(cache) 校長室の春夏秋冬 | 神奈川県立湘南高等学校

学校概要

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学力向上進学重点校として

湘南365日

部活動の成果

公開行事・説明会

校長室の春夏秋冬

2012年12月

人生に無駄なことなど一つもない


 日本の大晦日は年越しそばを食べる習慣がありますが、スペインではブドウを食べて年を越します。大晦日から新年にかけて、マドリッドの広場にある時計台の鐘が鳴ります。広場に行かない(行けない)スペイン国民は、テレビで生中継されているこの鐘の音に合わせて、鐘の音1回につき、ブドウ1粒のペースで、白ブドウを1粒ずつ、合計12粒食べるのです。
 この風習は、新年の 12 カ月のそれぞれの月の幸運を祈るため、あるいは、ブドウを食べながら新年の願い事を唱えた人は幸運になれる、と言われて続いているのだそうです。
 私がこのスペインの大晦日の話を聞いたのは、以前勤務していた職場のスペイン語講師からです。「年越しブドウ」は面白いと思い、ある年の暮れにスペインへ旅立ちました。しかしながら、travel は trouble とはよく言ったもので、私が乗った飛行機は経由地でタイヤのトラブルに見舞われ、スペイン到着が大幅に遅れてしまい、大晦日にマドリッドの広場でスペイン人と一緒にブドウを食べることはできませんでした。
 それにしても、年越しにブドウを食べるという風習はなかなか面白いと思いますが、日本人は大晦日にそばを食べるのですから、食べるものが違うだけで、お互い様という考えも成り立ちます。グローバル社会に生きる私たちは、他国の文化を尊重し、「それもあるかもしれない」と寛容な精神構造をもつことが大切であり、国際感覚を養うということは、いかに柔軟な発想を身につけるかにかかっていると私は思っています。そうなると、グローバル化が一層進めば、ひょっとすると除夜の鐘を聞きながら、ブドウを食べる日本人がいても、あるいは、マドリッドの広場でカップそばをすすって年を越すスペイン人がいても驚いてはいけないのかも知れません。

 さて、湘南高校の平成24年度は、“ANOTHER LEGEND” で始まりましたが、 LEGEND にふさわしく、生徒達の活躍は充実した素晴らしい内容でした。11月8日の駅伝大会で、今年度の対組行事が終わったわけですが、陸上、バレー、卓球、水泳、バドミントン、サッカー、バスケットとこれほど沢山の種目で長期的なクラス対抗の取り組みを行うというのは、あまり例がないのではないかと思います。
 結果は次のとおりになり、12月21日の全校集会で第3位までのクラスには私から表彰状を手渡しました。
   1位・・・ 3年1組 (352点)
   2位・・・ 2年4組 (305点)
   3位・・・ 3年9組 (298点)
   4位・・・ 2年8組 (296点)
   5位・・・ 2年6組 (291点)
   6位・・・ 2年1組 (277点)

 対組競技は Competition つまり競争ですから、結果はもちろん大切ですが、結果と同様に、競技に取り組むプロセスや、そのことによってクラスが団結したり、仲間意識が芽生えたり、先輩の後ろ姿を見て後輩達が育つことも、大切な学びであると私は思っています。

 平成24年度は、運動部、文化部を問わず、部活動もまた LEGEND にふさわしい内容でした。運動部の新人戦(大会)では、バドミントン部、卓球部、弓道部、フェンシング部が、素晴らしい結果を出しました。
 文化部では、放送部が、神奈川県総合文化祭放送情報部門大会アナウンス部門において、高文連会長賞を受賞し、関東大会出場を決めました。

 12月に入り、私は、「第59回 神奈川県高等学校 美術展」に行ってまいりました。そこには、沢山の参加校の作品の中に混じって、湘南高校からは、油彩画が5点、オブジェが1点、ポスターが3点、表紙原画が3点展示されていました。その中の2年生 松本世志美さんの油彩画の作品「無機質のあたたかさ」は、「高文連会長賞」を取り、来年の全国大会である長崎大会に出品されます。この作品の講評の一部を紹介します。

 「色彩の美しさにおいては、群を抜いて秀逸な作品である。普段、通学で使っている電車内の風景を、即興的な筆遣いと独自の色彩感覚で再構築しようとし、前景の子どもによって物語性の喚起を試みている。感覚的に描かれている部分の何箇所かは、すでに高校生レベルをはるかに超えた、画家の視点での表現と言っても過言ではない。(略)」(本校美術部顧問 藤井信孝教諭)
 先日はハーモニーホール座間で行われました「神奈川県アンサンブルコンテスト」に出かけて生徒達を応援しました。本校の打楽器四重奏は、マリンバと和太鼓という組み合わせで、衣装も和装で行うなど、打楽器のアンサンブルでは、湘南高校に一番拍手が多かったと思いました。このコンテストでは、本校の打楽器四重奏が「金賞」。クラリネット四重奏が「銀賞」に輝きました。
 書道の分野では、3年生 石若希実さんが、金剛峯寺賞を受賞しました。いただいた賞状にはこう記されています。「あなたの作品は 本山主催第四十七回弘法大師奉賛高野山競書大会において 審査の結果成績抜群として推薦されましたので ここに本賞を贈ります」

