高坂切夜によって、バトルネットワーク・オンラインがデスゲームと化した。それから1ヶ月後の話だ。サイトは相変わらずとして、ソロで自らの技術を磨き上げて言っていた。だが、そんな行動できていたのは、サイトみたいな、βテスターが大半であった。初心者はと言うと、これがまた悲惨な話だ。初日でなんと、ウイルス群に突撃して自滅したりするものや、余りに大きく叫びすぎて、精神が崩壊してしまうもの、さらには集団で組を作ってお互いで自分たちの剣を突き刺し、HPが0になるまで待つ。いわば集団自決する者達。そんな状況が、たった一日目で発生した。メニュー画面から、現在でログインしているプレイヤー、つまり生存者の数が分かる。高坂切夜が言ったように、このゲームに最初10万人の人々が囚われていた。そして、ほんの数秒後に家族の人がそのプレイヤーのダイブリンガーを取り外そうとした事で、そのプレイヤーが死んだ。コレだけでも、大体5千~1万人ぐらいが死んだだろう。それを予想しておいて、日を改めて現生存者数を見てみると、なんと残り7万人弱になっていたのだ。最初の1ヶ月で、しかも、エリア1すらクリアしていないというこの状況でだ。
コレによって、プレイヤーは一体どう思うのだろう。考えるまでも無い。クリアできないかもしれない、だ。エリアFまで行き、本当にラスボスを倒せるのか? そんな不安と、果てには、コレで死んだも同然、と、絶望感が襲ってくるだろう。
それは、全プレイヤーにとっては余りよろしくない。それぐらい、皆がわかっていた。だが、それでも思ってしまうのだ。『このゲームは元々クリアできないように作られている』、と。例え、このままエリアをどんどんクリアして行き、エリアFに近づこうとも、それまでに絶対勝てないようなボスが現れる。アニメなんかでは良くあるシナリオだ。強力な敵が現れて主人公もろともが尽く倒されて、見事なバッドエンドを迎えるというものだ。それがアニメの世界や普通のゲームならそれはそれで面白いが、このゲームではシャレにならない。このゲームをクリアしない限り、サイトたちは永遠にこの世界にとらわれる羽目になる。だが、さすがに切夜がそんなことをしていると思えない。リアリティを追求しているのなら、勝てない敵がいるわけが無い。少しでも強く、少しでも強くと、力をつけていけば必ずクリアできるような仕組みになっているはずだ。
それでも、分かっていても人は変わりづらかった。現状に絶望し、死に行く人は後を絶たなかった。
そして、2ヵ月後の今。現生存者数は、5万7234人になっていた。最初のプレイヤー数から半分強だ。なんとしてもこの流れを止めなくてはいけない。
だからこそ、そのためにここにプレイヤーたちが集まっているのだ。エリア1の最後の都市の広場に……。およそ、70人弱のプレイヤーたちが壇上を取り囲むように立っている。その中に、サイトはいた。ある一人のプレイヤーの呼びかけで、エリア1のボスを倒すらしい。サイトは最初、20、30人ぐらいしか集まらないと思っていたが、まさか一人の呼びかけでここまでの人数が集まるとは……。だが、ボスを倒した際のスキルポイントは通常のウイルスを倒すよりも数十倍ぐらい多い。聞いた話によると、ボス一体を倒したら、通常一回10~40ぐらい配布されるカスタムポイントが、獲得スキルポイントの影響で100以上もらったと聞いている。これは、ウイルス130体分前後に相当するので、やはり、ボス戦に参加しておいても損はない。ただ、人数があまりにも多すぎるとボスに止めを刺した際に発生する抹消ボーナスをもらうのに、プレイヤー間の熾烈な争いが発生するのは歪めない。ベータの時もそんなことが起きた。
だからなのだろうか……。ここに集まっているプレイヤーたちは皆、お互いの顔を見るなり、少々苦い顔をしていた。
