日本経済は長期停滞から抜け出せず、家計の所得も減少を続けている。安倍晋三内閣が経済再生を最優先とする方針を掲げたのは歓迎すべきことだ。問われるのは政策の中身や組み合わせであり、必要な政策を前に進められるかという実行力である。
安倍首相は就任後の記者会見で「強い経済を取り戻す」と宣言。マクロ経済政策を統括する経済財政諮問会議とミクロ政策を担当する日本経済再生本部を司令塔にして、経済を立て直す考えを明らかにした。
成長力の強化に全力を
マクロとミクロをうまく切り分けられるかどうかは別として、内閣に司令塔を置いて総合的な経済戦略を打ち出すのはいいことだ。民主党政権ではこの機能が弱く、縦割りの弊害に陥りがちだった。経済を強くしていくという意思も弱かった。
安倍首相が最も力を込めるのが、デフレ脱却と円高是正のための金融政策、財政政策を活用した経済刺激策である。
経済の低迷の背景に行き過ぎた円高があるのは確かだ。デフレは円上昇の要因でもあり、結果でもある。金融危機を背景にした米国などの超金融緩和が円高と株安につながったのは否めない。
強力な金融緩和を進めることは円高やデフレに歯止めをかけるうえで必要な条件だ。そのやり方を考えるのは独立した中央銀行である日銀の役割である。金融の安定へも目配りしながら、望ましい緩和策の実行に知恵を絞るべきだ。
財政政策の柱は公共事業に置かれている。老朽化したインフラの補修や再生エネルギーの普及に不可欠な送電網の整備など必要な事業は進めるべきだ。だが、短期的な効果や地方の要望を重視して、いたずらに量を求め、中身の選定をおろそかにすれば債務が積み上がるだけの無駄遣いに終わる。
財政政策を使うならば、法人税率の引き下げなど民間の力を引き出す税制改革のほうが持続的な経済効果は大きい。
忘れてならないのは財政規律を堅持していくという姿勢である。公的債務残高が国内総生産(GDP)の約2倍という日本の財政状況は、どうとりつくろっても危機的と言わざるをえない。
「新政権は国債発行の増加に無頓着で、いざとなったら日銀に国債を引き受けさせようとしているのでは」。そんな見方が市場で広がれば国債金利は急上昇し、利払い費の増加などで予算編成は一気に苦しくなる。国債を大量に保有する銀行も苦境に陥り、金融システム危機にもつながりかねない。
財政への信認を失えば経済再生も台無しになってしまうということを肝に銘じ、財政の健全化を着実に進めなければならない。消費税増税とともに社会保障費などの歳出抑制策も進める必要がある。
経済の再生に向けて重点的に取り組むべきなのは、民間の活力を引き出す成長力の底上げ策だ。
自民党は総選挙の公約で「成長するアジア経済圏を取り込み、戦略的な海外投資と経済連携協定などを展開する」「企業の活動のしやすさを世界最先端にするため、制度的障害をなくす」などとうたった。日本経済再生本部には産業競争力会議も設け、企業活動の下支えに取り組む姿勢を示す。
旧来型の手法に陥るな
これに内実が伴うかが重要である。試金石になるのが環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加するのかどうかだ。自由貿易協定の締結で出遅れたことがグローバル競争を戦う日本企業の立場を厳しくしている。支持母体の農業団体などの反対に屈せず、交渉参加をすみやかに決めてほしい。
新しい需要を引き出す規制改革を大胆に実行できるかも問われる。医療、保育などサービス分野では様々な既得権益の壁が企業の活動を抑えている。こうした障壁を取り払うことができなければ、規制緩和に後ろ向きだった民主党政権を批判する資格はなくなる。
起業を促進すると同時に、価値を生めなくなった事業や企業は退出や再生を促す新陳代謝も経済の活性化には不可欠だ。保護のみを目的とした旧来型の中小企業対策では経済構造の転換は進まない。
経済再生を旗頭に掲げる安倍政権への期待は大きい。だが、昭和時代の自民党政権のように財政・金融政策頼みで経済を強くできるという幻想に陥ってもらっては困る。それでは、しばらくはうまくいったように見えても長続きはしないだろう。
長期政権をめざすなら、視線を目の前だけでなく、遠くにも向けるべきである。
安倍晋三、日銀、円高
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