安倍晋三内閣が26日、発足しました。安倍総理大臣(首相)は2度目の首相就任です。安倍内閣は首相が代表(総裁)を務める自民党と公明党が協力して「政権」をになう、連立政権です。政治の世界は、これからどう動くのでしょうか。【文・相良美成/え・渡辺正義】
◇ポイント
<1>参議院の議席不足で連立
<2>政策ごとの「部分連合」を模索
<3>首相は憲法改正に意欲
<4>難しい「政界再編」
◎首相は政界エリートの三世
安倍晋三首相は、父親が安倍晋太郎元外務大臣、祖父が岸信介元首相という三世議員です。
岸元首相は、アメリカ(米国)と同盟関係を結ぶ日米安保条約の改定と引き換えに辞任。引退後は、戦後の占領時代にアメリカの指導で作られた今の憲法でなく、日本人による「自主憲法」制定を強く訴えました。安倍首相の憲法改正にかける思いは、祖父譲りです。
父の晋太郎氏は、毎日新聞記者を経て衆議院議員になりました。1980年代には自民党のニューリーダーと呼ばれ、将来の首相就任は確実と見られていましたが、91年に病のため亡くなりました。
首相は祖父や父の果たせなかった夢を実現したいと考えています。2006〜07年、最初に首相を務めた時には経験不足もあってうまく政権を運営できず、病気になって辞任しました。その悔しさから、2度目の首相に挑戦しました。
◇衆議院過半数でも他党と協力
ふつう、衆議院で過半数の議席を持つ政党が、単独で政権をにないます。過半数の政党がなければ、複数の政党が協力して連立政権をつくります。16日に投開票された衆議院選挙で自民党は、全480議席の過半数(241議席以上)を上回る294議席を得ました。にもかかわらず連立したのは、参議院で自民党は83議席と、全242議席の過半数(122議席以上)を下回るためです。衆議院と参議院の両方で過半数の賛成がないと法律は成立しないので、ほかの政党の協力が必要なのです。
◇国民の批判が怖い
自公両党合わせても参議院では過半数に達しません。とはいえ衆議院では、自公合わせて325議席。参議院が反対しても、衆議院が3分の2(320議席)以上で再び賛成すれば法律は成立するので、本当は参議院の賛成は必要ありません。だけど、3分の2の賛成を繰り返すと、国民から「強引すぎる」と批判され、次の選挙で負ける可能性があります。このため安倍首相は、社会保障(医療・福祉など)と税金の一体改革では民主党、憲法改正では日本維新の会−−と、政策ごとに協力できる政党と組む「部分連合」を考えています。
◇連立組み替えはあるか?
安倍首相が最も意欲を持っている政策は、憲法改正です。しかし公明党は改正には慎重です。そのため首相は、連立を組む相手を日本維新の会に変えようとするかもしれません。だけどそれは簡単ではありません。自公両党が1999年に連立政権を組んで以降に行われた選挙で、公明党が候補者を出していない選挙区では自民党候補者が、公明党の支持団体に投票をしてもらっています。選挙で公明党の票が必要な自民党の議員は、連立組み替えには反対しそうです。
◇政策不一致でも分裂しない自民党
自民党内には消費増税について「予定通り行うべきだ」と言う議員もいれば「先送りすべきだ」と言う議員もいます。政策についての考えが違うわけです。この点は民主党も同じです。このため「政策が一致する議員で政党が分かれる『政界再編』が必要だ」と、ずいぶん前から言われています。しかし、衆議院選挙の選挙区は、ほかの人より1票でも多く得た候補者が当選する小選挙区制。この制度だと、1955年の結党以来、長く政権をにない、支持者や支持団体が多い自民党が有利なので、自民党を抜けたい議員は多くありません。選挙で自民党に勝ちたい政治家は、政策の一致を棚上げして団結するしかなく、そうしてできたのが民主党でした。自民党が分裂しないと起きない「政界再編」は、なかなか難しいのです。