しばらくすると、全員が取り囲む壇上の上に一人の男性プレイヤーが立った。装備もしっかりとしていて、この中では珍しく丹精に整った顔立ちだ。さらには、アバターを少々改造したのか、髪の毛の色が少々黄色味がかっていた。
「聞いてくれ、皆!」
その男性プレイヤーが全員に呼びかけた。周りにいるプレイヤー全員がその中心に立つ男に注目し、視線を集めた。
「こんなときに集まってくれてありがとう! 俺はレレイド! 今回の件について皆に集合を呼びかけた奴だ!」
レレイド、か……。と、サイトは細く息を吐きながら、自分の胸のうちでその名前を復唱した。一人でも多くのプレイヤーを覚えておこう。そう思っているからだ。いつ死ぬかわからない。そのプレイヤーが死んで、いつか自分がそのプレイヤーのことを忘れてしまったら、可哀相だ……。
「今日皆に集まってもらったのは、他でもない。エリア1のボス攻略についてだ。皆が知っているとおり、今のこのゲームでのプレイ状況は最悪だ。このまま行けば、1年間も持たない間に、このゲームにいる初心者全員が死んでしまう! そうならない為にも、ここでエリア1のボスを攻略することで、この悪い流れを変えて行きたい! だが、俺は無力だ。一人ではボスなんて攻略できるはずがない。だから、こうして攻略プレイヤーに集まってもらったんだ! 皆、この流れを変えるためにも、力を出してくれ!」
その演説染みた、というより、演説そのものであったそれは、どうやら周りのプレイヤーたちを大いに震え上がらせたらしい。手を大きく掲げて「オーッ!!」というどよめきに近い声が響き、サイトの耳を響かせた。真ん中に立つレレイドも周りに引っ張られるような形で、手を掲げ、それから一息ついて口を開いた。
「それじゃあ、5人から4人で一組のバディを組んでくれ!」
「へっ!?」
ついうっかりサイトの口から声が漏れた。その大きさが思っている以上に大きかったのか、周りの視線がレレイドからサイトのほうへと集まってきた。さすがのサイトもちょっと萎縮して集まりから離れていく。
実のところ、バディを誰かと組むに際してはちょっと気が引けるのだ。記憶にも新しい、ゼクトが自分を裏切ったあのことだ。あの時は、何とかなったし、ゼクトとはライバル関係が組めて、むしろ得られる方が多かった。だが、もしゼクトのようにならなかったらと思うと、ちょっと恐い。いや、考えると身の毛もよだつので、基本的には誰ともバディを組みたくないのだ。
ただ、組まなきゃいけないような雰囲気……。
「サイト!」
聞きなれたような声がサイトを呼んだ。こんなざわめいている中で良く聞こえるものだ。と思い、そっちに向いてみた。
赤を基調とする軽装の防具を着て、少々肌が黒く、さらりと髪が肩辺りまで伸びている少年プレイヤーだった。
「ゼクト!」
そう言って、サイトはこちらに向かってくるゼクトへと歩み寄った。
「久しぶりだな、サイト」
「うん、あったのは確か……」
「恐らく1ヶ月ぶりだろう」
ゼクトとバディを組んだ、「はじまりの日」と呼ばれるあの日以降、また1ヵ月後に出会っていた。あの時は最近の事や、お互いのステータスの見せ合いっこだけで、あとは雑談するだけして、また別れた。その日以来から、お互いのユーザーアドレスを交換し、いつでもオートコールやメッセージメールで情報を共有する事が出来るのだが、まさか、そんなこと無しにここで出会えるとは……。
「ゼクトも、このボス戦に?」
「まあな」
と、ゼクトは肩をすくめながら答えた。
「さすがの俺でもスキルポイントが惜しいからな。参加しに来たんだ」
さて、ここで言っているスキルポイント。いまさらながらここで説明しておこう。
