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【神奈川】

2012かながわ取材ノートから(9) 「ワタミ」過労自殺 人命軽視にSOS

ワタミ本社前で、森美菜さんの過労自殺の実態究明を求め、申し入れ書を読み上げる父の豪さん(中)。隣で妻の祐子さんが美菜さんの遺影を抱えていた=9月20日、東京都大田区で

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 京急久里浜駅西口(横須賀市)を出てすぐに居酒屋チェーン「和民久里浜駅前店」はある。クリスマスの夜、午後八時を回っても客の入りは半分ほど。Jポップのクリスマスソングが流れる中、きびきびと若い女性店員が客の注文をさばいていた。

 四年前、この店で働いていた「ワタミフードサービス」(東京)社員の森美菜さん=当時(26)=が自殺した。入社して二カ月だった。今年二月、長時間労働によるストレスが主な原因として、労災が認められた。

 ワタミフードサービスは、労働基準法が定める労使手続きを踏まず、月百二十時間まで残業できる労働条件を従業員に押し付けていた。森さんは、その上限をさらに超える月百四十時間も残業していた。厚生労働省が過労死との因果関係が強いとする月八十時間の「過労死ライン」を大幅に超える残業時間だった。

 過労死、過労自殺の遺族が決まって口にするのは「二度と同じ悲劇を繰り返してほしくない」。森さんの両親も同じだ。

 なぜ娘は自殺しないといけなかったのか。今も、両親は会社に娘の自殺の原因究明を訴え続けている。

 労災認定後、両親は、ワタミ側と弁護士を通じて和解交渉に入ったが、ワタミ側は「直ちに会社の安全配慮義務違反には当たらない」と主張。再発防止策への明確な回答もなかった。

 両親は九月、ワタミグループ本社(東京)を訪ね、勤務実態の解明と再発防止のため、グループトップの渡辺美樹会長との直接交渉を求める要望書を手渡した。

 度重なる要求の末、ワタミ側が提示したのは「渡辺会長の同席は一回だけで、録音は不可。両親の立てた代理人とは交渉しない」というものだった。「まるで加害者意識がない」との両親の抗議に、ワタミ側は十一月下旬、簡裁に民事調停を申し立ててきた。

 森さんの父豪さん(64)は、「ワタミ側は金を払えばいいだろうという態度。何の反省もない。実態究明もないのに金も謝罪も再発防止もない」と憤る。

 ワタミフードサービスの過労自殺問題を機に、この一年、「過労社会」と題する報道を続けてきた。

 これまで過労死は真面目な人だから、ワーカホリックだったからなどと個人的な問題に矮小(わいしょう)化され、ややもすると自己責任のようにとらえられてきた。

 わが国は長い不況から抜け出せず、企業は長時間労働や非正規労働といったかたちで、従業員を犠牲にしてまで利益を求めようとして、労働現場は過酷さを増している。

 過労死は、このような人命軽視の働き方へのSOSだ。過労死は、特定の人だけにかかわる特別な問題ではない。 (中沢誠)

  =おわり

 

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