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【コラム】

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 福島県いわき市の中学二年生樋口侑希(ゆうき)さんの家では原発事故から数日後、家族会議を開いた。避難しようという母と、仕事でいわきを離れられない父がぶつかった。居間に時計の音だけが響き、沈黙の時間が流れた▼侑希さんはその体験を作文に書き、地元紙・福島民報の「ふくしまからのメッセージ」コンクールで入賞した。<私の体は、その時すごく熱くなって心臓がドクドクしていました。父はそっと立ち上がるとリビングを出て寝室に向かいました。その日は、誰も一言も話さずにそのまま寝ました>▼翌朝、侑希さんが起きると、お父さんはホットケーキを焼いていたそうだ。それも数え切れないほどの量を。夜通し作ったのか、目の周りにクマができていたが、晴れ晴れとした顔で言った。「これを持ってお前らは逃げろ」▼<栃木県に避難する途中で一枚だけ父の作ったホットケーキを食べました。焦げていて少し苦かったです。でもその時、久しぶりに家族で笑顔になることができました>▼安倍政権が発足早々、原発の新増設を容認する構えを見せている。中には活断層の危険が指摘される地での計画もある。巨額の税金を投じながら実現の目途が立たない核燃料サイクルも継続するという▼日本を、取り戻す。そんなキャッチコピーで自民は大勝した。取り戻したいのは、原子力ムラの住民の笑顔なのか。

 

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