロッケが取ってある。
弟だって、給食をたっぷりと食べているはずだが、育ち盛りの男の子には、それだけでは足りないのだ。
給食費は、母親がいた時から免除されているから、食べられなくなる心配だけはないけれど。
もはや、家には、お金がない。
ごめんなさい、という書き置きと一緒に残された、わずかばかりのお金は、あかねの懸命なやりくりでも、十日と持たなかったのだ。
『ま、給食があるうちは、生きていけるし』
一番身近なはずの、担任は、いい人だとは思うけれど、今年初めて先生になった若い男性教師なだけに、あかねは相談するのをためらっていたのだ。
『夏休み、よ、ねぇ』
もうすぐ、給食もなくなってしまう。
誰もが楽しみにしている夏休みが、あかねにとっては憂鬱の種だ。どうすればいいのか、見当も付かない。
あかね達の年頃になれば、それなりに家庭の事情が分かってくるものだ。クラスメイトは、あかねが母親とつましい暮らしをしていると知っているから、あまった給食は、餓鬼のような男子の目を避けて、それとなく、あかねのために取っておいてくれる。
今日は、何も余らなかった。
だから、あかねは、自分の分のコロッケを残しておいたのだ。
もちろん、自分もお腹は減ってしまうが、最近は、一日一食にも慣れかけていた。まだ、小さい弟には、我慢できないだろう。コロッケを見て、喜んでくれる弟の笑顔を思い浮かべながら、あかねは、そっと扉を開けた。
「けっ、けいちゃん!」
「わ、わ!おねえちゃん!あう、あの、あ、えっと、わっ、いて! 痛い!痛い!」
とっさに、見ていた雑誌を座布団の下に放り込んで、ズボンを慌てて上げた。その瞬間、チャックが、圭司の「ふくろ」を挟んだのだ。
まさか、姉がこんなに明るい時間に帰るわけないと安心しきっていただけに無防備だった。
最近、こっそり覚えたオナニーを、姉の帰る前にと、堂々としていたら、その姉がいきなり立っていたのだから、慌てるのも当然だった。
美人で、頭も、運動神経も良い、あこがれの姉に、オナニーしてるところを見つかって、驚かない方がどうかしている。
しかし、慌てて上げようとしたズボンのチャックが、しっかりと、圭司のふくろを挟んでいた。
「いたい!痛いよぉ、お姉ちゃん、痛いよぉ」
慌てて、姉は駆け寄る。
「もう!何やってるのよ!」
「ごめんよぉ、お姉ちゃん。痛い、痛くて、痛いよぉ」
「ほら、じっとして、お姉ちゃんに見せてご覧なさい」
「痛いよぉ」
のたうち回る弟を、セーラー服のままのあかねが押さえつけた。
「大丈夫、ちょっと、これが、噛んでるのね、ちょっと我慢よ」
泣いている弟の手をどかすと、一気にチャックを下げたのだ。男の急所を実感していないだけに、かえってできた、大胆な行動だった。こんな時、男は、痛みを想像して、こうまで思いっきりはできないだろう。
しかし、それが幸いして、思ったよりあっけなく、チャックは降りた。
「痛いよぉ」
涙声の弟に、ついつい、姉は、弟がしていた妖しげな行為を責めるのを忘れた。
「ほら。もう取れたから、大丈夫、ほら泣かない。男の子が痛くて泣くなんて、おかしいぞ。ほら、ちゃんと。お姉ちゃんに見せてご覧なさい」
チャックこそ外れたが、弟は、両手で隠して丸くなってしまった。あかねとしては、血が出ていないか確かめなくちゃ、と言うことの方が気になっていた。
「ほら、見せて、あら、大丈夫、ちょっと、血がにじんでるけど。大丈夫、このくらいなら消毒しておけば。ほら、ズボンを脱いで、ちゃんと消毒するよ」
テキパキと指示をする。
『消毒薬なら、まだ、あったはず』
弟の方を振り向くと、半分脱ぎかけたズボンを押さえて、びくびくした表情で姉を見ていた。
