社説

中国「尖閣」文書/わが国の正当性を裏付けた

 沖縄県の尖閣諸島を、中国側が「自らの領土ではない」と認識していたことを示す文書の存在が明らかになった。
 文書が作成されたのは1950年5月。発足直後の中国共産党政府が尖閣諸島を「琉球の一部」と見ていたことが記されており、「尖閣は台湾の一部と一貫して主張してきた」との中国側の立場は根拠が揺らぐこととなる。
 周辺に石油資源の存在が明らかになった70年代以降、唐突に尖閣諸島の領有権を主張するようになった中国の言い分が「後出しじゃんけん」だった証拠とも言える。
 中国の東シナ海進出の論拠にダメージを与えることは間違いない。中国の一方的な理屈に対して、わが国の正当性を裏付ける有効な外交カードだ。
 だが、尖閣問題に関し、外交による解決が日本にとって最良の道であることには変わりがない。島への船だまり建設や公務員常駐などの強硬な措置を急ぐことは、得策とは言い難い。
 文書が示す通り、中国の言い分は根拠が薄い。交渉を通じて挑発を押し戻すことが先決だ。
 文書は、対日講和条約への参加を検討する中で作成された内部討論のたたき台とみられる。
 日本は51年のサンフランシスコ条約で米国との単独講和を選択しており、文書作成時の対日講和は現実の交渉とはならなかった。実際に、内容が連合国側や日本に対して示されることはなかった。
 文書の主張が今と食い違っていても、中国側が「公式見解ではない」と否定する余地は残る。
 70年代以降、中国は国際海洋法条約の制定過程から海洋進出の法整備を積み上げてきた。大陸棚の範囲や排他的経済水域(EEZ)など、現在の海洋秩序の根幹をなす取り決めだ。
 現在、日本に突き付けられた尖閣トラブルは、40年間蓄積された中国の海洋政策がもたらしているものにほかならない。
 途上国だった中国は艦船などの実効的配備に加え、国内法も含む法整備を周到に重ねることで米英など伝統的海軍国に対抗し、海洋資源獲得を目指した。
 ルールを国益に結び付けるため、中国は強硬で無理がある主張でも「条約下の合法性」を盾に国際社会に声を上げ、既成事実を積み上げてきた。
 武力による紛争解決を放棄した日本にとって「領土問題は存在しない」とし、あえて刺激しない道を優先してきたことは賢明な選択だ。
 問題は、東シナ海のガス田共同開発の例のように、結論を詰め切らないため相手方の実力行使を許す外交の甘さにある。
 米国は海洋法条約を批准していない。求められるのは、米国不在の条約体制にあっても、国際社会に有効な対抗策を働き掛ける日本の外交力だ。
 尖閣周辺海域での艦船や航空機による挑発が続き、中国に対する国民の不満は募っている。だが、ナショナリズムの高揚に任せた直接行動は、日本が取るべき道ではない。

2012年12月29日土曜日

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