その募金集団をカメラが初めて捉えたのは、今年5月。
場所は、JR天王寺駅前。
オレンジ色の帽子をかぶり、Tシャツを着た男4人。
中には少年らしき姿も…
<募金集団>
「『骨形成不全症』という難病をかかえる4歳の女の子へ募金の協力お願いします」
「骨形成不全症」と闘う女の子の写真を掲げて、募金を訴えている。
<マル調>
「かなりの金額でしょうか。募金の呼びかけに対して、通行人の方がお金を入れています」
その後も週末を中心に、集団は姿を現すようになった。
同じ頃、ネット上では、あの募金集団に疑いの目が向けられていた。
「女の子の治療費が必要だと言っているのですが、妙なんですよね」「半分だまして小銭を稼いでいるとしか見えない」(ネット上の書き込み)
果たして本当なのだろうか?
奈良県内に住む山田さん(仮名)。
4才の娘が「骨形成不全症」を患っている。
骨の繊維を正常に作れず少しの衝撃で骨折する病気で、入退院を繰り返しているという。
<山田さん(仮名)>
「足の骨がわん曲して生まれたんです。授乳する時に、抱くとこっち腕が折れたり・・ だっこするのも怖くて、生まれたときは」
「骨形成不全症」患者は、全国で推定4,000人。
国の難病指定を受け、治療費や入院費は国や自治体が全額負担する。
では、自己負担がないのに、なぜ募金が必要なのか。

山田さんは、疑問を感じていたという。
<山田さん(仮名)>
「申請すれば無料になるので、実質の負担はないんですよ、入院や治療に関しては。お金を集めるその目的が全然わからなくて、『なんかおかしいなーなんかおかしいなー』って」
さらに「マル調」は、「骨形成不全症」の患者で作る「友の会」を訪れ、募金集団について聞くことにした。
<マル調>
「『友の会』として募金活動をしたことは?」
<「骨形成不全症」友の会事務局 垰本啓子氏>
「一切ないです」
<マル調>
「その治療の為に、お金を集めようということは?」
<「骨形成不全症」友の会事務局 垰本啓子氏>
「それはないです」
難病指定された病気の募金など、聞いたことがないという。
しかも驚くことに、「友の会」はあの募金集団の存在を知り、手を差し伸べていた。
<「骨形成不全症」友の会事務局 垰本啓子氏>
「もし困っているんだったら、みんなで相談できる『友の会』っていうのがありますよ、とご案内したんです
<マル調>
「その時、むこうは?>
<「骨形成不全症」友の会事務局 垰本啓子氏>
「むこうは、顔写真出して名前まで出していたんですけど、個人情報だからと、ご家族がそういう会に入ることを望んでないということでした・・・ 色々聞くと、『僕たちはよくわからないんですよね』で終わっちゃったんですよね」
その後の取材で募金集団は、大阪市からNPOを取得していたことが判明。
事務所の住所に向かうと民家。
住人は、NPOの存在は知らないと話した。
近所の人に、NPOについて聞いてみると・・・
<近所の住民>
「ここ借りている人、1人しか出入りしてへんで」
<マル調>
「そこのNPO団体の代表だったんですが」
<近所の住民>
「このひととちゃうわ。こんなひととちゃうわ」
果たして、NPOの実態はあったのだろうか。
再びJR天王寺駅前に向かった「マル調」。
この日もやはり、募金活動は行われていた。
<募金集団>
「募金活動にご協力お願いします」
だが、募金が終了すると違う一面も見えてきた。
近くのコインパーキングで、着替えを始めた。
募金箱などを片づけ、車に乗り込むと・・・
投げ捨てられたタバコ。
まだ火は付いている。
さらにゴミも。
ほんの少し前まで懸命に募金していた姿とは、かけ離れている。

