特に「孫子」の伝統を持つ漢民族にとっては、軍事力を剥き出しで使うのは拙劣な軍事力の使い方であり、極力戦闘を避けて軍事的威嚇や軍事力を背景にした恫喝、それに欺瞞・買収・篭絡を含んだ情報工作によって「戦わずして勝つ」ことこそ軍事力保有の目的なのである。そして、「戦わずして勝つ」という目的にとって最適のツールが、弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルといった長射程ミサイルなのである。
中国政府が、いよいよ腹をくくって軍事力を用いてでも尖閣諸島や東シナ海の境界線を確定しようと決意した場合には、日本政府に対して中国側の要求を受諾しない場合には上記の長射程ミサイルで各種発電所や石油備蓄施設や石油精製所といった社会的インフラを攻撃する可能性を示唆する軍事恫喝を実施するであろう。
このような長射程ミサイル攻撃が敢行される場合には、「飽和攻撃」といって短時間に100~200発あるいはそれ以上のミサイルが日本各地の戦略目標に向けて発射されることになる(ちなみに、2011年3月の多国籍軍によるリビア攻撃に際して、米英軍は161発の長距離巡航ミサイルによる飽和攻撃を実施した)。
現状では、日本にはそのような多数の長射程ミサイルによる飽和攻撃から国民を守るための防衛能力は存在しない(この実情に関しては次回記述する)ため、実際に攻撃を受けた場合には電力供給をはじめとする日本の社会的インフラは瞬く間に壊滅し、日本は破滅する。
日本の頼みの綱である米軍救援部隊の出動も、中国による恫喝の段階では実現しない。したがって、日本政府が取り得る選択肢は中国の脅迫に屈するのみである(中国の日本に対する恫喝に関しては拙著『尖閣を守れない自衛隊』宝島社新書、を参照されたい)。
日本側は、中国公船による尖閣諸島海域への接近や侵入それに領空侵犯などを騒ぎ立てているが、そのような「目に見える形の威嚇行動」とは比較にならないくらい日本にとり深刻な軍事的脅威は、中国各軍が日本に突きつけている各種長射程ミサイルなのである。
銀河3号の破片が降ってくるかもしれない程度の事態で大騒ぎする日本のマスコミが、日本に突きつけられている中国の東風21型や東海10型をはじめとする各種長距離巡航ミサイルの危険性とそれへの対抗策構築の急務について、なぜ騒ぎ立てないのか? 極めて理解に苦しむところである。
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