2012年12月21日(金)

大都市 医療クライシス② “独り暮らし”の高齢者

阿部
「シリーズ『大都市医療クライシス』。
高齢化が進む首都圏が直面する新たな医療危機についてお伝えします。」



鈴木
「今日は、『独り暮らしの高齢者』についてです。
こちらは、1都3県の独り暮らしの高齢者の増加率です。
2005年と2030年を比較してどれぐらい増えるか、表しています。
黄色は2倍、オレンジは4倍、赤は6倍以上増える地域です。
埼玉南部、神奈川と千葉の北西部など、ベッドタウンを中心に急増すると見られています。」

阿部
「独り暮らしの高齢者が爆発的に増加すれば、病院や地域の医師だけで患者を支えるのは難しいと言われています。
今後、首都圏で広がろうとしている新たな医療の危機。
その兆しは、すでに現れ始めています。」

急増“独居高齢者”揺れる医療現場

団地や住宅街が広がるベッドタウン、千葉市です。
独り暮らしの高齢者は、およそ13万人。
その数は年々増加する一方です。
地域の中核病院、みつわ台総合病院です。
最近、アパートや市営住宅で独り暮らしをする高齢者の入院が目立つようになっています。
患者の増加によって、病院のスタッフの仕事は大幅に増えました。
家族に代わって、身の回りの世話をしなければならないからです。

「洗剤持った?」

糖尿病が悪化し左足を失った60代の男性です。
独身で家族がいないため、洗濯をする時は、スタッフが手伝っています。

「今日、全部空いてる。」

「1つずつ入れるの?」

日用品を買う時や医療費を支払う時も、スタッフが手助けします。
さらに病院では、身寄りのない高齢者が亡くなった場合、葬儀の手配も行っています。
遺体の引き取り手がないため、自分たちでやらざるをえないのです。

ケースワーカー 小安美幸さん
「どなたもやって頂ける親族がいないと、実際に誰かがやってあげないと目の前で困ってしまっているので、人数が増えてしまうと対応しきれない。」

“独居高齢者”病院にいられない

一方、病院に入院した独り暮らしの高齢者も、さまざまな問題に直面しています。
アパートで独り暮らししていた一杉正芳(ひとすぎ・まさよし)さん、76歳です。
10月、心不全を起こし入院してきました。
入院中に体力が衰え、歩くことさえままならなくなった一杉さん。
退院後、独りアパートで暮らすことに不安を感じています。

この日、静岡県に住む一杉さんの弟が、「もう少しだけここにいさせて欲しい」と病院に頼みにきました。


「もう少し歩くのに、しっかりした歩きが今見たら、ちょっと危ない。
できるだけ(病院に)いさせてもらった方が。」

一杉さん
「正月を過ごさせてもらえれば、1月の途中から、なんとか考えていける。」

しかし、病院の答えは、「気持ちは理解できるが、難しい」というものでした。

師長 羽田野良子さん
「ベッドがないと(患者を)お断りする現状が多々ある。
在宅で生活可能な方は、できるだけ社会復帰して頂きたい。」

退院してもらいベットを空けなければ、入院を必要とする患者を新たに受け入れられない、というのが理由です。

師長 羽田野良子さん
「独居で一人で“長く入院したい”という気持ちもすごくわかるが、本当に心が痛みながら、どっかでうっと飲んで、帰っていただくようにしていくしかない。」

“独居高齢者”「在宅医」確保の難しさ

自宅に帰らざるをえなくなった一杉さん。
糖尿病も患っているため、これからは自分自身で血糖値を下げる注射を打たなくてはなりません。
血糖値が正常に保たれているか、訪問診療を行う「在宅医」に定期的にチェックしてもらう必要があります。
しかし、独り暮らしの高齢者を引き受けてくれる「在宅医」を見つけるのは容易ではありません。

師長 羽田野良子さん
「この方、独居なんです。
そうですか、厳しい…。」

師長 羽田野良子さん
「独居だから厳しいって。」

なぜ、独り暮らしの高齢者は、なかなか引き受けてもらえないのか。
この地域で在宅医をしている柿澤公孝(かきざわ・きみたか)さんです。

在宅医 柿澤公孝さん
「おはようございます。
調子どうですか?大丈夫ですか?」

患者の家に訪問するのは月に2回。
それ以外は、一緒に暮らす家族が、体調や薬の管理を行っています。

「おしっこは、おかげさまでこのところ、よく出てます。」

しかし、独り暮らしの場合、こうした家族の見守りがないため在宅医だけでは、安全な医療を保証できないといいます。

在宅医 柿澤公孝さん
「見守りの目がないのが独居の場合、最大の問題点。
何かしらのサポートがない限りは、訪問診療だけで支えていくのは困難。」



これから独りアパートで暮らすことを考えると不安にかられるという一杉さん。
それでもなんとか生活していこうと、リハビリに取り組む日々が続いています。

一杉正芳さん
「正直言って地元で息をつく(安心する)ことはできない、難しい。
看護師や、ほかの皆さん(在宅医)の力を借りて生きていきたい。」

孤独なお年寄りを支えきれない、医療の現実。
今後、首都圏ではさらに独り暮らしの高齢者が増え続け、2030年には、1都3県で
210万世帯を超えると見られています。

鈴木
「(VTRに出てきた)一杉さんですが、その後、何とか在宅医を見つけることができたということです。」

阿部
「しかし、病院によれば、独り暮らしの場合、『在宅医』の確保は依然として難しく、多くの患者は、退院後の生活に不安を抱えているといいます。」

鈴木
「一人暮らしの高齢者が自宅で安心して暮らせる社会はどうすれば作れるのか。
専門家は、『在宅医』だけに頼らない、新しい医療の仕組みを作る必要があるとしています。
例えば、在宅医がカバーしきれない患者の体調管理を24時間態勢の『介護サービス』で補う。
そして、一人暮らしの高齢者が見守りを受けられる『住宅の整備』です。」

東京大学高齢社会総合研究機構 辻哲夫特任教授
「24時間態勢の介護と、お年寄りが住みやすい住まいを用意して、病棟を回診するような感覚で在宅医療が地域を回る。
生活の場で、暮らし続けられる24時間在宅ケアシステム。
そういう仕組みにしていく必要がある。」

鈴木
「それにしても、2030年に1都3県で1人暮らしのお年寄りが210万世帯を超えるという予測。
数字の大きさに驚きますし、本当に他人事ではないですよね。」

阿部
「国は、首都圏でこれから急速に進む高齢化に備えて、在宅医療の推進を打ち出し態勢づくりを強化していますが十分とは言えません。
目前に迫る、医療の危機に歯止めをかけるために、一刻も早い対策が求められます。」

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