©加藤和恵/集英社・「青の祓魔師」劇場版製作委員会 2012 |
男子のみならず女子中高生にも大人気の『青の祓魔師(エクソシスト)』、略して“青エク”。2009年に集英社「ジャンプスクエア」で連載が始まり、2011年にはテレビアニメシリーズとして放送され、放送終了から1年を経て初めて『青の祓魔師』劇場版となって12月28日に公開される。
『青の祓魔師』は魔神(サタン)の血を引く奥村燐(りん)が、双子の弟・雪男や仲間とともに悪魔を討つ祓魔師(エクソシスト)を目指して成長を遂げる学園ダークファンタジー。コミックスの発行部数は既に累計900万部を超える。映画では、劇場版独自のキャラクターも登場するオリジナルのストーリーで、11年に一度の祝祭に沸く正十字学園町を舞台に物語が展開される。
劇場版の監督は、『千と千尋の神隠し』や『茄子 アンダルシアの夏』などに関わってきた高橋敦史。サラリーマン時代に「宮崎駿の弟子募集!」という公募を雑誌で見たのをきっかけに、この世界に入ったという意外な経歴の持ち主だ。高橋監督にテレビアニメと劇場版との違い、本作の魅力、女子中高生を惹き付ける理由などについて聞いた。
©加藤和恵/集英社・「青の祓魔師」劇場版製作委員会 2012 |
高橋監督が劇場版の監督を務めるのは今回が初めて。『青の祓魔師』初の劇場版で、初監督オファーだったが、感慨にひたる余裕もなかったと振り返る。脚本は『けいおん!』の吉田玲子が担当する。
『青の祓魔師』のテレビアニメシリーズの絵コンテを2本担当して、3回目に電話がかかってきたので、もう1本描くのかなと思ったら、今回の劇場版の話でした。その時点で、公開まで1年くらい。今日びのオリジナルのアニメは立ち上がりが大変だというのは知っていたので、監督を引き受けるかどうか悩む間もなく、早速取り掛からなければと準備に追われました。
劇場版の監督は初めてですが、何本か助監督の経験がありましたので、全く未知のものというわけではありません。ただオリジナルのストーリーを、脚本からオーダーするというのは初めてでした。ゼロからオリジナルで作ろうとすると、どうしても”どんな映画にするのか?”と漠然としたテーマ設定に時間が取られてしまいがちなので、温めていた企画の一つを叩き台に、“ある程度こんな話”というのを作ってから、脚本の吉田さんにお願いしました。
テレビは短距離走をひたすら走っている感じで、あっという間なんですが、劇場版は「これでいいのか感」みたいなのが常にあります。これまでの経験から、悩みにはまる瞬間をどう避けていくか、行き詰った時の逃がし方みたいなことが重要になってくるなと思っていました。またスケジュールをはじめ、いろいろな面で妥協しなくてはいけない部分があったとしても、テーマ設計のところがぶれずに、芯の部分が担保できていれば、やり遂げられる筈だと。今回はキャッチコピーにもあるように「忘れない」がテーマになっています。「忘れない」ということにどういう意味があるのだろうかと思ってもらえれば嬉しいですね。
テレビアニメシリーズを映画化するに当たっては、『ドラえもん』が参考になったと話す高橋監督。劇場版を作る際に、より強い敵が出てきてそれを倒すとか、新たなヒロインが出てきてその女の子を助ける、といったテレビアニメの映画化では“お約束”とも言えるパターンではなく、“違うドラマ感”を目指したという。
テレビアニメシリーズを劇場化して映画も盛り上がっているというと、今のところ一番うまくいっているのは『ドラえもん』だと思うんですね。作っていく上で、その『ドラえもん』の劇場版のスケール感といいますか、“劇場感”を目指しましょうというのが一つありました。
例えばのび太が着ている服でも、劇場版だと柄が一個増えるみたいな、あの豪華さ。みんなちょっとずつ、服の柄が1000円くらい高い服を着てそうな感じになっているじゃないですか。あの感じを目指しましょうと。実際、のび太のキャラクターデザインに一本線を増やすことは結構なリスクだと思うんです。でも、そういう豪華さは大事だろうと。テレビは電源を入れれば見られるけれど、映画はお金を払わないと見られない。「劇場版だから、お話がすごいんです」と言ってもあまり説得力がないと思うので、まずはテレビシリーズの予算では描きづらい学園をちゃんと描きましょう、といった豪華さですね。
『アンパンマン』や『クレヨンしんちゃん』もそうですが、変に作家性に走らず、ちゃんと子供向けのエンターテインメントとして成立していて、劇場版を見終わったら、またテレビシリーズを見てもらうという流れがあります。『青の祓魔師』もテレビシリーズがあって、劇場版でオリジナルのストーリーがあって、またテレビシリーズで日常に戻れるというようなことを目指しています。だから、「今度の映画でテレビの“青エク”をぶっ壊すんだ」みたいなことは思ってないですね(笑)。
©加藤和恵/集英社・「青の祓魔師」劇場版製作委員会 2012 |
『青の祓魔師』は魔神の血を引く奥村燐と双子の弟・雪男に加え、クラスメイトや講師など個性的なキャラクターが揃っている。監督は女子中高生に人気がある理由の一つに、主人公の魅力とこうしたキャラクターの多様性を挙げる。
意外と他にないキャラクターなんじゃないかと思います。ぶれない、なよなよしない主人公のキャラクターというのはあまりなかったので、それが大きいのかなと。周囲にいる制作現場の若い女性からは、主人公がキャラクターデザインも含めてかっこいいという話もありました。また「SLAM DUNK(スラムダンク)」が流行った時に、どこが面白いのかを聞いたら「いろいろな種類の男がいるところ」と言われて、「ああ、そういう物の見方があるんだな」と思ったことがありました。そういう意味では『青の祓魔師』もいろいろなキャラクターがいるので、「好きなキャラクターを選んでください」というところもあるかなと思いますね。
高橋監督がアニメに興味を持ったきっかけは宮崎駿監督の作品。そして、この世界に入り仕事をすることになったのも、やはり宮崎監督の縁だったという。
一番衝撃的に「おおっ!!」となったのは、『風の谷のナウシカ』を見た時です。見たことのないものを見たというのと同時に、でも昔からあったような気がするみたいな不思議な感じ。子供の頃、もうちょっとこういうものがあったような気がしたけれど、いざ探してみるとないという。アニメが面白いなと初めて思ったのはその時ですが、まだ小学生だったので、そこで「アニメで食っていくぞ」とはならず、ただ茫漠と生きていましたね(笑)。就職先も全く違う世界で、大学を卒業してから2、3年は勤め人として、今とは全く違うことをしていました。いわゆる脱サラでこの業界です。でも結構、この業界は「会社を辞めて来ました」という人が多いんですよ。
脱サラしようかなと思い始めた頃に、雑誌で「宮崎駿の弟子募集」みたいな公募があって、応募したら受かりました。半年くらい通って、絵コンテの書き方など基礎から教わりました。その時に「会社を辞めるんですけど、何かないですかね」みたいなことを言っていたら、ちょうど『千と千尋の神隠し』を作る前で、映画を作るから来いと言っていただいて。宮崎駿監督にしてみたらきっと「しょうがないな」という感じですよね。自分にとってもだいぶ綱渡りな感じでした。ただ、この時に学んだことが全て、今に生きています。(2012年12月27日・A)
『青の祓魔師(エクソシスト)』劇場版は2012年12月28日(金)、全国東宝系ロードショー