井浦さんはファッションモデルの経験もありますし、クリエーターとしてご自分のブランドもお持ちですよね。
普段着るものとは全く違うものなので、評論なんてできませんね。
人物デザイン監修の柘植さんと最初の頃、衣装を並べながら一緒に「崇徳上皇の色はこの色じゃないか?」とか、「自分はこう思うのですが、どうでしょうか?」といったディスカッションをさせて頂きました。シーンごとに衣装が変わっていくのですが、柘植さんにはどの衣装も崇徳上皇らしい色合いで選んで頂いているなと思っています。・・・有難いです。
では、シーンごとの崇徳上皇の気持ちが衣装に反映されていたりするんでしょうか?
そうですね、感じていただけるシーンがあると思います。
メイクやヘアスタイルも特別ですよね?
それも一つの大きな(お芝居の)要素だと思います。
柘植さんやメイク部の方たちとも話したのですが、「崇徳上皇はあまり大げさなメイクなどはしないで、もうそのままで行きましょう」という事になりました。
もちろん、柘植さんには全体のバランスを見たプランなどもあるとは思うのですが。どちらにしても崇徳上皇は虐げられ、配流されて・・・憤死(激しい怒りのうちに死ぬこと)することになるので、その過程で何らかの狂気を帯びていくでしょう。
実際のドラマでそこまで描かれるかどうかはまだ判りませんが、もし描かれるのなら始めから狂気に満ちた状態で演じると、人間としての奥行き感っていうのがなくなるんじゃないかって・・・。
なので、天皇ではあるけれど、生身の人間の匂いみたいなものは最初からちゃんと漂わせようとしています。まゆげとかもそのままですし、ブリーチもしていないし、髪もトラディショナルですし。メイクもなるべく濃くしないようにして「生身の感覚」というのを大切にキャラクター作りをしました。ここからどんどん変わって行くと思うので。
今の段階で自分と似ているな、とか近いなという部分はありますか?
いやいや、そんな。上皇様ですから(笑)
ひとりの男性というか人間として共感したエピソードがあります。(役作りをするために)坂出を訪ねた時にお寺で伺ったお話ですが、崇徳院があぜ道を散歩しているとお百姓さんが「天皇さん」と言って「さん」付けで声をかけてきて、食べ物を差し出したらしく、そうしたら崇徳院はそれを受け取って、自分が散歩に使っていた杖をお百姓さんに渡したっていうんです。
歌川国芳 作】
そういう話が坂出にはとても多くありました。僕が今まで抱いていた崇徳院のイメージは歌川国芳の浮世絵に描かれた『怨霊』ですね。京都に残された歴史の話というのもやっぱり『怨霊』でした。
天皇家からは煙たがられ、民衆からは怖がられる存在に祭られていました。でも、配流されていた坂出の町で聞いたお話からは崇徳院の人間らしさみたいなものをとても感じて、またそこで魅力を感じました。
天皇を演じるということは、神として存在していなければいけないとか、それが歴史上でも神として残されてきている人だからそうしなくてはいけないとか考えます。でも、いろんな異説を持たれている天皇であるからこそ、いわゆる「王家らしい」、「天皇らしい天皇」という要素と、人間らしさというものをちゃんと同居させて、この作品にしっかり描いていきたいなと僕個人では思っています。・・・そういう所が崇徳院の魅力だと思っています。