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パソコン遠隔操作で少年が誤認逮捕された問題で、神奈川県警が発表した検証結果(産経新聞)

なぜ少年は自白したのか? PC遠隔操作で誤認逮捕 疑問残る検証結果- 産経新聞(2012年12月26日11時26分)

 パソコン遠隔操作で横浜市のホームページに小学校の襲撃予告が書き込まれ、少年が誤認逮捕された問題で、神奈川県警が今月14日に発表した検証結果は疑問をすべて解消するものではなかった。捜査や取り調べに不適切な点があったことは認めたが、少年がなぜ自白に至ったかという核心部分は、検証結果と少年の証言に食い違いが残ったままだ。供述や解析結果に不自然さがありながら、捜査はなぜ方針転換されなかったのか。

 遠隔操作事件で三重県や大阪府で誤認逮捕の可能性が高まると、県警が威力業務妨害で逮捕した少年についても疑問視され始めた。県警に取材すると、幹部は「否認していた少年は最終的に容疑を認めた。ウイルスも検出されてないから、他の事例とは違う」と答えた。その返答に自分も納得してしまった。

 しかし、その後、都内の弁護士などに届いた「真犯人」の犯行声明のメールに横浜市の小学校襲撃予告について記載があり、状況は一変した。県警はすぐに調査を始め、アクセスしてきたパソコンに自動的に書き込みをさせる手口が使われたとみられる痕跡を発見。再聴取で少年が改めて否認したことで、誤認逮捕が確定した。県警は検証を開始し、今回の発表に至った。

 検証結果では、捜査と取り調べのそれぞれについての反省が述べられていた。捜査については、サイバー犯罪の知識不足、IPアドレス(ネット上の識別番号)を過信して裏付け捜査を怠っていたことなどを挙げて非を認めた。

 一方、取り調べについては少年の主張と食い違う部分が多い。少年は一時容疑を認めた際、ハンドルネーム「鬼(おに)殺(ごろし)銃(じゅう)蔵(ぞう)」やその由来などを上申書に記載。少年は県警の再聴取に「事前に取調官に見せられたので知っていた」と説明したが、取調官は口頭で意味を尋ねただけで、資料などは見せていないという。少年が勾留中に新聞などで知り得ることはできなかったといい、漢字を正確に書いた理由は分からないままだ。

 また、少年が証言した取調官の文言も、検証結果では食い違いをみせる。「否認をしていたら検察官送致されて、このままだと(少年)院に入ることになるぞ」という文言については一般的な刑事手続きのみの説明だったと否定。「検察官送致になると裁判になり大勢が見に来る。実名報道される」という文言についても「逆送手続きの説明はしたが、実名報道とは言っていない」と説明。会見ではこれらの点について記者から質疑が繰り返されたが、県警は「これ以上は確認できなかった」と述べ、「誘導はなかった」という結論で打ち切った。

 県警での取り調べは6月29日から7月18日に計約18時間行われた。この間、少年は7月4日にいったん犯行を認めた以外は否認を貫いている。供述が変遷し、解析結果に疑問が残っているにもかかわらず、なぜ立ち止まって考えることができなかったのか。「物証があるのに自白を引き出せない取調官はだめ」という風潮があるのか。結局、密室でのやり取りは内部調査だけでは明らかにならない。第三者機関による調査や取り調べの可視化拡大なども求められる。

 もし、真犯人が名乗り出なかったら、少年の無実は明らかになっていなかっただろう。警察が行使する逮捕や勾留などは大きな権限で、説明責任も大きい。今回の問題で、県警担当の記者として妥協せず説明を求めていく必要を改めて感じた。また、当局だけに頼らず、当事者や弁護士など多方面に取材して真相解明を模索する姿勢を持ち続けたいと思う。(田中俊之)

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