スキルポイントとは、いわば経験値である。だが、バトルネットワーク・オンライン(以下《BNO》)では、レベルと言う概念が存在しない。ならば何故ためるのか、と言うと、スキルポイントが一定量たまった時、そのプレイヤーにはカスタムポイントと言うものが与えられる。このカスタムポイントと言うのが重要なのだ。《BNO》には、レベルと言う概念が存在しない代わりに、プレイヤーのステータスや特性を、後に手にいれることが出来る「カスタムプログラム」と呼ばれるもので、カスタムすることができるのだが、このカスタムポイントが低ければ、そのカスタムプログラムが使用できる範囲が限られてしまうのだ。つまり、せっかく強い能力を持っているカスタムプログラムが手に入っても、肝心のカスタムポイントが低かったら装備しようも無いのだ。しかも、エリア9時点で一番強い、と言うより良い能力を有していたカスタムプログラムを装備するのに、なんと600前後のカスタムポイントが必要だった。一体何体のウイルスをソロで抹消すればいいのやら……。
だからこそ何度も言うが、このボス戦が重要なのだ。ゼクトがこの理由でこのボス戦攻略に参加する理由が分かる。
「ま、それはボスを倒しさえすれば問題なしなんだが、どう思う?」
「ん? なにが?」
「あのレレイドと言うプレイヤーだ」
そう言って、レレイドのほうへと首を振るゼクト。サイトはそれに吊られるようにレレイドの方へと向いた。その当のレレイドはもうほかのプレイヤー達と打ち解けたのか、みんなでワイワイと談笑している。こうしてみると、またこの《BNO》がほんとにデスゲームなのかと、本当に思ってしまう。
「こんなボス戦攻略のために呼びかけるなんて、なにかないとは思わないか?」
「ん、どういうことかな?」
「あんな大々的にSNSを通じて呼びかけたんだ。そうすれば、βテスターが食いついてくるなんてこと、予想できるだろう」
「う~ん、彼が初心者だからなんじゃないかな? あのめちゃくちゃな熾烈な争いなんて、最初誰も予想してなかったじゃん」
「うん、確かにそれもあり得るな……」
と、ゼクトは口元を覆うように顎に手を当てて、そのサイトが指摘したもうひとつの可能性を吟味した。
「ま、人数が多い方がフォローが入りやすくて、その分抹消される可能性も減るな」
「そう、思っておこうよ」
と、結局は楽観的な結論に思い至った両者。傍から見たら、考え浅い「バカ」だと言われかねないのだろう。
「おう、ゼクト」
と、ゼクトの背後から野太い男性の声が聞こえ……ッ!
「ッ……」
声よりも姿が目に付いたサイト。サイトの身長なんて優に50センチぐらい超されているだろう。と言うより、ほんとに日本人なのかと言うぐらいの南米人のような顔立ちだ。ガタイも中々にがっしりしている。一体どれだけのパワーがあるのだろうか……。
ここでまた一つ《BNO》の特徴を挙げねばならない。先ほど挙げた体系の指摘についてだ。「体型なんぞただの見た目」と言うのは従来のMMOであったが、《BNO》では、そのアバターの体系と言うのは重要なのだ。例えば、サイトを挙げてみよう。サイトのアバター(と言うより、サイト自身の体型なのだが)の見た目は、どう見ても筋肉質とは程遠い。どちらかと言うと、身軽そうだと言うのが印象。そして、ちっちゃい!! 140前半の身長にしか見えない。また、この問題も大きいのだ。サイトのような体型のアバターの特徴は攻撃、防御、スピード、敏捷、HPのこれらの基礎ステータスのうち、攻撃と防御のステータス数値が低めに設定され、逆にスピードと敏捷の数値が高めに設定されるのだ。さらには、小さい身長のため、ウイルスなどには比較的に見つかりづらいのだ。つまり、スピードで戦って隙あらば不意打ちで敵の寝首を掻き切るというまねが出来るタイプだ。
逆に、いまゼクトの背後にたっている巨体を誇るようなプレイヤーのアバターは、サイトの逆といっても良い。攻撃と防御が破格のステータスなのはまず間違いなし。そしてもって、真っ先にウイルスに狙われるのも間違いなく、この男性だろう。下手すれば、デコイ効果なんかよりも、よっぽど強力な避雷針になってしまうかもしれない。
