白華の檻 〜緋色の欠片4〜
秋房 「ええっと…… 空疎尊「小僧。貴様の言っていたもの、 秋房 「おお! 本当に運んで来てくれるとは! 空疎尊「ほお? 秋房 「わあ、ダメだダメだ! 空疎尊「玉依姫を……?」 古嗣 「――おや、そうだったのかい? それは僕も知らなかったな。 胡土前「はっ、お前は朝弱すぎんだよ、古嗣。 古嗣 「絹糸みたいな、って例えは普通、 秋房 「というか、胡土前殿から見たら 胡土前「ん? あー、ははは。 空疎尊「ふん、貴様らの肉体談義などどうでもいいわ。 秋房 「言われなくても、元からそのつもりだよ。 古嗣 「なんだい、秋房。 秋房 「ああ、あいつには【役】を頼んでいるんだが……」 胡土前「役ぅ? なんだそりゃ――ん? 空疎尊「なんだ、なにをそのように……――!?」 幻灯火「――皆、すまない。遅くなってしまった」 秋房 「おお、よく来た幻灯火!」 古嗣 「げ……幻灯火? 胡土前「な、なんだどうした!? 幻灯火「いや、これは……」 空疎尊「全く、手間をかけおって阿呆め……こちらへ来い。 幻灯火「そうではないのだが……」 古嗣 「空疎、僕も手伝うよ。 幻灯火「…………むぅ」 秋房 「待て待て、そうじゃないって! 胡土前「んんん? ……おお、本当だ。 古嗣 「変装……というわけではないよね? 秋房 「その通りだ! 空疎尊「狐が白ヒゲを付けたところで、なにがある――というわけでもあるまい。 秋房 「当然だ! 智則から聞いたんだ! 間違いあるはずがないだろう!!」 胡土前「あ、なーんだ。 古嗣 「ふふ、そうだね。僕も同じくだ」 空疎尊「……っち、言蔵の小僧か。ならば間違いはないか……」 秋房 「あれ!? 俺はいま喜ぶべきか悲しむべきか、どっちだ!?」 幻灯火「――それで、秋房。 秋房 「あ、ああ! そうだったな!」 胡土前「なー秋房、それで結局これはどういうことなんだよ? 秋房 「あ。は、はい! 空疎尊「ふん。さっさと話せ、愚図め」 古嗣 「はいはい、秋房も空疎も落ち着いて。ね?」 幻灯火「秋房、話を優先するべきなら私は構わぬ。 秋房 「あ、ああ……わかった。 古嗣 「不思議な響きだねえ。 胡土前「栗酢升……? 空疎尊「知らぬ」 幻灯火「もちろん、私も今日まで知らなかった。 秋房 「ん? 季封への手紙に書いてあったそうだ。 胡土前「なんでえ、又聞きの又聞きかよ。 古嗣 「まあまあ、いいじゃないか。 秋房 「それでな? 胡土前「あー、それで鴉がガラクタを山のように…… 秋房 「が、ガラクタって言わないでくださいよ! 仕方ないじゃないですか! 空疎尊「理解出来ぬな…… 古嗣 「はは。なんともすごい絵面になりそうだ」 秋房 「いや、それが馬鹿に出来ないんだ」 古嗣 「……と言うと?」 秋房 「ああ。 胡土前「おいおい、爺さんの一人歩きかよ。 秋房 「い、いや、まあそれはそうかもしれないんですが……」 古嗣 「はいはい、続きをどうぞ」 秋房 「なんとその翁、只者ではないらしい。 幻灯火「なんと面妖な……」 空疎尊「物の怪の類か……? 秋房 「しかも格好は――……ええと……あ、あった。幻灯火、これ! 幻灯火「む、承知した」 古嗣 「おおー……これはまた鮮やかな朱色だねえ」 空疎尊「目の覚めるような色だな」 胡土前「で? この羽織がなんだってんだ、秋房」 秋房 「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!! 