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hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)
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『本当は怖い昭和30年代』官庁報告書版

2012年09月26日

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http://honz.jp/14850(本当は怖い昭和30年代 〜ALWAYS地獄の三丁目〜)

結構話題になっているようですが、本ブログでも、1950年代の怖〜〜い一側面を切り取った官庁報告書を紹介したことがありましたので、この際またお出ししましょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/10/post-97de.html年少者の不当雇用慣行実態調査報告@婦人少年局)

旧労働省の婦人少年局というところは、むかしは非常に熱心に女性や子どもたちの労働実態の調査をやっていたのです。とりわけ、今ではほとんど忘れ去られているでしょうが、年少者の不当雇用慣行について、1950年代の半ばごろにその実態を暴いた報告書は、東北地方、九州地方、近畿地方、関東甲信越地方の4分冊として、刊行されています。

おそらく今では役所の中でも誰も知らないであろうこの報告書を、ちょっと紹介してみましょう。今ではみんながうるわしく描き出す「三丁目の夕日」のちょっと前の時期の、日本社会の凄絶な実態をちょっとの間だけでも思い出すために。

やはり、人身売買の本家といえば東北地方で、1950年代にもこういうケースが結構あったようです。

年齢:15,性別:女、業務内容:芸妓見習、前借金:1万円、備考:中学1年中退

もともと生家があまりに貧しいので、食べるだけでもという親の考えと、芸者にすれば教育をしない女の子でもまとまった金が入るという親の考えから、雇主は「この子はここにいるからこそ乞食もしないでいられる」と言っていた。

・・・・・・のですが、よく調べると出るわ出るわ。U子は、昨年11月ごろから売春を強要され、置屋で客を取っていたが、あまり客を取らされることが辛く、置屋を飛び出し、市内の某マーケット内にあるバーに身を寄せた。・・・

置屋では、その町の大親分と恐れられている一六親分を介し、バーに対して、U子の身柄と、前貸金を始め貸金及び費用を請求した。・・・

父親は「長女の時以来、長いこと置屋のお蔭で生活してきたので、大変御恩を受けているのに今度U子が約束を果たさなかったので置屋に申し訳ない。その代わりにみよ子(四女、小学6年の長欠児)を置屋にやる」といっており、・・・

年齢:12、性別:女、業務内容:農家の家事手伝、前借金:2万円、契約期間:5年

既に作男として働いていた兄が、父親に実家で生活するより川口にいた方がよいから、H子もここで働くようにしてはとすすめたことや、父親にしても長男が良くしてもらっているのを知っていたので、長女のH子を説得して、雇い入れ先の農家へ住み替えさせたものである。

本人に会って聞いてみると、「貧乏な家のことを思えば、現在の方がずっと良いから帰りたいとは思わないし、このまま働いていて、家への送金や、自分の貯金ができるようになりたい」ということしか考えていず、就学の希望も全くない。

年齢:14、性別:女、業務内容:商店の女中兼子守、契約期間:3年、備考:中学1年中退

調査担当者がA子に会ったとき、A子の両手は凍傷で真っ赤に腫れ上がっているにもかかわらず、元気で働いていたという。学校へ行きたいかと尋ねると、及びもつかぬといった顔で目を見張っていたそうで、遊ぶことも、着ることも考えないで、仕着せにもらった着物や、洋服などは、着ないで仕舞っておき、3年の年期もあと1年と、辛抱して家へ帰るまでは、自分の身体のことなど考えてもいないらしく、何を聞いても辛いと言わなかった。

というような事例が、次々に、これでもか、これでもか、と並んでいます。

念のため、これは言うまでもなく日本国に既に労働基準法が施行されている時期の話です。

わたくしの生まれるほんの少し前の時代の日本社会の話です。

こういう「古き良き時代」の話を聞くと、金融関係者はやはりこういう感想を持つのでしょうか。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-b9d7.html(キキを見てこういう感想を持つたぐいの人々)

魔女の宅急便のキキは、労働組合も作らないし、首になっても割増退職金も要求しない。セクハラだパワハラだと訴えない。今の労働者も見習うべき。

見習うべき模範は、ほんの半世紀前には山のようにあったわけです。

(追記)

同じシリーズの「九州編」から。

年齢:16、性別:女、業務内容:接客婦、前借金:4万円、仲介人:兄の夫、備考:中学2年中退

W子の父は白痴、母はその夫と10人の子をなしながら正式に結婚せず、・・・

6人の姉たちは皆料理飲食店に勤めた経験のある者ばかりであり、無知無能な両親、特に母親は生活困難のために子どもを犠牲にしてその日を送ることを何ら社会悪として観ずることなく、母親としての愛情に欠けている。W子は中学2年の時料亭に行き暫くして連れ帰られ、学校へ出たが途中で止めている。・・・

彼女が料亭に出るようになったのは掲記の通り長女H子及びその夫の強制によるものである。長女H子は現在第2回の刑に服役中であるが、第1回の刑を終えて帰った際、W子に家の加勢をせよとだまし県内某地方に売り、4万円の前借りは母に渡さずH子夫婦が着服している。

年齢:17、性別:女、業務内容:接客婦、前借金:2万3千円、仲介人:父の知人、動機:家計補助

7人兄弟の長女であるE子は家計を助けることが子のつとめと思い働くことにしたと就業の動機を語っている。親元の家族は父母兄弟の9人で父は造船所職工だが給料の遅欠配で月収平均2000円、長兄は会社員で5000円、母は日傭い日給150円とあわせて1万円前後が総収入であるが、家計困難はE子をかかる業婦としての途へ追いやり、更に父(46歳)が雇主に借金をなしE子の前借りが嵩むということになっている。

年齢:15、性別:女、業務内容:接客婦、備考:中学1年退学

Y子の親元は7人家族で父は日傭い稼ぎをして月収平均7000円、ほかに収入は全然ない状態である。

このような状態のもとにあって、Y子は13歳の折、父より親のためと思っていってくれと勧められ、父はまた周旋人の口車に乗り、遙々と青森へ売られていった。無知という前に自分の娘を私物視する観念がいかに根強くこれらの階層の中に残っているかを多くの事例は示している。

(2012年9月25日更新)

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プロフィール

hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)(濱口桂一郎)

サイトURL:http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/

濱口桂一郎(はまぐち・けいいちろう) 独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員。1958年生まれ。東京大学法学部卒業。労働省に入省後、東京大学客員教授、政策研究大学院大学教授を経て現職。専門は労働法、社会政策。著書に『新しい労働社会−雇用システムの再構築へ』『増補版・EU労働法の形成』など。

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