時論公論 「安倍新政権の経済政策」2012年12月27日 (木)

山田 伸二  解説委員

(前説)
安倍新政権が発足しました。

そこで、今日は、安倍さんが最重要課題だと位置づけている、経済の再生や景気対策について考えます。

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(今までの繰り返し?)
自由民主党の公約は、「強い日本」を取り戻すことでした。

安倍さんは、経済再生のため、「大胆な金融政策・機動的な財政政策・民間投資を喚起する成長戦略」の3本の矢で結果を出すと言います。

金融緩和は「かつての金融政策と次元が違う」と言い、財政政策では、国土強靱化計画を打出し、巨額を投じて災害に強い国作りを目指します。

金融緩和に財政出動と、典型的なケインジアンの経済政策で、副総理に起用した麻生さんの影響を感じます。

成長には関心が薄いと見られた民主党に対して、成長を前面に打ち出した点は市場関係者に好感され、株価は、今日、今年最高値でした。

しかし、安倍さんは、金融政策については雄弁ですが、その他は具体性に乏しく、全体として、昔の自民党に戻ったという気がします。
 
(金融政策偏重)
まず、目玉の金融緩和です。

自公連立政権は、大胆な金融緩和を求め、政策の目標として、消費者物価を2%に設定するように主張し、日銀も受け入れる流れです。

安倍さんは、デフレと円高が問題だと考えている様です。
金融緩和で円安になり、デフレは克服でき、日本経済は復活するというシナリオです。
 
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日銀は、今、消費者物価が1%になるのを目処に金融緩和を続けていますが、目処から目標に変え、しかも2%に上げて、なりふり構わず緩和を進めさせようという訳です。

しかし、以前の自公政権の時も、金融緩和を続けたけれど成果が上がりませんでした。今回の措置でどう変わるか、道筋を示す必要があります。
 
(円安が本当に良いこと?)
そもそも、円安が、本当に良い事なのでしょうか。

確かに、円安になれば自動車や電機などの輸出産業は為替差益で、収益は改善します。

しかし、ヨーロッパの自動車メーカーは、ユーロ高でも輸出価格を上げているのに、日本の車は円高で価格を上げられない、こうした競争力の落ち込みが根本の問題です。
円安で競争力を回復させ経済を再生させるというのは、楽観的では無いでしょうか。

経済全体を見ても、ドルなど外貨建でみると、輸出額より輸入額の方が多くなっており、今や、日本全体では円高の方がメリットが大きくなっています。
原発が止まりLNGの輸入を増やさなければならない今、円安は首を絞めかねません。
円安のデメリットも視野に入れて、考える必要があります。
 
(相変わらずの公共事業)
次に、国土強靱化計画に象徴される公共事業です。
 
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安倍さんは、政権が発足すると直ちに10兆円程度の大規模な補正予算を編成する様指示しました。
学校や病院の耐震化といった公共事業が中心でしょう。

日本経済は、このところ2四半期連続してマイナス成長で、景気は後退しています。

2014年の春から消費税の引き上げが予定されており、来年の秋には景気を回復させる必要があります。

短期間に元気にするため、公共事業を軸に補正を組むというのは理解できます。
 
(本当に用意できますか)
気になるのは、10兆円といわれる大型補正の中身はどうなるかです。

補正の場合、来年3月までに契約を済ます必要がある等、様々な条件が付きます。
しかも、震災の復興事業では、働く人が足りなかったり、資材が用意できずに遅れがちで、新たな公共事業を消化しきれるでしょうか?