「どうしたの?ほら、消毒しなくちゃ。バッチイ部分だからね。ほら、早く脱ぐ」
「だって…」
「何、恥ずかしがってるのよ。ほら、早く」
ノロノロと動き始めた弟をせかして、下半身を裸にしてしまうと、姉は、弟の両脚の間に座り込んだ。
学校帰りの制服が、オチ○チ○をむき出しにした足の間に座り込む。と言っても、あかねにとっては、たった一人の弟だ。小さい時から、仕事と、そして、別のことで、留守がちな母親の代わりに面倒を見てきた姉は、弟の面倒を見る時は、まるで、母親のように振る舞えるのだ。
あかねは、誰しもがハッとするような美貌を持っているクセに、スカートをミニにしたりはしていないから、長いセーラー服の裾が、弟の足にふわりとかかってしまう。
この年代特有の、甘酸っぱい処女のふわりとした匂いが、圭司の鼻腔を刺激した。大人へと変身途中の弟は、もちろん、良い匂いだとは思ったが、それが何かは、わからない。
「ほら、大丈夫、ちょっと、赤くなってるけど、血はそんなに出てないよ」
邪魔な「ホース」をひょいと、そのしなやかで細い指でどけてから、ふくろのシワを伸ばすようにして、見つめる。
「もう、邪魔っ気ねえ」
何度、上にしても、弟の「ホース」が、ひょいと、戻ってしまうから、あかねは左手の向きを変えて、上の方に押さえながら、右手で、ふくろを伸ばしにかかる。
左の手のひらで、弟の「ホース」を半ば握るような形に自然となるが、そんなことを気にしている場合ではない。真剣に、シワを伸ばしながら、器用に右手で持ち替えた消毒薬をスプレーしていった。
「ああ!お姉ちゃん!」
「あ、ごめん、しみた?しみないって書いてあるんだけど。やっぱり、こういう場所だとしみるのかしら」
消毒薬の冷たさに、声をあげたのだけれど、そんなこととは、つゆとも思わず、ふー、ふーと痛みを消し去るべく、息を吹きかける姉。
『ああ、おねえちゃん、くすぐったいような』
こそばゆいような感覚もあったが、あこがれの姉が、チ○チ○を握ってくれている上、吹きかけられる息は、くすぐったいだけじゃない。
なんとも不思議な快感が、圭司の腰に広がった。
おまけに、そうやって、吹いてくれていると、姉の頭から、シャンプーの良い匂いに混ざって、なぜか、甘い香りがするのだ。
芽吹きかけた女の子の匂いだとわかるには、圭司は未熟すぎたのだ。
しかし、姉とは言え、成長途中の、甘いオンナの匂いを感じながら、そっと、敏感な部分に、しなやかな指を動かされるのが、快くないはずもなかった。
『もっとして.お姉ちゃん』
自然と足が広がって、じっとしていた。しかし、なぜか、その心地よさは、姉から感じてはいけない気がしていた。
ふー、ふー あかねが息を吹きかける。消毒薬は乾きかけていた。
「もう良いかな?」
「もうちょっと。まだ、痛いよぉ」
はっきりとした快感になっていた。
痛みなど、とっくに我慢できるレベルになっていたが、姉の手が、自分のモノをじっと押さえてくれている快感を、もっと味わっていたかったのだ。
オナニーを覚えたての圭司にすれば、初めて味わう、他人の手の感触なのだ。
『だって、自分で握る何百倍も良いよ、お姉ちゃんの手』
やや、冷たい手のひらが、握るようにして押さえてくれる感触を味わうためなら、優しい姉に嘘でも何でも言うことを、今は、何とも思わない。この瞬間が、もっともっと、永遠に続いてくれればいいと願ってしまう圭司だった。
一方で、あかねも、弟が泣き声を上げなくなってきたので、やっと、少し落ち着いて、観察するゆとりが出てきた。
『わあー 考えてみたらすごいカッコよね』
