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焦点:トヨタがデザイン改革に本腰、個性打ち出しブランド強化へ

ロイター 12月25日(火)13時36分配信

焦点:トヨタがデザイン改革に本腰、個性打ち出しブランド強化へ
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12月25日、トヨタ自動車がデザイン改革に本腰を入れている。写真は昨年6月、都内の同社ショールームで撮影(2012年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 25日 ロイター] 「デザインをかっこよく変えてほしい」。2年前、トヨタ自動車<7203.T>のデザイン本部長に抜擢された福市得雄常務役員(61歳)は、豊田章男社長からの注文に意見した。「かっこいいだけでは駄目です。トヨタのクルマに一番欠けているのは個性じゃないですか」

関東自動車工業の執行役員を務めていた福市常務を本社に呼び戻したのは豊田社長本人。当時は子会社への転出は片道切符が通例で、本社に復帰するのは異例だったが、日本のミニバンブームの火付け役となった初代「エスティマ」の外装デザインを手がけ、トヨタ欧州デザイン拠点のトップも務めた福市常務に、豊田社長はデザイン改革を託すことを決めた。

デザイン改革の目的は、個性あるクルマ作りで海外勢に負けない看板商品を生み出すこと。これまでは強い販売力を武器に「万人受け」するクルマを中心に展開してきたトヨタだが、デザインで先行するドイツ勢や、海外からデザイナーを引き抜きデザインに磨きをかける韓国勢との競争激化がトヨタを「変化」へと揺り動かす。デザイン改革を先導する福市常務は、トヨタの生産方式では欠かせない「カイゼン」の発想でさえ否定することも恐れない。

<民主的なプロセスを見直し>

一般的にトヨタ車はライバル車と比べ「万人受けするが個性を欠く」と言われる。福市常務はその理由の1つをデザイン決定までの民主的なプロセスにあると分析し、メスを入れた。

新車のデザインは、一般社員による評価を3回繰り返した後、最終候補を役員が参加する審査会にかける。各部署から選ばれた約100人の社員が、原寸大のクレイ(工業用粘土)模型をみながら得点をつけ、高得点を獲得したものが次の段階に進む。問題はその過程で社員の意見を反映した修正が加えられること。グリルが大きいと言われれば小さくし、ランプが小さいと言われれば大きくする。様々な意見を聞き入れ、修正を重ねれば重ねるほど、デザインは平準形に近付き、クルマの個性となりうる「芽」を摘みとる格好になる。

「デザインに関しては、カイゼンによって『良くなる』とは限らない」。そう考えた福市常務は、社員評価はあくまで参考意見として扱い、デザイナーやチーフエンジニアなど開発陣の意思をより尊重するしくみに修正した。最終審査でも決定権を持つ役員の人数を大幅に絞り「欠点をなくすモノづくり」から「長所を伸ばすモノづくり」への転換を進める。

プロセス修正のもう1つの狙いは、社内の評価担当者の目線を先に向けること。社員も役員も現在の目線でモノを評価しがちだが、それではデザインが商品化される1年半─2年後には陳腐化している危険性がある。「かっこいいクルマをつくろうと思うなら、現時点では、ちょっと変じゃないかと思われたり、抵抗感があったりするくらいがちょうどいい」。福市常務が目指すのは、個性的なデザインをつぶさないために必要な社内の意識改革だ。

自動車業界の専門家はトヨタの改革をプラスと捉える。UBS証券アナリストの松本邦裕氏は、トヨタのクルマは品質や性能は高いが、デザインが見劣りするためユーザーの選択肢から外れることがあり、会社側もその問題を認識していたと指摘する。それでも変えられない「大企業病」に悩まされていた同社が、豊田社長の一声で、これまでは認められなかったようなデザインが採用されるようになってきたのは、いい変化だと前向きに受け止める。「これまではトヨタのデザインにやや味気なさを感じていた」と語る地場資本のトヨタ系ディーラー首脳も変化を歓迎している。

<価格競争に左右されない強いブランド>

トヨタが改革を急ぐ背景には競争環境の変化もある。これまでは良品廉価の商品と強力な組織力を背景に世界で販売を拡大してきたが、海外のライバルが力をつけ、燃費や安全性など性能の差は縮まっている。その中で、デザインは他社と差別化するための数少ない武器になりうる。