幻灯火「…………」 胡土前「へえー……! 妙ちくりんな格好をした爺さんもいたもんだなあ」 古嗣 「顔を覆うような白ヒゲに、鮮やかな朱の羽織…… 秋房 「いや、その解釈は間違っていないかもしれないぞ」 古嗣 「そうなのかい?」 秋房 「ああ、なにせその翁は空を駆けることもできるらしい!! 幻灯火「……私は出来ないぞ?」 胡土前「とんでもねー爺さんだな…… 空疎尊「ふん、阿呆が。 幻灯火「…………」 秋房 「あとこの宴には、 古嗣 「へえ、言葉遊びのようなものなのかな? 空疎尊「それで、その言葉とは?」 秋房 「えっと……な、なんだっけな。 胡土前「おい、すんげえ物騒な爺さんに早変わりしたぞ」 幻灯火「…………」 古嗣 「そ、その言葉を聞いてから幻灯火をみると、凄く怖いね……」 空疎尊「やはり物の怪の類であったか……」 胡土前「おい幻灯火、お前ちょっと今の言葉、言ってみ?」 幻灯火「……えらい苦しめてやる」 胡土前「こわっ!!」 古嗣 「うん、間違いなく物の怪だね。 空疎尊「ちぃ、狐ほどの力をもった物の怪か……面倒な」 幻灯火「まるで私がその翁そのものような扱いだな……」 秋房 「あ、違う!! 思い出したぞ! 『めりー・くりすます』だ!!」 胡土前「似ても似つかねえじゃねえか……」 秋房 「き、聞きなれない言葉だからですよ!!」 空疎尊「それで、その翁が訪れるという宴…… 古嗣 「となれば、当然理由があるだろう――ってことだね。 秋房 「ああ、それはだな――その……」 幻灯火「何か言いづらい内容なのか?」 秋房 「いや、言いづらいわけでは無いんだが、 胡土前「いーからいーから、ちゃちゃっと言っちゃえよ」 空疎尊「蛇の言う通りだな。時間の無駄だぞ、小僧」 秋房 「わ、わかったよ…… 幻灯火「そうだったのか…… 秋房 「うん……――うん!? 何言ってんだお前は!?」 空疎尊「ほう……想い人とな? 秋房 「うぐ……!?
胡土前「おお、珍しい……秋房が隙の無い言葉で切返しやがった……」 古嗣 「ふふ、胡土前はいいのかい? 『姫さんは俺のもんだー』とか言わなくて」 胡土前「あん? 今更姫さんへの想いが、誰かに負けてるなんて思わねえよ。 古嗣 「ご名答、参ったね」
幻灯火「ふむ……となれば、彼女がこの場に来たとき誰がいち早く 胡土前「いやでもよ、姫さんはそんな言葉知らねえんじゃねえか?」 秋房 「いえ、こちらに向かう前には、 空疎尊「ふん、ならば話は早い。 古嗣 「おや、奇遇だね空疎。 幻灯火「皆、無駄なことはよせ。 胡土前「…………いやあ、お前の場合は……」 秋房 「いつもと格好が違いすぎて――」 古嗣 「顔も隠れてるし、 幻灯火「――――――!!!!!!」 空疎尊「阿呆の極みだな……」
智則 「――以上が、今宵の宴の説明となります。姫」 詞紀 「ふふ、楽しそうなお祭り。――ねえ、智則?」 智則 「はい。いかがなされましたか?」 詞紀 「めりー・くりすます。ふふっ」 智則 「!? え……え、あの、姫。 詞紀 「ええ、もちろん聞いていたわ。 智則 「で、でしたら、なぜその様な……私にまで――」 詞紀 「だって私は、皆を愛しているもの」 智則 「…………あ」 詞紀 「だから、今日村の皆に言って回ろうと思うの」 智則 「……ええ。とてもよいお考えかと」 詞紀 「幻灯火様たちにもしっかりと伝えなきゃね。
おわり |
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