男の子の、オチ○チ○を、半ば握っている。その上、顔を思いっきりくっつけているのだ。もし、手を離せば、この細いオチ○チ○の先端が、頬をかすめそうな近さだ。
それでも、優しい姉としては、目の前の傷を、ふーふーとしてやると、弟が痛みを忘れるのかと思うと、真剣に、ふーふー、と息を吹きかけるのをやめられない。
『あれ?なんか、ヘン』
もう何度目かもわからない、ふーふー をしていたら、左手の中の感触が違ってきた。
さっきまで、ふにゃふにゃのグミのような感触だったのだが、急に、ドクンっと脈を打ったと思ったら、いきなり膨れあがったのだ。
『え?何?何?』
あっという間に、あかねの手を撥ねのけんばかりの勢いで、硬くなってしまった。
『すごっ!何、これ?急に。わあ、熱くなってる』
うかつなことに、あまりにも急速に膨れあがったために、手を離すタイミングを失った。さっきから押さえつける形のままの掌は、弟のオチ○チ○を逆手に握るような形になってしまったのだ。
掌の中で、オチ○チ○は急速に硬く、大きくなって、あかねの細い手の中で苦しそうなほどだった。
コキンっと音がしそうなほど硬くなっている。
『これって、アレだよね』
母親が、隣の部屋で男としているところを見たことがある姉は、男のモノが、硬く大きくなることは知ってはいた。だが、まだまだ、子どものはずの弟のオチ○チ○が、まさか、そうなるなんて、思いも寄らないことだったのだ。
普段は、優しい母親が、見たこともない妖しい表情で、男のモノを扱くところも見たし、グロテスクにも思えるアレを、おいしそうに頬張るところも見てしまった。
おまけに、男に跨るようにして貫かれたまま、見たこともないほど、壮絶な表情で、こらえようもない獣のような声を噴きこぼしていた。
母は、恐らく、その男と出て行ってしまったのだ。
自分たちを置いて。
優しい母が、男のアレのせいで「母」を忘れてしまった。あかねにはそうとしか思えなかった。
男のアレには、そんな、魔物のような力があるのだろうか。
でも、あの晩、ホンのちょっとだけれど、あかねは知ってしまったのだ。
母がオトコを受け入れているところを確かめようとした。暗闇の中で、指先の感覚だけを頼りに、自分を確かめようとした。しかし、自分でなぞっているウチに、かすかな心地よさを覚えてしまった。冬の日差しにも似た幽かな快感を、確かめようとするうちに、いつしか、その指先は熱いぬかるみに包まれてしまった。
快感は、いつの間にか、指を離すことを忘れさせ、あかねは、自分自身で、母の中に起きた快感を知ることになったのだ。我を忘れてしまう、恐ろしいほどの快感だった。
隣で寝ている、弟を起こさないように、声をかみ殺しながら、感じた、初めてのオナニーだった。
ふと、あの快感を思い出そうとする自分の頭を振り払ってみると、気がつけば、掌を弾き返すようなほど硬くなった弟のオチ○チ○が、ヒクヒクと蠢いて、熱くなっていた。
「あっ」
硬くなってしまった怒張を、姉のヒヤッとした、しなやかあ手で押さえてもらっていた。
『天国だあ』
別に姉は手を動かしてもいないのに、近頃は、姉の帰る前に必ずするオナニーよりも、数倍気持ちいい。あこがれていた姉が、今、やさしく、オチ○チ○を掴んでくれているのだと思うと、この瞬間が永遠に続けばいいのにとさえ思う。
「あうっ」
硬くなった怒張を、押し返そうとしたのだろうか。姉が、とっさに、押さえつける動きをしてくれて、それが気持ち良すぎて、つい声が漏れてしまった。
「大丈夫?けいちゃん」
「うん」
「さ、もういいかなぁ」
「あ、まだ、だめ、まだだよ、まだ痛いよ」
「だって」
