河北春秋

 作家の川端康成は大学時代から執筆に忙しく、単位不足で卒業が危ぶまれた。そこで、教授を何人か訪ね、後で論文を書く約束をして単位取得に成功している▼前代未聞の前借りとして知られるが、選挙もまた、これとそっくりだ。有権者にすれば、取りあえず信頼という単位を政党に貸す形。果たしてちゃんと論文を書くのかどうか、大いに怪しみつつ

 ▼川端は結局、論文は書かずじまい。もっとも、その代わり、きら星のごとく華麗な小説を書き残し、前借りに報いた。今度の衆院選で、大量の単位を借りた自民党は、さて、どうだろう▼新内閣がスタートした。「温室の促成栽培」「世間知らずの御曹司」−。安倍晋三首相にはかつてこんな評価がつきまとった。弱々しい印象は、政権を投げ出した前回の辞任劇で決定的になった

 ▼あの政権を振り返れば、同情できる点も多い。相次ぐ閣僚の不祥事が足を引っ張った。宙に浮いた年金記録が世の怒りを買い、参院選で惨敗を喫した。必ずしも安倍さん自身の失政とも言えない▼「歌手1年、総理2年の使い捨て」は竹下登元首相の言だが、最近はたった1年の政権ばかり。新内閣が短命に終わらないためには、景気回復や被災地復興などの課題に、素早く成果を出すこと。

2012年12月27日木曜日

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