ブログ:スバルに学ぶ「脱価格競争」

2012年 08月 23日 15:32 JST
 
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杉山健太郎

「いかに価格競争から抜け出すか」ということに頭を悩ましている製造業の経営者も多いと思うが、もしかしたら富士重工業(7270.T: 株価, ニュース, レポート)の自動車ブランド「スバル」の事例が解決のヒントになるかもしれない。

富士重は、販売量をやみくもに追うのではなく、ユーザーが感じる商品価値を高めることで収益の最大化を狙う戦略を進めており、それが成功を収めつつある。

「スバルの商品を分かってもらっていただけるお客様は、クルマを単なる移動手段としてみていない人。大げさに言うと、クルマを人生の一部として考えてくれるお客様だと思う」。8月初めに富士重が行ったスバルのマーケティング戦略説明会。グローバルマーケティング本部の副本部長を務める小林英俊常務執行役員はこう語った。

同社の2012年度の世界販売台数見通しは約72万台と、国内最大手のトヨタ自動車(7203.T: 株価, ニュース, レポート)と比べて12分の1程度の規模しかない。それでも水平対向エンジンや四輪駆動システムなど高い走行性能が支持され、根強いファンを獲得してきた。

今でこそ、主戦場である米国では「レガシィ」などの単価の高い車を値引きせずに販売できているが、これまでずっとこうしたメリットを享受できていたわけではない。過去の苦い経験から学び、モノづくりのあり方などを自ら改善してきた背景がある。

同社は、02年度から06年度までに開発した「レガシィアウトバック」、国内向けの軽自動車「R1」「R2」、米国向けのスポーツ多目的車(SUV)「トライベッカ」といった商品がユーザーに認められず、販売面でかなりの苦戦を強いられた。

当時、米国で販売を担当していた小林氏は、山のようになった「レガシィ」や「レガシィアウトバック」の在庫を売り切るため、相当の値引きをしなければならなかったと振り返る。「極端に言うと、クルマの開発部門が『こんなにいい商品ができたんだから、営業部門は一生懸命売れよ』というスタイル。商品としての完成度は高かったものの、顧客のニーズをとらえ損ねていた」という。

そうした反省から、富士重は07年度の組織改革でグローバルマーケティング本部を設置。市場のニーズを的確にとらえ、スバルの特徴を商品コンセプトに織り込んでいけるようにした。

一番大きい変化は、米国と中国が最重要市場だという認識を明確にし、両国で需要が高い商品に開発軸をシフトしたことだ。米国は環境対応時代になっても、車両の大きさがそれなりにあることが、商品価値として感じられる市場であることから、「レガシィ」も米国で需要のある大き目のサイズに変更した。

また、自動車としての安全性や走行性などを磨き上げるとともに、外観や内装のデザインなどユーザーの感性に訴える商品づくりも進めてきた。クルマに対して付加的な価値を求める人たちがターゲットだ。小林氏は「世界で3割くらいいると言われている、そういう人たちに対してスバルブランドを知ってもらえるような仕掛けを打っていきたい」と語る。

富士重が目指しているのは、「価値」で選ばれる会社だ。良いものを安く提供するという「良品廉価」の考え方は製造業の原点だし、大変重要なことだが、先進国のような成熟市場では、一歩間違うと汎用品化して商品の個性を失いかねない。

個性のない商品の価値を上げるには価格を下げることが手っとり早いものの、それでは永遠に価格競争から抜け出せない。世界のメーカーがしのぎを削る時代になったからこそ、時間のかかるブランディングと価格戦略の強化が求められていると言えそうだ。

(東京 23日 ロイター)

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