「お願い、もうちょっと、ふーふーしてぇ」
姉が怒ってない。
それだったら、もっと甘えて良いはずだ。
小さい頃から弟は、姉に甘えるのに慣れていたのだ。
一方で、姉は、弟が、そうやって甘えてくるのは嫌いじゃない。むしろ、そんな弟が可愛いと思えているから不思議だった。
『おねえちゃん。お姉ちゃんの手。気持ち良すぎるぅ』
あこがれの姉の、しなやで、やや乾いた手が、包みこんでくれる感触は、自分でしごくのなんて、比べものにならないくらい、気持ち良かったのだ。
「もう、しょうがないわねえ。もう少しだけだよ」
硬くなったオチ○チ○のことは、何も言わず、そのままでいてくれるように甘える弟だが、もちろん、弟が本当に望んでいるのが、ふーふーではないことを、姉はとっくに見抜いているのだろう。
でも、美しい姉に甘えられるだけ甘えてしまう弟だったのだ。
あかねにすれば、それでも、たった一人の弟だった。
いや、母親に捨てられて以来、幼い頃から父親を知らずに育ったあかねにとって、世界でたった一人の身内が、少しくらい甘えても許せてしまうのだ。
手の中の弟のオチ○チ○が熱い。息を吹きかけるのも、だんだんおざなりになって、掌の中のオチ○チ○と、うれしそうな弟の顔を密かに見比べていた。
『けいちゃん、オナニーしてたんだ』
弟があわてて座布団の下に押し込んだのは、きっと、どこからか拾ってきた雑誌に違いない。グラビアには、水着とも言えないような過激な衣装を着けた、胸ばかり大きい、グラビアアイドルが写っていた。この間、掃除をした時に見つけたが、あかねは知らぬ振りをして、そのままにしていたのだ。
もちろん、男がオナニーをすることくらいは知っているから、弟だってしてもおかしくはない。
『だって、私だって、時々、こっそりしてるんだもの。でも、けいちゃん、まだ、こどもだと思ってたけどな』
世間から見れば、自分だって子どもだろうと分かってはいるが、あかねは、2つ離れた弟は、まだまだ、子どもで、いくら、ヘンな雑誌を見ていると知っても、そんなことをするとは思ってなかったのだ。
『熱い、こんな風に熱くなるのね』
いつか母親のセックスを覗き見て、オトコの黒く大きなモノを怖いと思った。しかし、今、掌の中の弟は、生白い皮にくるまった、細いマジックのようなものだ、
これなら怖くない。
いや、むしろ、こんなところを押さえて上げるだけで、弟が、身もだえするほど喜んでいるのを見ると、なんだか可愛いとさえ、思えてしまうあかねだった。
ふーふーと息を吹きかける時に、偶然を装って、微妙に手を動かすと、それだけで、目の前の腰がモジモジしてしまうのが、かわいい。
『へぇ、男の子って、なんかフシギ…』
思ったより楽しいとすら、思えたのだが、問題は、いつやめようかということだった。
姉がそんな風に思っているとは知らず、ひたすらに、姉の掌の感触に身を任せる圭司だった。
ふーふーと、姉が思い出したように息を吹きかけてくるが、その瞬間、微妙に左手が動いて、それがまた、絶妙なのだ。もちろん、姉がわざとそうしていることに、弟は気がつかない。
「ああ、おねぇちゃん。もっと」
「もう、何が、もっとぉ、よ。そろそろやめるよ」
顔を引こうとする姉の気配に圭司はうろたえる。
男の本能は、相手が姉だと言うことを忘れさせていた。いや、相手が憧れの姉で、しかも「怒ってない」とわかればこそ、もっともっとと甘えたくなるのは、当然なのかもしれない。
「お願い、もうちょっと」
「もうちょっと、って言ってもねぇ」
もちろん、姉には、弟がもっともっと続けて欲しいと望んでいるのは分かっている。しかし、このまま続けて良いのだろうか?
