「福島は終わった」と外からがっかりする身勝手 世界はそう簡単に終わらない (安積咲)<衆院選・特別コラム>

gooニュース2012年12月22日(土)18:00

 福島県の衆院選は、自民圧勝という結果に終わりました。この結果は住民の意識が変化したというよりも、むしろ政権交代以前の状態に戻ったとも言えます。福島2区の郡山市、旧市街地に住む私の主観ですが、そこで投票した多数の住民たちは、自民党への期待感よりも、他に託せる候補者がいないという理由による判断を下したではないか、と感じられます。

 地方政治での得票には、政党や政策より先に、長く培われてしまった地元の人間関係や、利権のようなものも深く絡んでいるのは事実です。今回もその影響が無かったとは言えないでしょう。

 ですが、その地方での人と人とのつながりが、全て悪いとも限りません。地元に強いという事は、その地での人間関係を重視しているという事でもあります。震災時にその繋がりがいち早い救済行動に繋がったという事実もありました。

 先の選挙の際には、政権交代で全てが変わると言わんばかりの華やかな報道がされていましたし、ここに住んでいてもそんな希望に溢れた声を聞きました。けれども結局そのような劇的な変化は訪れず、その上震災に遭い、その復興が遅々として進まない状況に、前政権への希望を失い、それまで長く地元とのつながりを保ってきた代議士に票を投じたのかもしれません。

 しかし、報道やインターネットの一部では、福島県でのこの結果を嘆く声が多く見受けられました。「福島県民にはがっかりした」「福島は終わった」といった発言や、更に見苦しい明らかな軽蔑の言葉までもありました。

 その幻滅の一つは、自民党の圧勝という偏りにあるでしょう。それは分からなくもありません。いずれにしても一政党の議席が大多数を占めてしまう状況が好ましいとは言えません。

 ここまでの偏りは予想外としても、現政権が政権を奪還した事で何もかもが良くなるなどと夢想する住民が、ゼロとは言わないまでも多いとは思えません。そこまで事態が単純ではないと、住んでいる人間ほど身に染みて分かっているはずです。

 けれど、外部からの嘆きの声の多くは、原発問題との関わりについてでした。脱原発を強く推した候補が落選したからでしょう。

 私にとっては、この福島の選挙結果をその視点だけで捉えられる事は、残念でなりませんでした。

 選挙前のコラムにも書かせて頂いたように、震災後の原発問題に苦しめられ、未だに問題を抱えてきたのは、誰よりも福島に住む当事者たちです。その住民たちが選択した結果を、自分たちの望む結果ではなかったからと言って、即座に否定する。それは非常に身勝手な言動にしか、私には思えません。

 地元の声を聞いて欲しいと、私は書きました。

 選挙の結果が地元の声の全てだと言うつもりはありませんが、なぜそんな結果になったかをまず、考えて頂きたかった。その選択をした人々が、今、何を望んでいるのかを。それが「地元の声を聞く」事ではないでしょうか。それをせずに絶望感に浸る人は、結局被災地に暮らす人の気持ちを見ようとはしなかったのだな、と私は思います。

 思えばあの震災以降、何度も「絶望的だ」という声を聞きました。「もう終わりだ」という声も。

 津波や震災で大切な家族や家や仕事を失ってしまった方々、原発事故のせいで故郷に戻れずにいる方々、そんな人たちがそれを言うのなら無理もないと思ったでしょう。

 ところが、私が見受けたその半分、いや多くは、被災地から遠く離れた人たちからのものでした。

 衣食住が足りていても悩みを抱えている人はいるでしょう、人それぞれに問題はあるでしょう。そこに順位をつけるつもりはありません。それでも私は思いました。

 絶望とは、なんと軽々しい言葉になってしまったのかと。

 地上が裂けるのではないかと思うような地震を経験し、この場所さえも放射性物質の降下により避難区域になるかもしれないと怯えたあの日、「もうだめだ」「絶望的だ」なんて言葉は出てきませんでした。

 絶望している暇などなかった、と言ってもいいかもしれません。とにかく、何ができるか、どうすればいいのか、具体的に何をするべきか。自分の置かれた場所など比較にならないほど凄惨な状況が他にあったからこそ、逆に冷静になっていました。

 そしてたまたま私の身近には、ライフラインの復旧や避難所に携わった人間がいました。そんな彼らが、自身も被災者であるのに、寝食も満足に取れずに動いているのを見ていれば、絶望に浸っている事などできませんでした。私自身が役に立たなくとも、己の気持ちに負けていては、あまりにも恥ずかしいと思いました。

