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2012年12月28日(金)付

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暴力団排除―福岡での無法を許すな

暴力団による発砲や住民への襲撃が続く福岡県で、とくに凶悪な三つの「特定暴力団」が指定された。全国で初めてだ。これを暴力団を封ずる新しい手立てにし、警察は住民や企業を守ら[記事全文]

エジプト新憲法―国造りに国民の参加を

エジプトの新憲法が国民投票で承認された。強権体制の崩壊を受けて始まった政治プロセスの重要な一歩である。新しい国造りにつなげて欲しい。しかし、イスラム派の与党と世俗・リベ[記事全文]

暴力団排除―福岡での無法を許すな

 暴力団による発砲や住民への襲撃が続く福岡県で、とくに凶悪な三つの「特定暴力団」が指定された。全国で初めてだ。

 これを暴力団を封ずる新しい手立てにし、警察は住民や企業を守らなくてはならない。

 特定暴力団の制度は、暴力団対策法の改正で定められた。以前からある「指定暴力団」のなかから、市民や企業を襲った前歴のある団体などを指定する。

 全国には22の指定暴力団がある。福岡県には全国で最も多い5団体が本部をおく。そのなかの工藤会を福岡、山口両県の公安委員会が「特定危険」の暴力団に指定した。道仁会と九州誠道会は福岡、佐賀、長崎、熊本4県の公安委が「特定抗争」の暴力団に指定した。

 新しい制度では、縄張りを中心とする区域を警戒区域と定める。その区域で、組員が飲食店に用心棒代などを要求したようなとき、それだけで犯罪とみなされる。指定区域で組事務所の新設や抗争相手へのつきまといなども禁止できる。どちらの場合も、違反した場合には直ちに逮捕できる。

 これまでの暴対法では、いったん中止を命令し、それに違反した場合にようやく摘発ができた。今後は、犯罪を早く止められるようになる。

 新しい仕組みが地域の安全に役立つためには、通報する住民の協力が欠かせない。

 住民は暴力団から報復される恐れを知りながら捜査に協力することになる。警察が守り抜かなくてはならない。

 福岡県内では昨年以降、22件の発砲事件が起きた。しかし、容疑者が逮捕されたのは3件だけだ。

 福岡県では今年、飲食店に組員の立ち入りを禁ずるステッカー(標章)を掲げる制度が始まった。その後、北九州市などで標章を使った飲食店主らが顔を切りつけられる事件や、店への不審火が相次いでおきた。このような住民への加害事件も未解決が多い。

 県警は、標章がなくても店に立ち入った組員を取り締まれるようにする暴力団排除条例の一部を改める検討をしている。その改正も急ぐけれど、不安な思いの飲食店主らを保護することは、さらに大切だ。

 20年前に指定暴力団の制度ができたときも注目されたが、決め手にならなかった。制度も大切だが、警察が確実に守ってくれるという信頼を保てなくては暴力団を抑えられない。

 凶暴な犯罪が続く福岡で、警察はまず、安全を取り戻す実績を示さなくてはならない。

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エジプト新憲法―国造りに国民の参加を

 エジプトの新憲法が国民投票で承認された。強権体制の崩壊を受けて始まった政治プロセスの重要な一歩である。新しい国造りにつなげて欲しい。

 しかし、イスラム派の与党と世俗・リベラル派の野党との間では、新憲法をめぐって対立が激化した。ムルシ大統領が、国民投票前に大統領権限の強化を発表したことで、混乱はさらに深まった。

 こうした政治の分裂には、不安を抱かざるをえない。

 新憲法はイスラム勢力が多数を占める委員会によって起草された。イスラムの理念に基づく家族の尊重や孤児・貧困者などの弱者救済、社会連帯を国造りに組み込んでいる。警察権限の制限や、大統領任期を最長2期8年にするなど、旧政権の独裁の反省も盛り込まれた。

 一方で、「預言者への中傷を禁じる」という宗教的な条項もある。言論の自由や少数派キリスト教徒の権利の抑圧につながりかねない懸念もある。

 なにより気になるのは、投票率が33%と低かったことだ。3分の2が賛成したが、全有権者の2割にすぎない。

 これではイスラム派が支持する新憲法が、広く国民に受け入れられたとは言えない。同時に、反対派の主張も有権者に広がらなかった。

 国民の関心の薄さは、新憲法案の起草から国民投票までの期間が短かったことも原因だ。与党も反対派も、新憲法について国民の間に議論を広げるような働きかけは不十分だった。

 旧ムバラク政権時代から続く問題でもある。大統領と与党の取り巻きだけで政治を行い、野党を弾圧した。一般の国民は政治の外に置かれていた。

 2年前に革命で強権体制が倒れた後も、各政党や政治勢力は、それぞれの支持者をデモや集会に動員して、力を誇示する手法が続く。

 テレビが連日、双方の激しいデモの様子を伝えても、国民の多くは政治の動きを自分たちとは遠いものと考え、投票にも参加しない。

 今後、新憲法に従って、上下両院の選挙が実施される。国民が政治に参加する重要な機会だ。イスラム派と世俗・リベラル派の対立が深まるだけでは不毛である。

 各政治勢力は、新憲法に基づく国のあり方について、国民的な議論を広げて欲しい。国民に選挙への参加を促し、政治の主役としての自覚を育てる。そうすることではじめて、言論の自由を守る意識も含め、民主主義は国民のものとなる。

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