このまま続けばどうなるのか、はっきりとは考えなかったが、それでも、漠然と不安だったのだ。
『どうしたらいいのかしら。でも、ちょっと、さすがに、このくらいよね、そろそろやめなきゃ』
「あぁ、お姉ちゃん、頼むよぉ」
弟の切ない声が、あかねの心を一瞬だけ引き留めたのだ。
その時、顔を離しかけて動きを止めたせいで、左手が不自然な向きで押さえることになってしまった。
泣き声に近い弟の悲鳴に、ついつい、あかねは、その手を持ち替えてしまった。
自然な動きだった。
『あら、やだ、私ったら』
油断したというべきだろうか。
弟の望んでいることを知っているがゆえにだろうか。ついつい、手が無理な形になった瞬間、手の方向を変えて、硬くなったオチ○チ○を握ってしまったのだ。
「あうぅ」
握り替えた瞬間、偶然、その細い指が、皮に包まれたままのカリを刺激したのだ。その猛烈な快感に、女の子のようなため息まじりの声が漏れてしまった。
『うわぁ、すごい、これ』
姉の手に、きちんと握ってもらったのだ。圭司の喜びは爆発した。
「お姉ちゃん」
「な、なに?」
年は二つしか違わないが、あかねもオナニーでイクことを知っている。おまけに、母親の激しいセックスをのぞき見したこともある姉は、生まれて初めてナマの「オトコ」を握って、興奮しないわけはない。
「お姉ちゃん、もっと」
「もっと?もっとって、何よ」
「もうちょっと、強く握って」
「こう、これくらい? って、ちょっと姉に何をさせる気よ。けいちゃん。ちょっとぉ」
そう言いながらも、これくらいかなと、握る手に力を入れる姉は、怒っていない。弟は敏感にそれを察している。
「ああ、それ、お姉ちゃぁん」
「甘えた声を出してもダメ。ほら、そろそろ、離すよ」
「そんなあ、あ、だめ、だめ、苦しいよ、ねぇちゃぁん」
そろそろ手を離しても良かろうと、手を離すと、弟が「苦しい」という。
『苦しい?』
あかねは慌てた。何で苦しくなるのか理解できない。
「え?これ?こうしてあげれば、大丈夫?」
とっさに、もう一度、右手で握りしめる。やはり、こういう時は利き手の方が、とっさに出る。
「はあ〜」
再び握りしめると、ため息のような声を漏らす弟に、あかねは困惑する。
心なしか、手の中のモノが、さっきよりもさらに大きくなった気がした。
『これって、きっと、気持ちいいんだよね』
弟が寝静まってから、こっそりするオナニーを思い出す。懸命にかみ殺しているが、ため息のような切ない声が、どうしても漏れてしまう時がある。
それを思えば、弟のため息は、快感のためとしか考えられなかった。
「どうしたの?」
あかねの声が、思わず微妙に震える。
まだ、成熟してない女体でも、硬くなったオトコを握りしめ、オトコへ快感を与えてしまうと、自分でも、身体の奥底が熱くなるモノらしい。
『あふぅ』
正座している踵を少しだけずらす。思わず、自分のヒミツの中心にあててしまっていた。
もちろん、弟に分からないようにだ。
『はうぅ、私、なんか、ヘン』
懸命に顔に出さないようにしているが、踵が、しっかりと押さえた場所から、強いけれど鈍い快感が、身体の中にズーンと響いた息がした。
オナニーをする時と、何かが違う、なんとも言えない、ヘンな感触だった。
『けいちゃん知られないようにしなくちゃ』
なんだか、ちょっぴり、もっと、続けたい気もしたが、だからこそ、わざとちょっと冷たい言い方をする。
「ね、もういいでしょ」
そろそろ終わりにしないと、自分も何か、ヘンになりそうだったのだ。
しかし、他人に扱いてもらう、それも、姉とはいえ、あかねのような美人に扱いてもらう、オトコの快楽を味わった弟にとって、今さら、ここでやめられてしまうことなど、あってはならないことだった。
若いオスの性欲は、一度刺激されれば、放出するまで、ブレーキはかからないのだ。
「お姉ちゃんが、大きくしちゃったから、苦しいんだよぉ」
別に、本気で姉のせいだとは思ってないが、そういう風に甘えれば、何とかしてくれる気がしたのだ。弟には、やさしい姉に、どう甘えればいいのか、小さい頃から本能のようにすり込まれていた。
