コラム:「アベノミクス」の2つの長所と2つの課題=熊谷亮丸氏
第一に、現時点で「アベノミクス」は、公共投資や金融政策などのカンフル剤が中心となっている。しかし、中長期的に経済成長力を高めるためには、規制緩和や環太平洋連携協定(TPP)参加などの構造改革への取り組みが不可欠である。
とりわけTPP参加は、貿易・投資活性化によるイノベーションの活発化を促す効果が期待できる。「臥龍(がりゅう)企業」(戸堂康之・東京大学教授の命名)とも呼ばれる日本国内で活動を続けてきた企業を中心に労働生産性が向上すれば、最終的に日本経済にとって100兆円規模の経済効果がもたらされる可能性もあるだろう。
法人税減税や成長分野の投資減税、さらには起業を促す環境整備なども必要である。こうした施策を通じて、日本経済の体質を改善できなければ、株高・円安は一過性のものに終わることが懸念される。
第二に、財政規律を維持することが重要なポイントである。
現在、自民党は「国土強靭化計画」を掲げ、10年間で200兆円とも見られる大規模な公共投資を実行する方針だ。橋梁、道路、港湾などのインフラは、通常50年程度で更新の時期を迎える。したがって、日本では1960年―70年代に造られた大規模なインフラが2020年代にかけて本格的な更新時期に差し掛かる。
確かに「国民の生命・財産の保護」は国家にとって最も重要な仕事である。しかし、「安心・安全」の美名の下に、無駄な公共投資がなし崩し的に行われれば、経済効率は低下し、財政赤字が積み上がってしまう。
大切なことは、国民の生命・財産を守るために不可欠な公共投資と、その他の公共投資を峻別して議論することである。前者については、投資効率が少々悪くとも行う必要があることはいうまでもない。他方で、後者に関しては、費用対効果の観点から経済的な効率性を厳格にチェックした上で、ピンポイントで行うべきである。
現在、国内債券市場では、20年債、30年債といった償還期限の長い債券の価格が大きく下落(=長期金利は上昇)している。その理由は、金融市場参加者が、「アベノミクス」を通じて財政規律が失われることを警戒しているからである。 続く...