2012年12月20日(木)

大都市 医療クライシス ①高齢者の急増で病院は・・・

阿部
「おはよう日本では、今日(20日)と明日(21日)、『大都市・医療クライシス』と題して、2日間のシリーズをお伝えします。」




鈴木
「今年、団塊世代が65歳になり、高齢者の仲間入りをしました。
多くの団塊世代が暮らす東京などの大都市では、今後、急速に高齢化が進んでいくことになります。
こちらをご覧ください。
東京、神奈川、埼玉、そして、千葉県の全人口に占める高齢者の割合、『高齢化率』です。
2005年は、水色の20%未満の地域が大半を占めていましたが、年々、上昇。
2035年には、ほとんどの市町村で30%を超え、中には赤色の40%に達する地域も出てきます。」

阿部
「地方で一足先に進んでいた“高齢化の波”。
それが都市に押し寄せてくることで大きな影響を受けるのが『医療現場』です。
高齢患者が病院に殺到、必要な医療を提供できない事態が起きようとしているのです。
都市部に広がりつつある、新たな医療危機の実態です。」

医療クライシス 急増 都市の高齢患者

高齢化が都市で進むと、医療はどんな影響を受けるのか、研究している千葉大学病院です。
今月(12月)、研究チームは、将来首都圏で、病院を必要とする高齢の患者がどれだけ増えるか、予測を行いました。

「これだけ急激に高齢者が増えるのは歴史的にないこと。」

高齢患者の増加予測です。
2011年から2035年にかけて、東京では18万人、神奈川では11万人、埼玉で8万8千人増加するなど。
1都3県で合計およそ44万人、患者が急増することが分かりました。
患者が特に増えるのは、大規模な団地やベッドタウンの近くにある病院です。
高度成長期に移り住んできた団塊世代が、一気に高齢化していくためです。

千葉大学医学部付属病院 高林克日己教授
「具体的に計算すればするほど、かなり深刻な状況。
実際に医療の現場も困るだろう。
回避する方法は大至急立てないと間に合わない。」

医療クライシス 高齢患者が殺到 病院が…

首都圏で始まった急速な高齢化。
すでに医療現場では、深刻な影響が出始めています。
千葉市若葉区の中核病院です。
病院にやってくる高齢者は、増え続ける一方です。
中でも「救急外来」には大きな影響が出ています。
病院に運ばれてくるのは、年間6500人。
スタッフは、「高齢者特有」の病気やけがの治療にあたっています。

背骨を骨折した80代の女性です。
歳を取ると骨が弱くなり、わずかな衝撃で折れてしまいます。

脳梗塞を起こした70代の男性。
他にも、心不全や肺炎の患者が、次々運ばれてきます。

「離しちゃうぞ。
このままでいてよ。
これは明らかにおかしい。」

医師の内野正人さんです。
朝から夜遅くまで診察に追われる日々が続き、体力の限界を感じています。

内野正人医師
「このままでは、いずれパンクするのは時間の問題。
高齢化が非常に救急患者数を増加させるのに拍車をかけているのは間違いない。」

問題は、患者の数が増えることだけではありません。
診察や治療が、難しいケースが少なくないのです。

認知症や寝たきりで会話ができない場合、病名の特定は困難を極めます。
さらに多くの高齢者は複数の病気を抱えており、慎重に治療を進めないと、命の危険に関わるケースも珍しくありません。

内野正人医師
「何か合併症があると、もしかしたら命取りになるかもしれないので、常に重症度が1つ上にいってしまう。
より多くの時間、割かれるのが現状。」

医療クライシス 患者が命の危険に…

高齢患者の急増に揺れる、医療の現場。
そのしわ寄せは、患者の命にまで、およぼうとしています。

内野正人医師
「ちょっと失礼しますよ。」

内野さんが担当する80歳の男性です。
肺気腫が悪化、呼吸不全に陥ったため救急車を呼びました。
しかし、多くの病院からは「他の患者で手がいっぱいで対応できない」と断られました。
11件目でようやくこの病院に到着するまで、2時間近く、命の危険にさらされながら、救急車の中で過ごしたといいます。


「救急車の中で、いろいろ病院に電話をかけてくれたけど、どこでも満杯。
心配です。
すごい息がハーハーハーハーしちゃってるし。」

これまで当たり前に受けることができた医療が受けられなくなる。
今後、さらに高齢化が進んでいくことに、内野さんは強い危機感を感じています。

内野正人医師
「(患者を)さばききれなくなっている。
診たくても診てあげられる医療施設がない。
そういう時代が現実として、もう多々、起こりつつある。」

医療クライシス 対策は?

都市で広がり始めた新たな医療危機。
どうすれば歯止めをかけることができるのか。
専門家は、医師やベットの数を増やすことには限界があるとした上で、大きな病院だけでなく、地域の開業医も患者を診る体制作りが求められると指摘します。

杏林大学医学部 山口芳裕教授
「今の現状でさえも救急医療は担い手の確保に非常に窮している。
さらに高齢化、進んだ時に(対応できる)体制取るのは非常に難しい。
在宅や介護など家のすぐ近くで医療受けられるのが一番望ましい。
そういう先生に頑張っていただけるのは、われわれにとっても非常に期待したい。」

鈴木
「今回、取材した病院では、将来、さらに高齢患者が増加していくことに備え、救急外来で治療の優先順位を決める『トリアージ』を導入せざるをえないとしています。」

阿部
「都市部では、これまで産科や小児科で医師不足によって患者を受け入れられないことが問題になってきましたが、高齢化によって新しい形の医療の危機が広がりつつあります。
患者が病院に集中しないよう医療体制の見直しが早急に求められています。」

鈴木
「明日は、都市の大きな特徴である、『独り暮らしの高齢者の急増』が医療にもたらす深刻な影響について考えます。」

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