「私のせいって」
「だって、お姉ちゃんの手がボクのオチンチンを握るから。一度、こうなっちゃうと苦しいんだよぉ」
「だって、あの、握ったわけじゃなくて」
「お姉ちゃんが、ボクのを握ったからだよぉ。苦しいよぉ」
「困ったな。どうしたらいいの?」
ここにいたって、あかねは本当に困惑していたのだ。
もちろん、オトコの勃起など、放っておいても戻るが、あかねの知識は、それを知らない。いや、実は、唯一、勃起したモノがどうなるのか、知っていることがある。いや「どうするのか」を、知っていると言うべきだろうか。
隣の部屋で、母親が、オトコの勃起したモノをどうしたのか、困惑顔の姉の頭には、そんなシーンがリアルに蘇っているということを圭司は知るよしもない。
『お母さんは、あの、おっきなのを、あんな風にしてた。男の人も喜んでたのよね』
しかし、姉として、弟とこのままセックスするわけにも行かなかった。
『だとすると』
このまま、大きくしたままだと、きっと、苦しいのだろう。母親は、オトコのモノを咥え、何かを飲み込んでいた。あれは、きっと、母親の口の奥深くで射精していたのだと思う。その程度の知識はある。
しかし、再び大きくなったオトコの黒い巨大なモノは、母親を貫いていたではないか。
二人が終わりを告げた後で、母親は、愛おしいモノを舐めるように、ドロドロになったオトコのモノを舐め取っていた。
オトコのモノが、見違えるほど柔らかくなって、二人は眠ったのだ。
とすると、弟のモノも…
「おねえちゃぁん」
やさしい姉としては、弟が苦しそうにするのを放っておくわけにもいかないと思ったのか、手はそのままにして、むしろ、さっきより、力が込められている。
「ああ、それ、いい」
「これ?これでいいの?」
カクカクと首を動かして、もっと、もっとと、せがむ。
思わず圭司は腰を捻ってしまった。
しなやかな手の中で、生白い包皮につつまれた亀頭が、クリンと動いた。
「はう」
「え?」
姉は気がついてくれたらしい。
ふにゃふにゃの表面の「皮」の中で、硬い部分がこすれると、とっても気持ちいいと。
「ああ、お姉ちゃん。こすって」
「こすってって、けいちゃんたら」
「だって」
「もう、お姉ちゃんに何をさせるのよぉ」
そう言いながらも、弟にせがまれるままに、白い指で包んだ、マジックほどのオチンチンを少しずつ動かしていた。
「ごめんなさぁい。でもぉ。我慢できないよう」
「しょうがないなあ」
「あぁ!」
しょうがないと言いながら、姉の口ぶりでは、嫌だと思っている気配はない。いや、それどころか、圭司の言うがままに、ゆっくりとだが、扱いてくれるではないか。
「ああ、そこ、もっと、そう、そこ、ああ、もっと。大きく動かして」
「注文が多いなあ。ぜーたくだよ。まったく」
まだ中性的なイメージを持ったままの弟が相手だからなのか、あるいは、しごく度に、弟が敏感に反応するのが、少し楽しくなっていたのだろう。ぜーたくと言いながらも、弟の言うがままに、その手の動きを次第に大胆にしていった。
『あ、ここ、段差がある』
しなやか指は、はっきりと硬くなったその、小さな怒張に、段差を見つけた。どうやら、そこを指がクリンとこすると、弟はたまらなく気持ちいいらしい。
器用な指先が、皮ごしに、その段差にかかるようにして、クリン、クリンと皮の中で動かし続けていた。
その未発達なカリを、姉のしなやか指でコリコリと刺激され続けられれば、初めての他人の手で扱いてもらっている圭司には、腰ごとどこかに吹っ飛んでしまうような、そんな、快感が全身を貫いてしまう。
「ああ、おねえちゃん。あう」
「こ、こう、これで?こうかな、あっ」
調子に乗って、グッと皮を押し下げると、先端の余った皮が、グッと引っ張られて中の赤い部分が顔を覗かせたのだ。
『わ、わりと、グロいかも、なんか赤いじゃないの、中って。えっと、なんか、蛇の頭って言うか、へえ、なんかヘンな匂い』
大胆になった手が、グッと、皮を押し下げて先端がむき出しになると、なんともいえない、淫猥な匂いが広がるのだ。オシッコ臭さと混じる、オトコの匂いだった。