と言う具合に、この《BNO》では見た目さえも重視されるのだ。だが、それは最初だけ。カスタムポイントをためて自身をカスタムしていけば、攻撃を上げることも可能だし、デコイを付けたいのなら、カスタムプログラムで付ければいい。最後になってくると、その体型の恩恵は薄らいでくる。が、結局は体型分もステータスに加わるので、それを考えたら結論はどっちもどっちになる。カスタムによって、その体型を利用するか、自らの体型のデメリットを補うかを、だ。
「誰と話してんだ?」
と、ゼクトの背後に立っている巨漢プレイヤーがゼクトの顔を見下げた。
「ああ、そういえば、お前にも言ってなかったな。紹介するよ」
と、ゼクトはサイトを指した。
「彼はサイト。俺と同じβテスターだ。それで――――」
と、続いて巨体プレイヤーを指した。
「こっちが、オーノックだ」
と、そのオーノックと呼ばれたプレイヤーは、そうかと言わんばかりに、自分の手の平をポンと一つ叩いた。
「そうか、君がサイトだったのか」
「知ってるの?」
「ああ。ゼクトの口からな。相当の腕利きだと聞いている」
「腕利きって言っても、ただ単にゲームがうまいだけだよ?」
そこで、「そうなの」や「ありがとう」等と言う言葉があったが、サイトはちょっと自虐気味な言葉を選んだ。ゲームは好きだ。だが、それと引き換えに失ってしまった物があるからだった……。取り返そうと思えば取り返せた。だが、
「いや、今この世界ではそのゲームの腕が物を言うだろ? だったら、腕利きっつう言葉合うだろうさ」
見た目に反してやけに流暢な日本語を話すものだ。サイトは、一瞬の違和感を感じた。だが、顔には出ない程度だった。
「で、ゼクト」
「ん?」
後ろから喋りかけてくるオーノックにゼクトはオーノックの顔を見上げた。
「サイトとこうやって顔を合わせたってことは、やっぱりバディを組むのか?」
と、その思った通りの言葉を率直に言ったオーノック。その時にゼクトとサイトは目を見合わせた。そして、ゼクトは口元でうっすらと笑みを浮かべた。
「いや、それは止めておくよ」
「へ、何でだよ。腕利きなんだったら、バディ組んでも損はないだろ? と言うか、得だろむしろ」
「だろうな。だが、俺とサイトは約束したんだ。バディは組まないってな」
と、ゼクトがサイトへと目配せをして来た。それはつまり、「そうだろ?」と言うメッセージなのだろう。サイトでもそれぐらいは読み取れた。
「そうだね。一応約束だから。ボクとゼクトはライバル。ま、ホントに組む時が来たら組むだろうけどね」
「そういうことだ、オーノック。俺たちは他の奴でも探そう」
と、ゼクトは背を向いてオーノックの横を通り過ぎ際に彼の太い筋肉質の腕を叩いた。そうしてオーノックは半ば呆れ気味で小さく笑みを浮かべながら鼻から小さくため息を吐いた。
「君とバディを組めないのは非常に残念だ」
「ゼクト放っといて、僕と組んだらいいんじゃない? それぐらいあなたの自由のはずだよ?」
そんな真っ当ごもっとも。そして、心なしの意見を言ったサイトに対して、一息を置いてオーノックは言った。
「確かにそうだが、俺はゼクトに恩があるからな。彼を一人にしておくことはできない。借りを作りっぱなしなのは、俺の性には合わないんでな」
と、「じゃあな」と言い残し手を掲げて見せてゼクトの方へと歩いて行った。当のゼクトはまたほかのプレイヤーと話を始めている。と言うより、すごく仲が親しそうだ。サイトの気づいていないところで、どうやらゼクトは人脈を増やしていたらしい。悔しいかな、悲しいかなとサイトは一瞬だけ寂しさを感じた。なにせ、当のサイトは自身のカスタムポイントを貯めるためにもウイルスを倒しまくっていた。人脈造成無視してまでで貯めたカスタムポイントは今では110ポイントだ。エリア1時点では上々の貯蓄量だろう。だが、人見知り度は日増ししていく一方だが……。
「あれ?」
サイトはある一つのことに気づいた。
(ボク、もしかして一人ぼっちなのかな?)
