Updated: Tokyo  2012/12/27 10:38  |  New York  2012/12/26 20:38  |  London  2012/12/27 01:38
 

財務相に麻生元首相、景気回復へ重量級-積極財政で規律維持に不安も

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  12月27日(ブルームバーグ):安倍晋三首相は新内閣の副総理兼財務・金融担当相に麻生太郎元首相(72)の起用を決めた。首相経験者の財務相就任は、「平成の是清」と言われた故宮沢喜一氏(小渕恵三内閣)以来。自らに近い大物を財政運営の要として配置し、最優先課題の景気回復に取り組む。一方で、積極財政派とされる麻生氏の登板に市場では財政規律の緩みを危惧する声も聞かれる。

麻生財務相は26日の初閣議後の会見で、首相から①緊急経済対策の早急な策定②物価目標を含めた政府と日本銀行との連帯強化の仕組みの構築③総合的な円高対策の実施-などの指示を受けたと説明。今年度補正予算では国債発行額44兆円枠にこだわらず、「思い切ったものとする」との方針を示した。一方で、来年度予算については「財政健全化目標を踏まえたものとする」との認識を示した。

麻生氏は高祖父が明治維新の「三傑」と称された大久保利通、祖父は戦後日本の礎を築いた吉田茂元首相という政界のサラブレッド。閣僚としても外相や総務相、経済財政政策担当相などを歴任した。趣味のクレー射撃は、1976年のモントリオールオリンピックに日本代表として出場するほどの腕前。漫画好きでも有名で、日本のクリエイティブ産業の海外発信を進める「クール・ジャパン」のけん引役を担った。

経済通を標榜する麻生氏が首相に就任したのは2008年9月。「日本経済全治3年」をスローガンにリーマン・ショック後に落ち込んだ景気の立て直しに取り組んだが、翌年8月の衆院選で惨敗し、わずか1年で民主党に政権を譲った。それから3年。海外経済の減速を背景に再び後退局面にある日本経済の回復へ陣頭指揮を執る。

「積極財政の象徴」

麻生氏が首相として編成した09年度予算は、当時では過去最大の88.6兆円に上り、歳出上限を設定した概算要求基準(シーリング)も突破。08-09年度にかけては、3度にわたる補正予算を編成し、うち09年度1次は歳出規模13.9兆円と過去最大規模、国債の追加発行額は10.8兆円に達するなど、大胆な財政出動に踏み込んだ。

国内総生産(GDP )は4-6月期から2四半期連続で前期から縮小、マイナス成長からの脱出が急がれる。自民党は政権公約に「国土強靭(きょうじん)化」を掲げ、防災対策に併せて老朽化するインフラを更新し、経済成長にもつなげる方針を明記している。

三菱東京UFJ銀行の関戸孝洋ジャパンストラテジストは「麻生氏は積極財政の象徴となる」と指摘した上で、「補正、通常予算が相当程度大型化していく可能性がある。財政が積極型で運営されるのはほぼ間違いない。党の公約とも一致する」と予想する。

「最悪のコンビ」

来夏に参院選を控える上、14年度の消費税引き上げの地ならしとして景気回復も急務で、「財布のひもが緩む」局面が続く。共同通信によると、自民党の高村正彦副総裁は19日、補正予算は10兆円程度が必要との認識を示した。一方、12年度末の国・地方の長期債務残高は937兆円程度とGDPの倍近くとなり、先進国最悪の水準。財政健全化に向けた政府の姿勢に市場の厳しい視線が注がれている。

「日本の財政規律にとっては最悪のコンビ」。みずほインベスターズ証券の井上明彦チーフストラテジストは安倍、麻生両氏の財政運営を危惧する。「補正が4-5兆円までなら国債の追加発行の必要はないが、10兆円なら新規国債発行44兆円枠は撤廃だ」と指摘。さらに「どこかでギリシャのような状態になり、長期金利の急上昇を招くのではないかという懸念が常にある」と警告する。

円滑化法の「出口」が焦点に

一方、金融行政では、金融機関に中小企業などの返済猶予を促す金融円滑化法が3月に期限切れを迎えるのに伴い、出口戦略が焦点の一つとなる。中塚一宏前金融相は先月、3月以降も検査・監督方針が変わらないとする談話を発表したが、大量倒産を回避し軟着陸を目指す金融庁に対し、倒産増加を見込む金融機関も多い。

帝国データバンクが10日発表した、全国359金融機関から回答を得たアンケート調査では、同法が期限を迎える3月以降、再度の貸出条件の変更を受けた場合に、8割以上の企業については要請に応じられるとした回答が多かったものの、6割が企業倒産の増加を見込んでいた。一度条件変更を受けた企業の約8割が再度条件変更を申請するなど、企業の「延命」批判もある中、新政権の対策が注目される。

ドイツ証券の山田能伸シニアアナリストは、新内閣発足前の電話インタビューで「財政、金融は本来別の人が大臣をすべきだが、政策の方向性によっては同一人物であってもいい」と指摘。首相が「政策面で近い人々を閣僚に選んだ」とし、自身が目指す金融・財政政策を支える「適材適所」と評価した。円滑化法では「金融庁の強い方針もあり、民主党時代から大きな政策転換はないだろう」と述べた。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 下土井京子 kshimodoi@bloomberg.net;東京 乙馬真由美 motsuma@bloomberg.net;東京 谷口崇子 ttaniguchi4@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Paul Panckhurst ppanckhurst@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net

更新日時: 2012/12/27 02:49 JST

 
 
 
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