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2012年12月29日(土)付

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原発新増設―「反省ゼロ」ですか?

茂木経済産業相が就任早々、「未着工の原発の新増設は認めない」という民主党政権の方針を白紙にすると表明した。新増設の中止は、脱原発への幅広い民意を受けての決定だった。自民[記事全文]

防衛産業不正―奢りと甘えにメスを

防衛・宇宙産業が抱える病巣の根深さに愕然(がくぜん)とする。この分野ではトップクラスの三菱電機による過大請求問題である。このほど発表された調査結果[記事全文]

原発新増設―「反省ゼロ」ですか?

 茂木経済産業相が就任早々、「未着工の原発の新増設は認めない」という民主党政権の方針を白紙にすると表明した。

 新増設の中止は、脱原発への幅広い民意を受けての決定だった。自民党も公明党との連立合意で「可能な限り原発依存度を減らす」としている。

 新増設を認めて、どうやって原発を減らしていくのか。あまりに思慮に欠ける発言だ。

 福島第一原発は、政府による「冷温停止状態」宣言から1年たつが、爆発が起きない程度に落ち着いただけである。詳細な事故メカニズムも不明だ。廃炉作業にも入れていない。

 周辺市町村の除染作業も遅々としており、避難した16万人の帰還や生活再建はめどが立っていない。二度と事故を起こさないために何が必要か。原発の新たな安全基準や「起きてしまった場合」の防護策すら整備できていない段階だ。

 安全神話のもとで事故への備えを怠ってきた原子力行政は、長期にわたる自民党政権が築いたものだ。

 だからこそ、総選挙で自民党も「原発に依存しなくてよい社会」をうたい、「自分たちは変わった」と主張してきたのではなかったか。

 脱原発への航路や速度に議論の余地があるにしても、乗客が船に乗り込んだとたん、逆方向へかじを切るようなやり方は、政治の信頼性に関わる。これでは「反省ゼロ」政策だ。

 茂木氏は核燃料サイクル政策についても「完全放棄の選択肢はない」と明言した。だが、長年にわたって巨額の投資をしながら実現していない事業だ。そもそも原発を減らすなら、サイクルの必要性は薄れる。

 こちらこそ白紙に戻し、放射性廃棄物の現実的な処理策を真剣に議論すべきときだ。

 安全対策や後処理にかかるコストを勘案すると、原発の新設は他の電源に比べて決して安くない。それは、すでに検証済みだ。事故のリスクを考えれば、地震が多く、狭い日本での経済合理性はさらに怪しくなる。

 むしろ電源構成の思い切った組み替えや電力システム改革を進めたほうが、新しいビジネスや雇用を生む芽になる。

 原発の新増設に含みをもたせて、旧来の地域独占に守られた電力体制を維持していては、新規の民間投資も、健全な競争も進まない。原発依存から地域が脱する手立ても失う。

 茂木さん、「経済再生」と「新産業育成」が安倍政権の最優先課題ですよね。どっちが得か。よく考えてみてください。

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防衛産業不正―奢りと甘えにメスを

 防衛・宇宙産業が抱える病巣の根深さに愕然(がくぜん)とする。

 この分野ではトップクラスの三菱電機による過大請求問題である。

 このほど発表された調査結果によると、防衛省や宇宙航空研究開発機構などに対する過大請求の総額は、記録をたどれるだけで子会社もふくめ374億円にのぼる。違約金や利息も合わせた返納金は773億円と過去最大になる見込みだ。

 不正の目的は、赤字部門へカネを回し、事業全体で利益と人員を確保することだったという。防衛省などが発注した情報収集衛星や防空システムなどの開発費、つまり税金が穴埋めに使われたのだ。

 不正は、防衛分野では遅くとも70年代から、宇宙分野でも92年には始まっていた。「工数」と呼ばれる作業量を水増しするやり方だ。幹部も承知のうえだったという。

 組織的、かつ長期にわたる不正には驚くしかない。

 同社は、経営管理や組織のあり方を見直し、再発防止を図るという。政府も監査や罰則を強化する。

 それらは当然だが、防衛産業での過大請求は今回でなんと20社目だ。過去には刑事事件として摘発されたケースもある。

 不正の温床となりがちな、業界特有の体質にメスを入れねば再発は防げまい。

 まず、技術が高度で特殊な面があり、代替できる企業が少ないことがある。そこからくる企業の奢(おご)り、官によるチェックの甘さはなかったか。

 実際、同社は指名停止中だった今年前半、1千億円を超える契約を防衛省と結んだ。防衛省は、代わりに調達できる企業がないためだというが、これでは全く罰になっていないと会計検査院が指摘したほどだ。

 宇宙分野でも、現在、国内で大型の実用衛星をつくれるのは事実上同社のみだ。

 赤字体質の背景には、安価な海外の衛星と競うために大幅な値引きが必要だったことがある、との指摘もある。

 防衛装備品では、開発経費は十分に支払われないのが慣例、との企業側の不満もある。適正価格の見極めも必要だろう。

 競争が少ない中で、どのようにして質の高さと低コストを実現し、健全な産業として成り立たせるのか。契約制度などもふくめて根本からの検証が欠かせない。

 そのためにも、今回の不正請求問題の全容を、官側の対応もあわせて解明することだ。これで打ち止めとしてはならない。

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