「バトルカード、ショットガン!」
サイトの腕に筒状の青い銃口が装着された。そして、その銃口を目の前で動き回るマウスンへと向ける。そのマウスンの目は何か鋭く光っているように見えた。攻撃をグレイズポイント判定にしてしまい、ネズミ型のウイルスである「マウスン」を怒らせてしまったのだ。
グレイズポイント判定とは、他の言い方をすれば「カス当たり判定」だ。ショット系やソード系統の攻撃がウイルスに当たる際、その攻撃がしっかりとウイルスを捉えられなかったとき、通常与えるダメージ数値が減数されるのだ。ダメージの減数は攻撃の掠り方による。例えばその攻撃がギリギリ直撃せずの場合は、通常ダメージの10%が減数されることもあるし、ほとんど当たってないというものであれば通常ダメージの95%が減数されるなんてこともある。マウスンのHPは120であるから、なかなか一撃で仕留めるなんて事は出来ない。なので、エアーシュートという攻撃力20のバトルカードで攻撃した。なぜならエアーシュートには、直撃した敵に1秒間の遅延を与えるからだ。それが直撃すれば、動き回るマウスンの動きを止めることが出来る上、そこからさらに反撃を与えることができる。弾速も早く、扱いやすい。
それを狙ったサイトは照準を定めてエアーシュートを発動させた。先も言った通り、BNOにはオートロックオンなんていう便利機能は存在しない。ソード系やチャージスラッシュなどはシステムアシストが勝手に動きを補正するだけであって、狙った場所に確実に当てられるかはプレイヤーの腕次第。だが、ショット系のバトルカードやチャージショットなどはシステムアシストの動きの補正すらない。なにせ、構えて撃てばいいだけの話なのだから。それを承知で遠隔攻撃重視の戦法を取るプレイヤーは決して少なくはないが、確実に大きなダメージを狙い、高リザルトを得たいのなら、「やっぱ近接攻撃だろう」などと考える者が比較的に多いので、大概のプレイヤーは近接攻撃重視の戦法を取るのだ。
話を戻そう。つまりサイトは「動きの補正が掛かるソード系のバトルカードを使うよりも、エアーシュートを使ったほうが確実に倒せる」と、判断したのだ。それでどうであろうか……。遅延を与えるどころか、マウスンを怒らせる始末……。マウスンはバトルカードの攻撃で一気に15以上のダメージを受けると、プレイヤーの間で「怒り」と言われる状態になるのだ。そして、サイトが放ったエアーシュートのグレイズポイント判定によって、20与える筈のダメージが16になってしまったのだ。1ポイントだろうがなんだろうが、とにかく15ダメージを超えてしまった。マウスンは、しっかりとシステムに従い怒り状態になってしまったのだ。こうなってしまったら非常にややこしい。攻撃力は上がる上、動きまで速くなってしまう。最弱種のウイルスにして、最強種のウイルスとは、マウスンのようなウイルスを指すのだ。
怒り状態になった後も自分の装備しているロングソードでいくらかダメージを与えて、今ようやくマウスンのHPが46になったところだ。チャージセイバーで落とすか、それともロマンを求めた倒し方をするか……。
その結果、サイトは後者を取った。
今からサイトがやろうとしていること。それは「カウンター」だ。
カウンターとは、BNOのバトルシステムの内の一つに属するシステムだ。その名の通り、敵が「今ここで攻撃する」という瞬間にバトルカードの攻撃をヒットさせると、そのカウンターを受けた敵に7秒間のストップ効果を与えるというものだ。7秒間もあればこのエリア1内のウイルスなんかただの連続切りだけで大体はデリートすることができる。
便利なシステムなのだが、何せ決めるのが難しい。
相手が攻撃する動作のタイミングはわずか0.001秒間。1000分の1秒の誤差も許されない。さらに、ダメージを与えるバトルカードを発動した瞬間、そのプレイヤーには基本0.7秒間の遅延が課せられる。もし、攻撃が早いソード系統でカウンターを狙うと言う者が居ると言うのであれば、そのプレイヤーはかなり度胸が強い者であろう。カウンターを失敗すればもう後はウイルスに攻撃をヒットさせられること間違いなしだ。しかも、先にも言った通りソード系のバトルカードには動きにシステムアシストが働くので動作の時間帯も計算内に入れておかなければいけない。と言う訳なので、カウンターを決めるにはやはりショット系統などの遠隔攻撃。しかも弾足が速いものに限りので、「ショットガン」等の威力が低い反動が小さいものだ。これはすぐに攻撃に転じて大ダメージを狙うためでもある。いや待てよ。結局は遅延が発生するのだから、威力の高いバトルカードを使えばいいのではないか。確かに、バトルカードを発動した際、0.7秒間の遅延が発生する。それはもちろん、ショット系のバトルカードであっても例外ではない。ただし、ショット系のバトルカードには、「キック判定」という物がある。つまり反動だ。