本校の文化部、運動部、各委員会の活動を紹介する小冊子『ひろば』を文化部連合委員会の井澤茜音委員長が校長室に届けてくれました。その巻頭言に私は、こんなことを書きました。

アメリカのある高校を訪問した時のことです。ホールの壁にはスクールモットーが大きく掲げられ、ガラスケースには、部活動で獲得した記念の楯や生徒達の活躍が掲載された地元紙が飾ってありました。
 その高校では、バスケットボールやアメリカンフットボールに人気があり、皆で応援に行ったり、チアリーディングが試合の雰囲気を盛り上げることもあると伺いました。
 生徒が作る学校新聞は、部活動の活躍が常にビッグ ニュースになり、Year Book(日本の卒業アルバムに相当するもの)には、部活動の写真が大きな扱いです。勉強とともにスポーツや芸術に秀でた生徒は高く評価され、海の向こうでも、「文武両道」の考え方は大切にされています。
 2年前のことです。勉強とスポーツの両立を目指す日本の高校生の姿を伝えるために、湘南高校は韓国の公営放送KBSテレビの取材を受けました。その時の同テレビ局のスタッフの発言が『朝日新聞』に載りました。それは「ソウル大学に入る高校生のほとんどはスポーツとは無縁。『勉強だけでは世界が広がらない』という湘南生の言葉を韓国の若者に伝えたい」という内容でした。韓国では、難関大学を目指して勉強漬けの高校生活を送ることが問題視されているという背景があるようです。
 湘南高校は、学習活動はもちろんのこと、部活動や学校行事にも全力で打ち込むことにより、学力を高めると同時に総合的な人間力を培うことを目指しています。「文」である学習活動と「武」である部活動や学校行事がともに磨きあって、より高い知識の習得に努めるとともに、企画力、実行力、判断力、指導力、コミュニケーション能力といった人間力を高めています。
 洋の東西を問わず、総合的な人間力を高めることは、真のリーダーを育成するために必須のことであると私は考えます。
 『ひろば』は、文化部・運動部の紹介や生徒会本部、各委員会の活動が収められています。読み進んでいくと体育祭、文化祭といった学校行事が生徒達の手によってどのように運営されているかも分かります。ページをめくるたびに、瑞瑞しい感性と若者特有の言葉遣い、心地良いユーモアと底流にある湘南高校の知性に引き込まれてしまいます。
 『ひろば』は、60ページほどの冊子ですが、凝縮された内容には伝統に寄せる思いと、天与の稟質を思う存分に開花させた生徒達の未来への羽ばたきを感じることができます。良き伝統を受け継ぎながら、新たな伝統の創造に向けて湘南生の活躍を期待しています。

 生徒の言によれば、「この『ひろば』は、内容は新入生向けですが、各部活動、各委員会の活動内容を知る良い機会として在校生にも楽しんでもらえる企画」になっています。これを読めば、体育祭、文化祭といった学校行事が生徒達の手によってどのように運営されているかもよく分かります。こういった冊子が生徒達の手で作成されることに、湘南高校生の何事も真剣に取り組む誠実さを感じます。

 最後に、今年私の心に残った言葉を一つ紹介します。ロンドンで行われた第30回夏季オリンピック大会において、女子レスリング48キログラム級で、金メダルを取った小原日登美選手の「諦めずにやり続けて良かった。人生に無駄なことなど一つもないと、あらためて思えた。」です。
 『神奈川新聞』(12月18日付)によれば、小原日登美選手は「本来は、非五輪階級の51キロ級の選手。2000年に世界選手権で初優勝してから無敵を誇ったものの、五輪切符は遠かった。吉田沙保里(ALSOK)が君臨する55キロ級で完敗。挫折を味わうと体重が74キロに増えてうつ病になった時期もあり、一度は一線を退いた。だが、09年に引退した妹の真喜子さんに背中を押され『妹の分も』と入れ替わるように48キロ級で復帰した。」
 どん底からはい上がった小原選手ならではの言葉ではないでしょうか。小原選手の戦いは、女子レスリングのライバルとの戦いだけでなく、31歳でオリンピックに挑戦したり、過酷な減量に挑戦したりと、自分自身との戦いの側面もあったと思います。勝利を手にしても「私一人では金メダルは取れなかった」と話していたということを聞き、古代ローマの劇作家が言った「勝利において己に勝つ者は二度勝つ」の姿を見せてもらったと言えるでしょう。

 小原選手は、努力の末に金メダルを取りましたが、いくら頑張ってもメダルや賞状に手が届かないときや、結果が出ないときがあります。しかし、人生に無駄なことなど一つもありません。諦めずに努力すれば、それが何であれ、得るものは必ずあるはずです。
 みなさま良いお年をお迎えください。


『ひろば』の表紙
  
師走の湘南高校
『ひろば』の表紙
  
師走の湘南高校

 

 

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