衆院選:高速無料化 「使えない」しまなみ海道 /愛媛
2012年12月12日
◇島の人口減などに直結
愛媛県今治市・伯方島に住む金山加代子さん(68)=同市伯方町伊方=の自宅から、大三島と生口島(広島県)に架かる多々羅大橋が見える。遠くから友人が来るとみんな一様に島と海と橋の織りなす風景に感嘆するが、金山さんはいつも皮肉を返すという。「あれは観賞用。見るための橋であって、使うためじゃないの」
6年前、現在98歳になる母親の介護のため、大阪市の広告宣伝会社を退職して帰郷。伯方島と四国本島をつなぐ「瀬戸内しまなみ海道」の使い勝手の悪さに驚いた。今治市中心部へ行くだけで片道2000円以上の通行料。安い服や化粧品を買いに行こうとしても、それ以上に「橋代」がかかる。母親が病気になっても中心部にある大きな病院に通院させられないし、最近はせきが止まらないという金山さん自身も行く気がしない。通院で通行料がかさめば、年金暮らしの2人の生活はたちまち窮してしまう。
3年前、高速道路の原則無料化をマニフェストで掲げた民主党が政権を取り、大喜びした。しかし、しまなみ海道は無料化社会実験の対象に入ることもなかった。そのうえ当時の前原誠司・国土交通相は、さらに高くなる新上限料金制度を打ち出した。後に撤回されたが、金山さんは「私たちは結局、票のために踊らされただけだった」と思った。
国交省は今年、しまなみ海道を含む本四道路の通行料を14年度から一般高速道路並みとする方針を示した。金山さんは喜ぶ一方、不安も芽生えた。「なぜ、今すぐじゃないのか。政権によって方針が変わるんじゃないのか」。3年前の前回衆院選にはあった期待感が、今回はゼロという。
島しょ部住民でつくる「今治市島嶼(とうしょ)部橋無料化を実現する会」の代表、松岡映二さん(66)はしまなみ海道を「日々生活道」と表現する。住民が通勤、通学、買い物などに毎日利用するもので、他に代えがないからだ。その使いにくさは島しょ部の急激な高齢化、人口減少と直結している。
無料化の署名集めを始めて5年。松岡さんは「しまなみ海道がなぜ造られたかが問われるべきだ」と訴える。当面目指すのは一般高速道路並み料金への引き下げにとどまらず、島民対象の大幅割引だ。「前例や既得権益にとらわれた規制を取り払う政治家が出てほしい。大幅割引はシステムを考え直すことで実現できる」と考えている。【津島史人】