デザインの世界では、メルセデス・ベンツなどのドイツのブランドがベンチマークとみなされ、日本メーカーを追いかける立場だった韓国勢は、BMW<BMWG.DE>やフォルクスワーゲン<VOWG_p.DE>、アウディからデザイナーを引き抜き、デザインの改善に取り組んでいる。現代自動車<005380.KS>は幹部の意識改革が進み、デザイナーの意図が商品に反映されるようなしくみが既に構築されつつある。

トヨタはレクサスブランドを含め、世界で約100車種の商品ラインアップを抱える。魅力のないクルマは競合他社との競争の中で埋没し、世界で苦しい戦いを強いられる。逆にブランドを確立し、熱烈なファンを囲い込めれば、価格競争に巻き込まれることなく、収益を向上できる。

既に商品に変化の兆しは表れている。高級車「レクサス」ブランドには、フロントグリルと下部バンパー開口部を一体的に見せる「スピンドルグリル」を車種共通のデザインとして採用した。トヨタブランドでは、新型乗用車「オーリス」から車両前方のエンブレムからヘッドライトにかけてV字型につなげた「キーンルック」と呼ぶ先鋭的なデザインを採用した。これらも競合製品との戦いに負けないための戦略。欧州ではシェアが4%しかないが、「顔」に統一感を打ち出せれば、シェアが低くても存在感を高められると福市常務は踏む。

同常務は「トヨタのクルマはみんな平和な顔をしていた。ファミリー向けであればそれでもいいが、スポーツカーまでそんな顔をしている必要はない。100車種の中には個性的に見せたいものもあるし、ユニバーサルなクルマもある。我々は見せたい方向をもっと鮮明にしなければならない」と考える。

<変わるリスクと変わらないリスク>

ただ、改革のリスクを指摘する向きもある。米デトロイトにあるデザイン学校、COLLEGE for Creative STUDIESの伊藤邦久教授は「トヨタは仕立てのいいスーツのように正統派ながらもキラリと光るもののが良かったが、個性を前面に出そうとすることで、そうした本来の良さもなくしてしまうのではないか」と心配する。

事実、6月の株主総会では、レクサスのスピンドルグリルのデザインに対し否定的な声も上がった。それでも福市常務はリスクを取る道を選ぶ。守りに入ってリスクをとらなかった商品が失敗した事例を過去に数多くみてきたためだ。「トヨタは販売力があるので台数は出してきたが、インセンティブやマーケティングなどの販売費用が莫大にかかった商品もあった。販売コストを載せたら赤字、という商品は売れても失敗作」。賛否両論あっても「今リスクを背負わなかったら将来はない」と腹をくくる。

<豊田社長が求める変化>

豊田社長も「守りのデザイン」には興味を示さない。福市常務によれば「社長は『変わった』と思えることならどんどんやっていく。そういう意味では社長が一番アグレッシブ」。同社長が変化に貪欲なのは、2009年から10年にかけて世界で吹き荒れた品質問題が影響している。豊田社長は今月、都内のイベントで、米議会の公聴会に召喚された時のことを振り返り「少なくとも自分が社長でいられなくなることを覚悟した」と打ち明けた。リーマンショックの影響も重なり、このままトヨタはつぶれるのではないか、というささやきすら耳に入っていたという。

社長の心中には、世界で規模の拡大を急いだあまり、人材教育が追いつかず、品質問題を招いたとの反省がある。そこから得た教訓は、全社が収益や販売台数目標に固執するのは結果的に良くないということ。豊田社長が数値目標を掲げず「もっといいクルマをつくろう」とスローガンを繰り返すのもそのためだ。

今、豊田社長は社内の変化に手ごたえを感じ始めている。「もっといいクルマをつくる」ことの意味を、社員全員が考え続けた3年。その成果が出始めているとみる。「変化は市場やお客さんに評価され、そこからまた進歩が始まる」

競合他社もトヨタの変化を意識する。「かつてのトヨタは商売に対する熱は高かったが、クルマに対する熱は低かった。豊田社長のクルマ熱とトヨタのビジネスセンスが合体すると会社が強くなるという怖さがある」(日系自動車メーカー首脳)という。

11月下旬、都内の「レクサス」試乗会に現れた豊田社長は記者団にこう語った。「クルマが変わらなければ、企業が変わったことにはならない。レクサスやクラウンなどの旗艦車種をここまでやっていいのかと思うところまで変えることで会社の軸はぶれなくなる」。豊田社長がこう話した新型「クラウン」が今日発表される。デザイン改革の試金石となる14代目のクラウン。周囲の評価が注目される。

(ロイターニュース 杉山健太郎、久保田洋子 編集:大林優香)

最終更新:12月25日(火)16時10分

ロイター

 

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