山中京大教授にノーベル賞 iPS細胞で医学生理学賞
スウェーデン王立カロリンスカ研究所は8日、2012年のノーベル医学生理学賞を、京都大iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授(50)に贈る、と発表した。授賞理由は「細胞の初期化と多能性の獲得」。カエルのクローン作製で細胞初期化研究を先導した英ケンブリッジ大のジョン・ガードン博士(79)との共同受賞。12月10日にストックホルムで授賞式が行われ、賞金計800万クローナ(約9400万円)が贈られる。
山中教授は四つの遺伝子(山中ファクター)を導入することで、皮膚などの体細胞から、さまざまな細胞に分化する能力のある幹細胞に初期化する技術を世界に先駆けて実現、iPS(人工多能性幹)細胞と名付けた。再生医療や難病の原因解明、新薬開発につながる画期的な業績で、新たな医学の可能性の扉を開いた。
日本人のノーベル賞受賞は10年化学賞の鈴木章氏と根岸英一氏に続いて19人目。医学生理学賞は1987年の利根川進・米マサチューセッツ工科大教授に次いで2人目。これまでの受賞者18人のうち10人が京都にゆかりがある。
山中教授は、さまざまな細胞に分化する能力のあるES(胚性幹)細胞で働く遺伝子を網羅的に解析。初期化に重要な4遺伝子を選び、ウイルスを用いて皮膚細胞に導入して働かせることで、細胞が心筋細胞や神経細胞などさまざまな種類の細胞になる能力を獲得することを見つけた。
最初にマウスの細胞で成功し、06年8月に発表、07年11月に人の細胞でも成功した。当時のブッシュ米大統領とローマ法王が歓迎メッセージを出すなど、ニュースが世界中を駆けめぐった。
ES細胞は受精卵を使って作製するため倫理的な問題があり、他人の細胞なので拒絶反応も起こる。iPS細胞は自分の細胞から作るため問題は解決されるが、細胞にがん化の可能性があり、安全な作製法の開発が課題だ。
慶応大との共同研究で脊髄損傷のサルの機能回復に成功、理化学研究所がiPS細胞で加齢黄斑変性を治療する臨床試験を予定するなど、再生医療の実現に近づいている。
また、京大の別のグループがマウスのiPS細胞から精子や卵子を作ることに成功、生殖補助医療への応用も期待されている。
京大はiPS細胞の作製法について、基本特許を日本、欧州、米国で成立させた。新薬開発など一層の進展が期待される。
ラスカー賞や京都賞など国際賞の受賞が相次ぎ、ノーベル賞への期待が高まっていた。
■山中 伸弥氏(やまなか・しんや)1962年9月4日、大阪府生まれ。大阪教育大天王寺中学、高校から神戸大医学部に入学し、87年に卒業。国立大阪病院臨床研修医を経て大阪市立大医学研究科博士課程を修了。米グラッドストーン研究所に留学、奈良先端科学技術大学院大教授などを経て2004年に京都大再生医科学研究所教授、08年にiPS細胞研究センター長、10年から現職。
ES(胚性幹)細胞で特定の遺伝子が多能性獲得に必須であることを見つけ、06年にマウスで四つの遺伝子を導入し多能性の獲得に成功、iPS細胞と名付けた。07年に人の細胞でも成功した。
米国の研究者も同時に論文を発表するなど競争は激化、「チームジャパン」の研究を訴え、国が研究を支援、08年1月に京大にiPS細胞研究センター、10年4月に研究所に改組された。
07年に大阪科学賞、08年に紫綬褒章、ロベルト・コッホ賞、島津賞、京都新聞大賞。09年にガードナー国際賞。10年に文化功労者、京都賞。11年にウルフ賞。12年にフィンランド・ミレニアム賞。ジョン・ガードン博士とは09年にノーベル賞の「登竜門」とされるラスカー賞も共同受賞した。
柔道、ラグビーに打ち込んだスポーツマンで12年3月の京都マラソンには応援大使として完走、iPS細胞研究のための寄付も募り、1千万円を集めた。プロ野球楽天の星野仙一監督のファンで、研究室には星野氏が監督をした阪神の応援グッズを飾る。大阪市在住。妻と2人の娘がいる。
【 2012年10月08日 23時10分 】