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大丈夫? あなたの“クラウド”

12月28日 19時40分

西村敏記者

この1年、個人ではスマートフォンの利用が進む一方、企業や自治体などではデータを外部のサーバーで集中管理するクラウドと呼ばれるサービスの普及が進みました。
データの安全性を高められ、コストも削減できるとされるクラウド。
一方で、突然、利用できなくなったり、データが消えたりするトラブルが相次いでいることが分かりました。
どうすれば安全に利用できるのか。
科学文化部の西村敏記者が解説します。

“クラウド”?

「クラウド」とは、英語で「雲」の意味です。
利用者からは、雲に覆われて見えないインターネットの向こう側にある巨大コンピューターにデータを預けることから、こう名付けられました。
従来、企業などは、重要なデータの管理はそれぞれ自前で行っていましたが、クラウドでは、インターネットを使って外部のサーバーを別の企業と共同で利用します。
2006年に、グーグル社の当時のCEOの発言がきっかけで世界的に利用が進み始め、国内では2008年ごろから少しずつ普及してきました。
そして、東日本大震災の津波で、コンピューターが流されてデータが消失してしまうケースが相次いだことなどから、災害対策にもつながるとして普及に拍車がかかりました。
クラウドは、企業だけでなく、個人でもスマートフォンのメールやスケジュール管理に利用されるようになったほか、病院の電子カルテの保管、自治体の税金の管理など、身近な場所でも利用が始まっています。

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相次ぐトラブル

他人のデータを預かって集中管理するクラウド。
トラブルはあってはならないものですが、実際は被害も出ています。
日本セキュリティ監査協会が調査したところ、2008年からこれまでに、グーグルやアマゾンなどアメリカの大手IT企業のサービスも含めて、少なくとも19件のトラブルが起きていることが分かりました。
国内では主なものだけでも……。
▽2011年5月、NTTのグループ会社のサービスが1週間にわたって停止。
▽2011年11月、およそ200の自治体の電子申請のシステムが一斉に停止。
▽2012年6月、ヤフーの子会社のサービスでおよそ5700の企業や団体のデータがすべて消失。
このように、ここ2年間でトラブルが相次いでいるのです。

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データ消失は一瞬

このうち、ヤフーの子会社のトラブルは、およそ5700件もの企業や団体のデータが一瞬で消失するという致命的なものでした。
この運営会社は、データ管理の安全性を強調することで客を集めていました。
しかし、トラブルの原因は保守作業中に誤ったプログラムを使用したことにありました。
作業は1人だけで行われ、管理はずさんなものでした。
このサービスを利用していた通信販売会社は、数万人分の顧客データや商品の注文内容がすべて消えてしまいました。
会社に残していたバックアップにより、多くのデータは復元できたものの、事業が3日間停止しました。
およそ3000万円の損害に対し、45万円の利用料金を返金されただけでした。
通販会社の社長は、「まさかの出来事だった。システムを信頼しきっていた自分たちも悪かったかなと思う」と話していました。

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対策始まる

このような事態を受けて、運営会社側も対策に乗り出しました。
クラウドは雲の向こう側にデータを預けるため、自分たちのデータがどのように管理されているのか、ほとんど知ることができません。
このため、データの管理体制に不備がないか、外部の機関に監査してもらい、利用者の信頼を得ようというのです。
さらに12月、クラウドサービスを行っている事業者などおよそ30社が集まって、新たに研究会を発足。
研究会では、安全な運用のための統一基準の作成や外部の第三者が安全性をチェックする監査の導入など、対策の強化について検討を始め、業界全体に動きを広めようとしています。
研究会の事務局を務める日本セキュリティ監査協会は、「重要なデータを預けるケースが増える一方で、クラウドの安全管理の体制は外部から分かりづらい部分が多い。監査の導入などで透明性を高め、安心して利用できるようにしていきたい」と話しています。

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利用者に求められるのは…

利用が広がる一方で、トラブルも相次ぐクラウドサービス。
クラウドのセキュリティに詳しい岡村久道弁護士は、「クラウドであれば完全に安全だという意識は捨てなければならない。手元にバックアップを取るとか、トラブルが起きたときにどう事業を継続するのかということを常に考えておかないといけない」と話しています。

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クラウドは今後、ますます普及が進み、企業だけでなく、私たち一人一人が利用する機会も増えることが予想されます。
便利だからと、何でもクラウドに預けるのではなく、データの重要性に応じて預けるのか、預けないのかを考えるなど、利用者にセキュリティ意識の高さも求められる時代になっています。

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