「宇宙開発の新潮流」

破壊された組織文化、探査成功のためには再生が必須

新宇宙開発計画案、公表される(その3)

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2012年12月26日(水)

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 現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)には、宇宙探査を担当する「月・惑星プログラムグループ(JSPEC)」と宇宙科学を担当する「宇宙科学研究所(ISAS)」が存在する。この2組織は、メンバーの一部が併任であったり、共に科学観測機器を搭載した衛星・探査機を打ち上げたりしているので、外からは違いが分かりにくい。

 宇宙戦略室・宇宙政策委員会がまとめた宇宙基本計画案(pdfファイル)には、両組織の統合を匂わせる文面が入っている。が、JSPECが組織されるにあたっては相応の理由があった。

 ISASは1970年代以降、Mロケットを擁し、理学と工学の緊密な連携で世界的成果を上げてきた。それが、2003年の宇宙3機関統合と前後して、1)計画巨大化に伴う計画管理システムの破綻、2)予算減額、3)Mロケット廃止とそれに伴う工学セクションの衰退――が起こり次々と失敗、計画中止を繰り返すようになってしまった。

 また、2004年に米ブッシュ政権が打ち出した有人月探査計画は、日本に否応なしに「月・惑星探査は科学コミュニティーの専有物ではなく、国家主権の問題でもある」という事実を突きつけた。

 これらの問題を解決するべく、2008年に組織されたのがJSPECだった。JAXAの総力を集めて探査を成功に導くと共に、科学コミュニティーのボトムアップだけでは済まない太陽系探査を計画する。同時にそこには、減少傾向の予算枠をはめられて身動きがとれない宇宙科学とは別に、“探査枠”とでもいうべき予算を確保して、少しでも日本の宇宙探査を進めようという意図も存在した。

 JSPECは現状で予算が十分に回っておらず、組織としては必ずしも成功していない。しかし、過去四半世紀以上に渡るISASの華々しい成功を可能にした緊密な理工連携は、3機関統合とMロケット廃止で崩壊してしまった。

 今、宇宙基本計画案にあるように、「ISASを中心として大学を始めとする各研究機関と連携した効率的な科学研究マネジメント」に戻すなら、日本の宇宙科学も太陽系探査も、失敗を繰り返すことになるだろう。

 理工連携が失われた今、必要なのは、JSPECのような組織を生かしJAXAの総力を挙げての宇宙科学と太陽系探査を実施する体制である。

「宇宙科学には捨て扶持を与えてとらす」

 まず、そもそも宇宙基本計画案に、JSPECとISASというJAXA内部の組織の問題が書き込まれることそのものが奇異であることを指摘しておこう。

 JAXAは独立行政法人だ。独立行政法人は、独立性・自律性を保つことで効率よく業務を遂行することが期待されている。その組織内部に、なぜ宇宙基本計画が踏み込むのだろうか。宇宙基本計画が指し示すべきは「何をするか」であって、どういう体制で行うかはむしろJAXAが自律的に決めることではないのだろうか。

 そのことを意識した上で、宇宙基本計画案に書き込まれたJSPECとISASの関係を見ていくことにしよう。


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松浦 晋也(まつうら・しんや)

 ノンフィクション・ライター、科学ジャーナリスト。東京都出身。宇宙作家クラブ会員。慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院メディア・政策科学研究科修了。日経BP社にて、機械工学、宇宙開発、パソコン。通信・放送などの専門媒体で、取材と執筆を経験。2000年に独立し、主に航空宇宙分野での取材・執筆活動に続けている。BPnetにて、コラム「宇宙開発を読む」を連載した。
 ブログは「松浦晋也のL/D」、ツイッタはこちら

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