社説
2012年9月4日

文鮮明師逝去/世界平和目指した偉大な足跡

 文鮮明師が逝去した。まさに巨星逝くである。逝去を悼むとともに、心からご冥福を祈りたい。文師は世界基督教統一神霊協会(統一教会)を創立した世界的な宗教指導者で、偉大な思想家でもあり、東西冷戦終結に大きく貢献した。さらに宗教の統一を唱え、世界平和への新しい方向を示した足跡は大きい。

金日成主席と歴史的会談

 1990年代の韓半島は、北朝鮮の核開発により、いつ戦争が起きてもおかしくない危機的状況にあった。文師は91年12月、電撃的に北朝鮮を訪問し、金日成主席との歴史的会談を実現。離散家族再会、核査察受け入れ、経済交流などで合意し、南北関係改善の突破口を開いた。

 94年7月に金主席が死去した当時、南北関係は最悪の局面にあった。米国は北朝鮮の核施設攻撃を準備。これはカーター元大統領の電撃的訪朝と南北首脳会談の合意で回避されたが、その直前に死去した金主席に対し韓国政府は弔問まで禁止し、北朝鮮が態度を硬化させた。それでも北朝鮮が文師の弔問使節団を迎え入れたのは、韓半島での平和実現に果たす文師の役割を高く評価していたからとみてよい。

 いま一つの偉大な足跡は、保守系紙ワシントン・タイムズの創刊だ。70〜80年代の米国は左翼リベラリズムが言論界を支配していた。首都ワシントンはワシントン・ポスト、ニューヨークはニューヨーク・タイムズが独占的な地位にあり、米国東部の言論界には神や信仰という伝統的価値観に根差したメディアは存在しなかった。そのような危機克服を目指してワシントン・タイムズが創刊され、保守系言論人に活動の場を提供した。

 しかし、文師に対する毀誉褒貶は激しい。文師が事業家、宗教指導者、思想家、その他あまりにも多くの“顔”を持っていたからだ。ある人物を評価するには、その人物と同じレベルにまで達していなければ不可能だという。まさしく文師の人物の大きさ、見識の高さ故に、断片的な情報や浅薄な知識、偏見をもとに中傷が行われてきた。

 日本を含めた先進国で強い影響力を持つ思想は、精神は物質から生まれ、人間はサルから進化したという唯物論であり、教育界でも“神”を持ち出すことはタブー視されている。人間は神が創造された被造物であるとし、神の完全な愛をこの世で実践することを意味する「神主義」を唱えた文師の思想は、大衆の世俗的発想のレベルをはるかに超えたものであり、それ故に誤解と猜疑の的となった。

 人間が人間を超えた「上位」の存在を認めなければ、善悪の基準は「人それぞれ」となり、道徳倫理が失われ、ニヒリズムに陥る。既存の宗教の多くは己のみを正しいとしているため、宗教間の対立が激しく、いがみ合っている。文師が宗教の統一運動を提唱したのもこのためだ。これこそ文師がわれわれに残した大きな宿題と言えよう。

共存の道の探求が課題

 神は一民族、一宗教、一宗派に偏るような存在ではあり得ない。文師が自身の展開する宗教運動に「統一」の文字をかぶせた意味を噛み締めるとともに、諸宗教が共存する道の探求がこれからの課題だ。


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