東海地方に住む自営業のAさん。
去年、ある知人から耳を疑うような投資話を持ちかけられたという。
<出資者のAさん>
「出資額に対して、毎月5パーセント出しますと。それがやはり凄いなと思いました」
この時代、毎月確実に5パーセントという夢のような配当。
最終的にAさんは、総額1,000万円を投資した。
<出資者のAさん>
「毎月、配当が入るものですから、追加をどんどんしてしまった」
投資先は、「スピーシー」という大阪の会社で、ある賭け事をベースに資金を運用しているという。
それは…
「ブックメーカー」。
イギリス政府公認の賭け業者のことで、ヨーロッパを中心に数多く存在する。
賭けの対象は、スポーツから選挙やお天気まで幅広い。
倍率は刻々と変動し、業者によっても違う。
夏のオリンピックでは、ボルト選手に一時、1.67倍がついた。
当初は不安を覚えたAさん。
だが、「スピーシー」側の巧みな説明で信用していったという。
<出資者のAさん>
「筋が通っているなと思いましたね。論理的に説明できたので、まあ、こういう投資もあるのか、という感じでした」
「スピーシー」の説明はこうだ。
例えば、サッカーのイタリア対イングランドの試合で、賭けを主催するX社とY社のオッズが、異なったとする。
X社ではイタリア、Y社ではイングランドの掛け率が高い。
2万円の元金で、それぞれ掛け率の高い方に1万円ずつを賭ければ…
イタリアが勝つと、X社から2万3,000円が払い戻され、3,000円の利益だ。
反対にイギリスが買ったとしても、Y社から2万2,000円が入り、2,000円の利益。
どちらが勝っても、必ず利益が出るという訳だ。
これをビジネスとして立ち上げたとされるのは、「スピーシー」と密接な関係にあるとされるK氏。
<K氏・レコーダー>
「皆さん、『スピーシー』って聞いたことあります?聞いたこと無いでしょうか?ゼロ?」
これは、今年1月、東京で開かれた説明会。
K氏が、参加者に「ブックメーカー」投資の魅力を語る。
<K氏・レコーダー>
「ここで問題です。私は幾ら使ったでしょうか?」
<参加者>
「2万円」
<K氏>
「正解です」
「ということは、2万円使ったお金に対して、返ってきたお金はいくらですか?」
<参加者>
「2万3,000円」
<K氏>
「ということは差し引き?」
<参加者>
「3,000円」
<K氏>
「そう、利益出ますね。ありがとうございます」
指定された口座に金を振り込めば、香港にいる3,000人のスタッフが運用し、必ず儲かると胸を張るK氏。
<K氏・レコーダー>
「これ皆さん、ほんまやったら仕事します?」
「こんなんがあるんですって、嘘みたいなホンマの話」
「元本保証。高額配当」をうたい文句に、説明会は各地で行われた。
勧誘の中心となったのがK氏ら。
投資者が新たに勧誘すれば、その配当の一部を受け取ることができるという制度を取り入れ、全国およそ6,500の法人や個人から実に360億円を集めたという。
そんな中、今年5月。
突然、出資者への配当が停止されたのだ。
スピーシーからAさんのもとに届いた文書。
「経済活動に多大な影響を及ぼした、円高ドル安による為替の変動が当社を直撃し、皆様にもご迷惑をかけております」(お詫び文)
配当停止の原因は、急激な為替変動と書かれている。
その後、多くの出資者が元金の返還を求めたものの、大半は返還されていないという。
為替変動が原因なのか。
「マル調」は、会社の事情に詳しい出資者から話を聞くことができた。
<会社に詳しい人物・電話>
「皆さんが入れられたお金を配当に回していたという、ある意味、自転車操業にある時期からなっていたみたいです」
出資者によると、去年秋頃から出資金は運用されずに、そのまま配当に回されていたというのだ。
<会社に詳しい人物・電話>
「5月8日に配当が払われる日だったんですね。その日のコミッションを払えないというのが、当然5月7日に分かってたらしいですが、その時にあったお金は、21億円だと言ってました」
出資者から相談を受けた弁護士は、「そもそも、『ブックメーカー』で巨額な資金は運用できない」と指摘する。
<荒井哲朗弁護士>
「多くの場合には、怪しい取引があったら取引を停止したり、あるいは、すでに約定が成立しても、キャンセルベットといいますか、キャンセルすると、数百億とも言われる資金を運用していくのは、不可能だと思います」
つまり、特定の対象に偏って巨額の資金が一気にかけられると、「ブックメーカー」にとって、莫大な損害が出る可能性もある。
このため、「ブックメーカー」側が取引自体を停止することもあるというのだ。
出資金は、「ブックメーカー」で運用されていたのだろうか。
「マル調」は真相を確かめるため、「スピーシー」の本社を訪れた。
<スピーシー・インターホン>
「すみません、お話できるのは、全額返済にむけて動いているということだけですので」
<マル調>
「実態があったのかどうか?運用の仕方については?」
<スピーシー>
「弁護士の方から、そういう風に言われてますので」
「コメントできるのは、全額返金に向けて動いております、ということだけですね」
責任者がいないため、これ以上のことは話せないと繰り返す担当者。
そして先月、「マル調」は、説明会で勧誘していたあのK氏に接触することができた。
「ブックメーカー」で出資金を運用し、「必ずもうかる」とうたい、全国の顧客からおよそ360億円を集めたとされる、大阪の投資会社「スピーシー」。
<K氏・レコーダー>
「これ差し引き、280万の利益、1日で。これ皆さん、ホンマやったら仕事します?ふはははは」
だが、今年5月、配当を突然停止。
出資金の大半を返済せず、解約にも応じないという。
<出資者のAさん>
「意図してやっているのであれば、犯罪ですね」
出資金は、どこへ消えたのか?
「マル調」は、「スピーシー」と密接な関係にあり、投資勧誘していたK氏を直撃した。
<マル調>
「集めたお金はどこに行ったんですか?」
<K氏>
「ほんと、お願いしますよ」
<マル調>
「どこに消えたんですか?」
<K氏>
「私は知りません」
<マル調>
「『ブックメーカー』で運用してたというのは本当ですか?」
<K氏>
「あのー、ちょっと勘弁してください」
<マル調>
「運用していたのは本当ですか?返ってこない人がいるんですよ」
<K氏>
「ちょっと、それはお願いします」
<マル調>
「全額運用していたんですか?」
<K氏>
「ちょっと取材は・・・ お願いします、すみません」
<マル調>
「たくさんの方がお金が返ってきていないっておっしゃってるんですよ」
「何に使われていたか、ご存じないのですか?」
<K氏>
「運用されていた、と私も思ってました。それは事実です」
出資金は、運用にあてられていたと話すK氏。
<マル調>
「今でも思ってらっしゃるんですか?」
<K氏>
「ちょっと、それは…」
<マル調>
「全て『ブックメーカー』で運用されていたと思ってらっしゃる?」
<K氏>
「はい、そう思ってました」
最後まで、「運用されてると思っていた」と繰り返した。
「ブックメーカー」投資の被害が、全国で広がりを見せる中、今年8月、Aさんを含む43人が裁判を起こした。
「破たんすることを予測しながら、資金集めをした」として、「スピーシー」やK氏を含む幹部らに対し、総額2億9,000万円の損害賠償を求めたのだ。
Aさんは今、後悔の念にかられている。
<出資者のAさん>
「投資は自己責任とはいわれるんですけど、お金が無くなってしまったので、ちょっと生活が厳しい状態になってしまっているんですけれど、ちゃんとした説明と、あとはできる限り返金に応じてもらいたいです」
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