こうした制約の下で、景気回復につながる魅力的なメニューを用意することが出来るかどうか、安倍さんの力量が、まず問われます。
 
(波及効果が縮小)
さて、短期的な対策として期待出来る公共事業ですが、中長期的な効果は疑問です。

国土強靱化計画は、200兆円という規模が言われますが日本経済を再生するため、今後も公共事業に頼ろうというならば、これは疑問です。

高度成長の時代と違って、今は、公共事業の波及効果、経済効果は限られています。
老朽化した道路や橋の補修、災害に対する備えを強化することは意味がありますが、借金をする以上、内容を十分吟味する必要があります。

安倍さんは、金融緩和を進める中、日銀が国債を大量に買うべきだと言いますが、公共事業で国債をどんどん発行するためだとしたら、本末転倒の議論でしょう。

また、公共事業は、古い体質を温存して日本経済の構造調整を遅れさせる問題もあります。

大蔵省の武藤元次官は、「公共事業は道路だとか治山治水だとか、旧来のチャンネルを通してお金が流れるので、今の構造を温存することになりがち」だと言います。
 
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(財政再建)
日本経済の将来を考える時、安倍さんには、財政の再建と経済の体力回復に全力を挙げて貰いたいと思います。
 
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日本経済というお城はすっかり傷んで、土台の石垣に当たる財政の再建は不可欠です。
消費税を本当に引き上げるかどうかは、経済情勢によって判断する事になっています。

安倍さんは、自民党の総裁選の中で「デフレが続いているなら上げるべきでは無い」と主張していますが、額面通り受け取れば、引き上げは容易ではなさそうです。

積極的な財政政策をとった上、消費税の引き上げを先送りする様な事態になれば、市場関係者は「財政規律は失われる」とみて、国債の金利の上昇を招きかねません。

景気が余程の事態になればともかく、今は毅然とした態度を取る必要がありそうです。

引き上げが出来る様に景気を回復させると共に、食料品の税率を抑える軽減税率など、弱者の対策をじっくりと考えて欲しいものです。
 
(政府偏重)
一方、天守閣も痛みが激しくて使い続ける事が難しく、経済に例えると、体力を回復しないと成長出来ません。

経済のゆがみを確認するためこのグラフをご覧下さい。
 
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GDPの内訳です。

プラザ合意があった1985年度に、公共事業等政府の支出は全体の20.1%でした。
2010年度には、これが24.5%に膨れあがっています。
政府の役割が大きくなる一方、民間のウエートが落ちていると言う訳です。

アメリカは全く逆で、政府は全体の20.6%から17.1%に落ち、民間主導の姿が一段と鮮明になっています。

政府の支出は、民間の活動と比べて経済の波及効果は小さく、日本経済の活性化に繋がりにくい問題があります。

「お上依存の経済」に成り下がって活力を失った今、まさに、民間企業に頑張って貰わないと困るし、そのための政策が必要です。
 
(成長分野への誘導)
日本経済が再生するには、成長分野に進出する必要があります。
国際的には、TPP・環太平洋経済連携協定への交渉に参加するかどうかです。

選挙中、自公両党は参加に消極的でした。
これに対して、経済界は、「成長するアジア等で活発にビジネスを進めないと、日本の将来は無い」と、交渉に参加するよう迫っています。

この問題では、強く反対している農業団体を説得できるかどうかが焦点です。

来年夏に参議院議員選挙を控えて、農家の票を逃す事は死活問題でしょうが、日本の将来がどうなるかを考える時、安倍さんのリーダーシップが問われるところです。
 
(国内)
国内でも状況は同じです。

社会保障制度で、将来の不安を取り除いてくれる様に、制度が再構築されたら、皆が安心して消費するようになり、最強の経済対策となります。

成長分野として、医療や介護、それにエネルギー・環境などで、新しい技術やサービスの開発が欠かせません。
 
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既に様々なメニューが提案されていますが、関係者の利害調整が進まずに仲々動きません。
火中の栗を拾う勇気を持たない限り、何時になっても状況は変わらないでしょう。

いずれも自民党政権の時代から引き継いだ問題で、何時までも堂々巡りの議論を繰り返さず、今度こそ、安倍さんは政治の責任で長年の宿題を片付けてもらいたいものです
 
(山田伸二 解説委員)