 一瞬にして失われた日常を取り戻すために、必死に動いていた人たちが、あの窮状を支えていた。己の失望や恐怖に押し潰される暇さえなく、誰かを助けるために、必死に動いていた方々が、今の私たちの生活を支えてくれていているのだと思います。

 選挙結果が自分にとって思わしくなく、例えば脱原発を求める自分の欲求が即時に満たされない結果であったとしても、すぐに全てを投げ出して「もうだめだ」と口にする事は、より凄絶な現場で絶望と戦いながらここまで暮らしを支えてきた人たちに対して失礼だとは思いませんか。

 ましてやそれが今回の選挙の立候補者であったなら、私はそのような人間に政治を任せようなどとは決して思えません。

 復興への道が長いからこそ、簡単に物事を投げ出すような言動を見せる相手が、信用されるはずがありません。それが、人の命や未来を大切にするなどと謳った人間ならば尚更、空々しい。

 私はこの名前でツイッターで発言を始めた頃、「福島を勝手に終わらせるな」と書きました。当時、原発事故後の混乱の中、「もう福島は終わった」という発言や、「ノー・モア・フクシマ」などといったスローガンを目にするようになったからです。

 この地に住み続けている人間に対して「福島は終わった」という言葉を投げつけられる事が、どれだけ住人の気持ちを傷つけたか。ここでは確かに続いている日常を「終わった」と切り捨てられる事が、どれだけ悔しかったか。

 終わってしまったのはその言葉を口にした人間の気持ちであり、福島ではありません。

 より深い絶望の淵からも立ち上がろうとしている人がいる場所に、外部から諦観を突き付ける権利が、誰にあるのでしょう。

 被災地を「終わった」と決め付ける事、己の絶望を押し付ける事を、まず考え直して頂きたいと思うのです。

 戯曲や小説では、大震災や原子力発電所の事故によって終焉を迎える世界が多く描かれましたが、幸い日本も、福島も終わらずにこうして続いています。

 それは良くも悪くも政権に関係ない一人ひとりが、あの1年9ヶ月前に心を砕き力を尽くした結果であり、今日がその築き上げた「未来」です。

 世界はそう簡単には終わらない。

 それが、あの震災を経て、強く感じた事です。

 終わっていないなら、まだ訪れてはいない本当の終焉を嘆く前に、出来る事があるはずです。

 簡単にそれを諦めては、この震災を乗り越えるために踏み留まった人たちに恥ずかしい。

 終わらせないための変化は必要だと、私も思います。でも、今まで辿ってきた道を全否定するだけがその方法だとも思いません。

 よく田舎の人間は新しい動きを嫌うと言いますが、それは繋がりの深い人間関係の中で信頼を得るまでに時間がかかるからでもあります。

 その地を作り上げて来た人々や、その歴史には、例え多少の悪習が含まれていたとしても、それなりに意味があります。そこに敬意や感謝を払おうとしない態度は、その地に暮らす人への侮辱とも言えます。

 澱み切った関係性を見直すのは当然必要ですが、極端な浄化は人々の反発や混乱を招くだけであり、その変化には時間と忍耐が必要です。

 全てを否定せず、もちろん盲信もせず、反省と変更を繰り返しながら、少しずつ前に進むという姿勢は忘れずにいる事。それが、複雑な関係を抱えたままの、震災復興半ばの地方では、避けられない方法のように思います。

 また、それは地方に限らないかもしれません。時に人は劇的な変化を夢見て、世界を変えるという言葉に酔いしれがちですが、未来が明日の先に続くものと同様に、世界が変わるその時も、己の目の前の些細な何かを変える事こそが、最初の一歩なのです。

 そして、またあの震災が遠い過去へと流されて行く中で、最後にどうしてもこれだけは伝えておきたい事があります。

 被災地で復興へ向けてがむしゃらに頑張り、物理的にも精神的にも耐え続けてきた中には、疲れを見せる人が増えています。中には政治に対しても、落胆も期待も何もかもを求められないほどに疲弊している人もいます。

 どうかその人たちより先に、世界を諦めないで下さい。

 政治に期待を持てないなら、だからこそ、その皺寄せに更に苦しみ続けている人たちを忘れないで下さい。

 本当に彼らを想うなら、何が苦しむ彼らを救うのか、彼らの立場になって考え、目を向ける事を止めないで下さい。

 それが、被災地とは呼べないまでも、被災地のひりつく痛みを感じる距離に生きる、私からの願いです。



<筆者紹介> 安積咲(あさか・さく) 福島県郡山市在住、自営業。38歳。震災後、ツイッターで筆名「安積咲@福島県産」(@asakasaku) として、発信を続ける。

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