2012年12月29日

安倍内閣に批判的なメディアは内閣支持率が低いという俗説について

■残念な世論調査攻撃
 一部のフリージャーナリスト、あるいは週刊誌やスポーツ紙の記事執筆者は世論調査を毛嫌いしている。それなりに適切な世論調査を行うためには、それなりの資金力が必要であり、現代において世論調査報道は大手メディアの独占物であるかのようになっている。こうした大メディアへの対抗心、悪く表現して嫉妬が、近年の世論調査叩きのベースにあるのは間違いないだろう。もちろん、それを読んで喜ぶ読者が向こう側にいてのことである。

 もっとも、こうした業界内ルサンチマン的な批判は、結局自らの調査不足、無知などをさらけ出すだけに終わることが多い。たとえば2012年の衆院選期間中に大量にRTされた週刊ポストの「鳥越俊太郎氏 若者ら除外する世論調査結果の信憑性に疑問」という記事では鳥越俊太郎氏が「選挙に関する世論調査の結果を発表する前に選挙の担当者が数字を"調整"するのをしばしば見てきた」と述べているが、事前情勢報道と通常の世論調査の区別がついていないように見受けられる(事前予測でどのような「調整」を行うかは、吉田貴文『世論調査と政治―数字はどこまで信用できるのか』(講談社プラスアルファ新書)を参照)。

 同じく週刊ポストの「大手新聞 世論調査は質問の仕方で結果を操作できると認める」という記事では、「操作」という言葉を用いているが、単に回答者の意見の強さと質問の仕方の組み合わせによって数字が異なるというだけである。新聞各社の質問文は維新の会の国政進出表明前から変わっておらず、意図して質問文を作っているわけではないことは明らかであり、まして人々の意見を変えたりできるわけではない。本当に操作したいなら、普通に考えて自民党の支持率を変えるだろう。携帯電話しかもたない若者層が反映されていない、主婦と年金生活者しか回答しないなどと、世論調査手法に欠陥があると吹聴してまわる人物も多いが、それらが実際にどれくらい歪んでいるかを計算して示した例は見たことがない(簡単に読めるものとしては福田昌史「世論調査「固定電話対象」は正確か」『毎日新聞』2010年11月26日を参照)。


■内閣支持率の相違をめぐる俗説
 さて、こうした残念な世論調査批判の新しい例が、夕刊フジの「安倍内閣支持率、メディアによってこんなに違う!!」である。エクスクラメーションマークを2つも付けていることから、「傾向として、安倍内閣の経済・外交政策に好意的なメディアは高く、批判的なメディアは低く出る、興味深い結果となった」という事実を、読者にも同様にびっくりしてもらいたいということなのだろう。2ちゃんねるのまとめを見る限り、その思いは通じているようである。

 日経や読売で内閣支持率が高く、毎日新聞で低いといった結果は、たしかに「経済・外交政策に好意的なメディアは高」いという指摘に一致するように見える。だが残念なことに、この夕刊フジの記事執筆者は、親会社である産経新聞の世論調査結果を忘れていたようである。もしくは、「想定通り」高い数字を出してくれると信じていたのかもしれない。しかし、FNN産経新聞合同世論調査の内閣支持率は55%と毎日新聞に次いで低い値であった。さて、いつから産経新聞は安倍自民党に批判的になったのだろうか?

 この、政府に近いと内閣支持率が高く、批判的だと低いという俗説は、自民党政権時代にしばしば聞かれたものである。だが、民主党政権に代わっても、日経、読売は高く、毎日、朝日は低いという傾向は変わらなかった。調査社ごとの支持率の傾向は、政府への態度は無関係に決まっているのである。支持率の高低の傾向は、調査の設計、つまり質問文・選択肢や聞き方によってほとんど決まっていると考えられる。たとえば日経新聞の世論調査では、日経リサーチの質問文を見てのとおり、「(「いえない・わからない」と回答した方に)お気持ちに近いのはどちらですか」と重ね聞きし、結果を内閣支持率としているため、数値は高くなる。一方、毎日新聞は「関心がない」という選択肢があるため、支持率は低くなる。

 このような議論は「内閣支持率が新聞ごとに違うのは、新聞の論調によって回答拒否(あるいは迎合回答)が発生するからだ、という説について」というエントリですでに書いている。このときは麻生内閣と鳩山内閣の異なる時期の支持率を朝日と読売で比較している。この議論をネタにしたレポート課題を授業でも出しており、これは「データで政治を可視化する」荻上チキ編『日本の難題をかたづけよう』(光文社新書)で練習問題として採録し、簡単に解説している。


■データ確認:野田内閣と第2次安倍内閣
 せっかくなので、今回もデータを見ておこう。下図は、野田内閣と第2次安倍内閣の初回支持率を各全国紙、通信社のデータを比較してみる。なお、野田政権のデータは前回同様giinsenkyo@ウィキから得ている。継続的なデータ整備の努力に感謝申し上げたい。

image002.png

 どの内閣でも初回調査は、平日に短時間で行う調査であり、今回の場合は選挙直後、年末といった特殊条件も重なっているため、普段の傾向とは異なるところもあるかもしれないという留意は必要だが、この図から確認できることをまとめると、次のようになる。

 (1)読売、共同、日経がどちらの内閣でも支持率が高いグループ、毎日、産経、朝日がどちらの内閣でも低い側に来ている。
 (2)第2次安倍内閣の支持率のほうが各社とも低い数値となる傾向にある。
 (3)朝日新聞は全体の傾向からずれており、第2次安倍内閣の数字が高くなっている。

 このように見ると、先の夕刊フジの記事のような解釈は誤りなのは明らかであろう。あるいは、「朝日新聞が安倍政権にすり寄っている」といった解釈を提示したほうが、まだ「わかっている」記事となっただろう。


■おわりに
 この記事で示したことに限らず、世論調査には間違った批判が多い。ただ、こうした批判が間違っているからといって、現代日本の世論調査が健全であるということではない。詳しくは、「スケープゴート化する世論調査―専門家不在が生む不幸な迷走」『Journalism』2011年1月号、「世論調査政治と「橋下現象」―報道が見誤る維新の会と国政の距離」『Journalism』2012年7月号などを参照されたい。なお、『Journalism』の次号(2013年1月号)でも世論調査特集が組まれており、筆者は対談に参加しているので、ご一読いただければ幸いである。




posted by sugawara at 02:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | データ
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