そう思ったとおりだった。パッと見ただけでもゼクト含む他のプレイヤーたちは既に5人4人3人一組のバディを組んでいる。どっからどう見てもサイトだけ浮いている。一人ぼっちだ……。
(やっぱ今回のボス戦はボクだけソロなのかな……)
と、なんとなく哀愁の感を感じているサイト。ちょっと泣いていい? なんて思いになってしまう。今からゼクトのほうへと行って、残り一人のところを埋めてもらおうかなと一瞬思ったが、さっき断っといてやっぱり入れてなんて無様な真似はさすがにできない。だったらどうしろというのだろうか。そう思いながらぼんやりと歩き回っていると、サイトの視界の中にサイトのように独りぼっちプレイヤーがいた。パッと見ではサイトと同じ体型ぐらいのプレイヤーなのだろう。座っているのだから全然見分けが立たない。何せ深くフードを被っていて、顔がまず見えない。この世界に一人も女がいないとは限らないし、βテスターの中に女がいたかいなかったかなんて、一々サイトは気にしてなんかいない。
とにかく、ここで一人ぼっちになるのは嫌な小心者サイト。誰でもいいからバディを組んで欲しかった……。
「あの……」
と、弱々しい声でそのプレイヤーの前にたって、喋りかけた。人見知り度爆発している事は、何処から傍から見ても分かる。
「なに?」
と、返ってきた声は、ゼクトのような少年の声でもなければ、サイトのような透き通るような声でもなかった。だからといって、オーノックのような野太い声な訳が無かった。
(お、女の子? まさか……)
後でサイトはしまったと、思い浮かべた。これはこれはこれは、まずい。非常にまずい。相手が自分と同じぐらいの歳の少年プレイヤーならまだしも、まさか自分と同年代であろうと言う女性プレイヤーと出くわしてしまうとは……。人見知りサイト君からしたら、ハートビートが激しくなっていく事極まりない。しかも、下手をしたらハラスメントコードさえ出かねない……。もし、それが出たらどうなるか……。オフィシャル、つまりこのゲーム内で言う警察が現れ、あえなく御用にされてしまう。そうされれば、今までためてきたカスタムポイントや装備などが全てチャラになる。残るは強化したステータスだけだ。そうはなりたくない。
「あ、あのさ……」
「…………」
人見知りが始まってしまったサイトはついうっかり言葉を詰まらせた。そんなサイトの様子に全く気にしていないのか、ただ、俯いて顔を見せてくれないうえ、なにも言葉を返してくれない。何を考えているのかがさっぱり分からない。はっきり言うと、非常にやりづらい……。
サイトの心の中では、変なものが渦巻いているような感覚があった。だが、サイトはそれに気も止めずに次の言葉を言った。
「一人だったら、ボクとバディ組まない? ボス戦の間だけでいいからさ」
「…………」
返事して欲しいと、本心から思った。ただ思っただけで口からは言わなかった。と言うより、彼女の体中から発せられるような威圧がそうはさせてくれなかった。サイトはこの時、次彼女が開く言葉は「嫌だ」と言う事を予測していた。いや、そう予測せざるを得ないような状況だ……。
「嫌だ……」
「…………」
そして、見事に当ててしまった。これはもうシャレにならない。困ったものだとサイトは思った。コレは、本気で無様格好覚悟でゼクトに頼み込まなければいけないかもしれない。
そう思うと、大きく溜め息が吐き出された。
サイトは、ちょっと落ち込み気味に顔を俯かせながらとぼとぼと歩き離れようとした。傍から見たら失業したばかりのサラリーマンのよう……。
「でも……」
「ん?」
と、ボそりと呟くような彼女の声が、サイトの耳に入り、サイトの意識を現に戻した。
「組まなきゃいけないんだったら、組む」
と、彼女の口からサイトが聴いた言葉の中で一番長いその言葉と共に、彼女はその目をサイトに向けた。その目は、澄んだ栗色をしていて。その瞳は…………。
「たか……と?」
その瞳は、余りにも、双子の弟に似ていた。
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