今後の自身の育成によっては全てバトルカードの遅延を基礎時間である0.7秒にすることはできる。ただし、そう言った育成をしなかった場合、ショット系のバトルカードの遅延時間に、さらに「キック判定」が重なる。反動が弱いと遅延は短くなる。逆に反動が強いと遅延は長くなる。反動が強い弱いのの見分け方は、所持しているバトルカードの「ライブラリ」、つまり図鑑を見れば分かる。そこには、バトルカードの説明が載っており、ショット系のバトルカードには説明の最後に「反動が弱い」や「反動がとても強い」と言うように、反動について明記されている。「反動がとても弱い」であると、そのショット系のバトルカードの遅延時間は、0.1秒。「反動が弱い」であると、0.3秒。何も明記されていないようであれば、通常通り0.7秒。「反動が強い」であると、1.0秒であり、「反動がとても強い」であると、1.5秒にもなる。さらには、「殺人的な反動」となると、5.5秒。完全にノーガード状態になる。「反動が無い」だと、遅延時間は0.0秒。つまり遅延は無いのだ。こうであるのなら、反動が無い物ばかりを選べばいいのではないかということになるが、それは浅はかな考えだ。何故なら、ショット系のバトルカードは反動が弱ければ弱いほど威力も弱くなる傾向にあるからだ。サイトがグレイズ判定で棒に振ったエアーシュートには反動がない。つまり、遅延が課せられないのだ。ただし、その威力は先も言った通り20しかない。今目の前にいるマウスンにとっても20と言うダメージなんて物は、掠り傷程度にしかならないのだ。逆に、いまサイトが使えるバトルカードの中で一番威力が高いショット系のバトルカードである「キャノン」は威力は120と、序盤にしてはなかなかに高い攻撃力だが、ライブラリでに説明には「反動が強い」と明記される。
このように、ショット系のバトルカードを自身の山札に当たる「フォルダ」に組み込む際は、そう言った事を考慮しながら組み込まなければならない。
ロマンを取ったサイトが今やろうとしているカウンター。今、自分の手札にエアーシュートはない。なので、今手札の中にあるショット系で反動が比較的に弱いバトルカードは、「ショットガン」という攻撃力30の物であった。反動は弱いので、課せられる遅延は0.3秒間。もし、このショットガンでカウンターが決まれば、マウスンには7秒間の遅延が課せられる。サイトに課せられる遅延は0.3秒間であるから、残り6.97秒間はサイトの思うがまま。煮ろうが焼こうが、後はサイトの好き放題だ。
いつまでものショットガンが持つだろうか……。そんなことを心配している訳もなく、サイトはただマウスンに注意を向けていた。
その時、動き回っていたマウスンの動きが止まった。それは、攻撃の合図。立ち止まったマウスンはサイトの方へとその体を向け、鋭い眼光をサイトに突き刺す。そして、口から爆発する固形物を吐きだ――――ッ!
「ッ!!」
声にも息にも出ない気合を吐き、サイトは構えていたショットガンをマウスン目掛けて発射した。
フシュンッ! という小さな射撃音と共に構えたショットガンからエネルギー弾が飛び出す。だが、それを目で見ることは出来ない。なにせ、ショットガンで飛び出されるエネルギー弾は高速で飛び出ている……らしい。なので、目で視認することはできない。ただし高速というだけあって、ちゃんとサイトが狙っていた通りのことを起こしてくれた。マウスンが固形物を口元まで持ってきた瞬間、サイトが放ったショットガンがマウスンへと直撃した。口元でその固形物が消滅し、ショットガンの攻撃を受けたマウスンは、「クチュチュッ!?」という突然の攻撃に驚いたような鳴き声を上げてその体を仰向けに倒し、短い手足をピクピクと痙攣させていた。そして、マウスンの体が黄色い点滅のエフェクトに包まれる。それは、サイトがしっかりとカウンターを決めたことを意味していた。
「よしッ!」
遅延が解けたサイトはすぐさま自分の手にロングソードを具現させ、動きを止めているマウスンへと駆け寄った。そして、自分の手に握っているロングソードを無防備なマウスンへと振り下ろした。その際はしっかりと通常ダメージである20のダメージが与えられ、残りHPが16であったマウスンを抹消した。そして、その場に映し出されたリザルトをみやった。時間をかけすぎた。あまりにも散々な結果にちょっと頭が痛い。
「ふぅ……」
と、サイトが細い息を吐くと、急にお腹がなりだした。そういえばもうすぐ昼過ぎかと思いながら、サイトは自分の手に握っているロングソードを一振りし、消滅させた。
「もうすぐお昼取ろっと……」
半ば、うなだれるような形でサイトは自分の視界右上端に映るメニュー画面を開くポップアップをタッチした。
その瞬間、サイトの運命は転化した。
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