仮性包茎の亀頭部分に溜まる恥垢が、独特の発酵臭を出しているのだ。
姉は、そうやって、初めての「オトコ」を観察する余裕を取り戻し始めたが、圭司はそれどころではない。仮性包茎の少年がするオナニー特有のことだが、皮ごと自分の手でこすることしかしらないのだ。こうやって、皮を剥かれてしまうと刺激が倍イヤ、数十倍に増幅してしまうことになるのだ。
『わあ、なんか、もう、終わっちゃいそう』
自分でする時には、もっともっと、時間がかかるのだが、他人の、いや、姉の手は、なんと心地良いのだろう。
瞬くウチに、圭司に、あの瞬間がこみ上げてくる。
いつも、何かが背中を通って、貫くものが、ヒクンとオチ○チ○の先に走って終わる、あの瞬間だ。
早熟な男の子によくあるが、圭司は、精液をまだ出したことがない。精液を出すようになることを「精通」というのだが、その前に、オナニーすることを知ってしまったのだ。
その場合、逝くことはできても、射精はしない。
まだ、幼い逝き方だが、今までは、それでも十分気持ち良かったのだ。
しかし、姉の手で扱かれながら、いつもの気持ちよさなど、とっくに通り越していることに気がついていた。
『何か、オシッコが漏れそうな、ううん、違うよ。でも、何か、何かが出そう。出ちゃうかも。ああ、でも、このまま続けて欲しい』
このままでは、美しい姉の目の前で、オシッコを漏らしてしまうかもしれない。そんな恐怖も、逝きそうになった若いオスには、やめる理由にもならないのだ。
ここでやめないとオシッコを漏らしてしまうかも。そう思いながらも、違うことを口走っていた。
「ああ、おねえちゃん、あう、もっと、速く」
「速く?こう?これでいい?」
「あう、それ、そ、そのまま、あ、そ、そ、それ、で、出る」
キーンと音がしそうな何物かが、背中を貫いたと思った瞬間、ドクン、と何かが腰の奥から押し出されて、オチ○チ○の先端にあふれ出してしまった。
『ああう、気持ちいい。あれ、なんか、何かが出る、あうぅ出、て、る』
熱いものだった。
「きゃ、な、なに、なにこれ」
姉のしなやかな手の中で、圭司は、初めての精液をドクドクとこぼしていた。
初めての精通は、精液を宙に飛ばすことなく、ハワイの火山からこぼれ出る溶岩のように、ドロドロとした精液は、次から次へと湧き上がってきて、たっぷりとこぼれ出して、美しい姉の指を汚していった。
それでも、こぼれかかる精液に手を汚したまま、離さなかったのは、ひょっとしたら、姉の天分なのかもしれない。うっとりと見とれながら、弟の噴きこぼした精液の熱さに、いつまでも浸っていたのだった。
弟の初めての射精を、自分の手で導いたあかね。
二人っきりの暮らしは、このままでも十分だったかもしれない。しかし、既に食費にも事欠く二人にとって、このまま生きていく術は考えられもしなかった。母親がいた時ですら家賃も滞納がちだったのだ。
給食も昨日で終わった。
もう、夏休みは目の前だった。
「もう、このままでは無理ね。けいちゃん」
さすがのあかねも手を上げるしかない。二人だけで生きていくのは不可能なのだ。
万策尽きた姉が、懐かしの担任を、そして今は弟の担任でもある「あきこ先生」を訪ねたのは、翌日だった。
施設を紹介してもらうつもりだった。弟と離ればなれになるかもしれなかったけれど、それしかなかったのだ。
最初に、目を丸くして話を聞いた先生は、次の瞬間、目に涙をいっぱいに溢れさせて、抱きしめてくれた。あかねは、先生の柔らかな胸に顔を埋めて、いつしか涙をポロポロ、ポロポロと、いつまでもこぼしていた。
二人に食事をごちそうしてくれた先生は、二日後に、あかねが望みもしなかったような提案をしてくれた。
「しばらくの間だけでも、ウチの子にならない?」
たった二人の姉弟が、人生の最初の分岐点に踏み込んだ瞬間だった。
「カノン」外伝 あこがれ 了
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