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コラム
「福島のことが頭から離れなかった」。民主党代表選への出馬を断念した細野豪志原発事故担当相は、そう語った。9月7日のことである。自分の使命は、原発事故の収束に力を入れることであり、党内の権力争いに参加することではない。固い決意を示すその顔は、どこか凛々しくも見えたものである。
ところが、固い決意を語った半月後……細野氏は、民主党の代表に再選された野田首相から、政調会長への就任を求められる。そして、その要請を引きうけたのである。政調会長とは、前選挙での公約を実行したり、次期選挙での公約をまとめる党内の部署(=政策部会)の責任者のことを言う。
民主党の場合、幹事長や国会対策委員長と並んで「三役」と呼ばれるほど、政調会長は重要なポストである。政党の仕事で多忙となり、「福島のこと……」などとは言っていられなくなるのは目に見えている。細野氏は41歳。党三役への就任は、原発事故の処理が一段落してからでも遅くはない。「福島を見殺しにした大臣」と揶揄されても、政調会長というポストにはそれを超える魅力があると言うことなのか。
他方、自民党の総裁選では、5年前に「お腹が痛くて」首相を辞した安倍晋三氏が総裁に選ばれた。「美しい国」などと言っておきながら、安倍氏が任命した大臣は馬鹿な発言を繰り返し、現役の農水大臣は自殺した。おまけに参院選で敗北した責任は、党内ではチャラになったのであろうか。
総裁選の経緯も、素人から見れば謎だらけだ。下馬評の高かった石破茂氏は、1回目の投票で国会議員票34と党員票165の計199票を集め、2位の安倍氏は国会議員票54と党員票87の計141票であった。そして、決選投票は国会議員のみが投票し、108票を集めた安倍氏に89票の石破氏は敗れた。
ちなみに「党員票」とは、各都道府県の出先機関である連合会にはそれぞれ持ち票があり、どの候補者にどんな割合で振り分けるのかを党員と党友による投票で決めた結果である。要は、自民党を末端で支持する人々の「民意」の結果だとも言える。だが、その「民意」が総裁選で反映されるのは1回目の投票時のみであり、決選投票では無視される。
興味深いのは、キャスターらが「これはおかしい」と指摘しても、総裁選を報じる記者が口をそろえて「制度ですから」とか「決まりですから」と言って、この「民意」が反映されない総裁選を批判しないことだ。仮に次期衆院選で自民党が勝てば、腹痛で内閣を放り出した人物が再び首相になるのである。なぜ記者は黙っているのか?
細野氏は福島の人々の「民意」を、安倍氏は党員や党友の「民意」を、それぞれないがしろにした上で政調会長となり、党総裁となった。「こんな人たちに政治を任せていいのか!」と思うが、代わりに誰を推してよいのか分からない。不安定で不条理な日本の薄暗い空に、どす黒い暗雲が立ち込めようとしている。
(谷川 茂)
「安倍自民党総裁」誕生の不条理に政治記者は沈黙
2012.09.28 11:15