自宅に帰らざるをえなくなった一杉さん。
糖尿病も患っているため、これからは自分自身で血糖値を下げる注射を打たなくてはなりません。
血糖値が正常に保たれているか、訪問診療を行う「在宅医」に定期的にチェックしてもらう必要があります。
しかし、独り暮らしの高齢者を引き受けてくれる「在宅医」を見つけるのは容易ではありません。
師長 羽田野良子さん
「この方、独居なんです。
そうですか、厳しい…。」
師長 羽田野良子さん
「独居だから厳しいって。」
なぜ、独り暮らしの高齢者は、なかなか引き受けてもらえないのか。
この地域で在宅医をしている柿澤公孝(かきざわ・きみたか)さんです。
在宅医 柿澤公孝さん
「おはようございます。
調子どうですか?大丈夫ですか?」
患者の家に訪問するのは月に2回。
それ以外は、一緒に暮らす家族が、体調や薬の管理を行っています。
「おしっこは、おかげさまでこのところ、よく出てます。」
しかし、独り暮らしの場合、こうした家族の見守りがないため在宅医だけでは、安全な医療を保証できないといいます。
在宅医 柿澤公孝さん
「見守りの目がないのが独居の場合、最大の問題点。
何かしらのサポートがない限りは、訪問診療だけで支えていくのは困難。」
これから独りアパートで暮らすことを考えると不安にかられるという一杉さん。
それでもなんとか生活していこうと、リハビリに取り組む日々が続いています。
一杉正芳さん
「正直言って地元で息をつく(安心する)ことはできない、難しい。
看護師や、ほかの皆さん(在宅医)の力を借りて生きていきたい。」
孤独なお年寄りを支えきれない、医療の現実。
今後、首都圏ではさらに独り暮らしの高齢者が増え続け、2030年には、1都3県で
210万世帯を超えると見られています。
鈴木
「(VTRに出てきた)一杉さんですが、その後、何とか在宅医を見つけることができたということです。」
阿部
「しかし、病院によれば、独り暮らしの場合、『在宅医』の確保は依然として難しく、多くの患者は、退院後の生活に不安を抱えているといいます。」
鈴木
「一人暮らしの高齢者が自宅で安心して暮らせる社会はどうすれば作れるのか。
専門家は、『在宅医』だけに頼らない、新しい医療の仕組みを作る必要があるとしています。
例えば、在宅医がカバーしきれない患者の体調管理を24時間態勢の『介護サービス』で補う。
そして、一人暮らしの高齢者が見守りを受けられる『住宅の整備』です。」
東京大学高齢社会総合研究機構 辻哲夫特任教授
「24時間態勢の介護と、お年寄りが住みやすい住まいを用意して、病棟を回診するような感覚で在宅医療が地域を回る。
生活の場で、暮らし続けられる24時間在宅ケアシステム。
そういう仕組みにしていく必要がある。」
鈴木
「それにしても、2030年に1都3県で1人暮らしのお年寄りが210万世帯を超えるという予測。
数字の大きさに驚きますし、本当に他人事ではないですよね。」
阿部
「国は、首都圏でこれから急速に進む高齢化に備えて、在宅医療の推進を打ち出し態勢づくりを強化していますが十分とは言えません。
目前に迫る、医療の危機に歯止めをかけるために、一刻も早い対策が求められます。」