「マル調」は、募金集団を追跡することにした。
たどり着いたのは、大阪府内の団地。
どこへ向かうのか。
<マル調>
「今日の日中に募金をしていた男が、黒い鞄をもう1人の男に手わたしました」
だが、「マル調」の追跡に気づいたのだのだろうか。
この日を境に募金集団は姿を消しのだ。
難病支援を訴える募金・・・
「マル調」は、7年前のあの光景を思い出していた。
<NPO団体・2005年>
「募金活動にご協力をお願いします」
2005年、大阪や神戸で緑色のジャンパーを着て、街頭募金をしていたNPO団体。
やはり、「難病の子どもたちを救おう」と呼びかけていた。
だが追跡取材を進めると、NPO代表の男がアルバイトを雇って集めた
募金の大半を、遊興費に充てていたことが判明した。
結局、10万人以上の通行人から、総額およそ2,500万円をだまし取ったとして、代表は詐欺などの罪で起訴され、最高裁で懲役5年の判決が確定している。
やはり、天王寺駅前で募金を呼び掛けていた男たちも、難病支援を装う
詐欺集団だったのか。

彼らが姿を消して2か月が経った先月下旬、「マル調」は、難波駅前で
あの募金集団を目にした。
<マル調>
「あ、いましたね。いましたね。今ー」
募金活動で集めたお金は、どこへ流れているのか。
「マル調」が直撃した。
「骨形成不全症」患者への支援を呼びかける募金集団。
だが、国の難病に指定されていて、治療費や入院費は国と自治体が負担する。
では、何のための募金なのか。
「マル調」はNPOの代表を直撃した。
<NPO代表>
「国から支援も出るんですよ。どうしても、生活的に足りない部分が正直あるんです。それを僕らが集めさせてもらっていて、今回もNPO法人でちゃんと認可とってやっているんで」
国から患者への支援はあるものの、生活費など足りない部分を募金で補っている、と主張する代表。
では、具体的にどの患者に、いくらの募金が届けられたのか追及すると…
<NPO代表>
「家族にも事情があるという場合があるんで、全部が全部言えないんですよ。個々の家族にも理由があるんで、そこら辺分かってもらえると話が早いんですけど」
<マル調>
「どこの病院にいらっしゃるとか?」
<NPO代表>
「それもプライバシーになるんで、子どものことは守秘義務があるのでね」
「とりあえず、カメラ1回、止めてもらえますか」
募金を届けた患者については、プライバシーを理由に言えないと繰り返した。
<NPO代表>
「信じてもらえる暖かいひとの気持ちだけでいいんで。疑ってかかるひとのお金なんて一切いらないんで。それは誰にでも言わしてもらうんですよ。自分ら、後ろめたいことなんてないんでね」
だがこの2日後、事態は急展開する。
募金を行っていた、NPO法人「W.S.A」の理事、中村穣次容疑者(32)と迫輝弘容疑者(40)ら5人が、詐欺容疑で逮捕されたのだ。
少女の写真は、今回逮捕された5人のうちの親族が用意していたが、この女の子には募金は届いていなかったという。
繰り返される募金詐欺。
今回、立件できたのは、7年前の募金詐欺事件の最高裁の判断が影響を与えたと専門家は指摘する。

<紀藤正樹弁護士>
「この種の募金に関しては、個々の被害者を特定しなくても、詐欺が成立するという判例が最近出ました。そういう中で今回の事件が立件できたということだと思います」
街頭募金を装い、多数の通行人から現金を騙し取った場合、被害者が特定できなくても詐欺罪に問えるのかが争われたが、最高裁は「募金の方法、期間、集めた金額」が分かれば、詐欺罪が成立すると初めての判断を示したのだ。
では、街頭募金が、ニセものかどうかを見分けるにはどうすれば良いのだろうか。
<紀藤正樹弁護士>
「街頭募金で、もし気になるようであれば、その募金を集めているグループの名称や連絡先を聞くことで、それが聞いても答えてくれないのなら詐欺の疑いが非常に多いということですね」
またしても、踏みにじられた善意。
警察は、中村容疑者らが街頭募金で数百万円を集めていたとみていて、使い途を追及するなど全容解明を進めている。
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